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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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貴族娘の行方 後編

~豊の屋敷~

12月のある日、柚子は豊さんに呼ばれて、深夜前にリビングに来ていた。


昨日からまた紫竜たちが来ていて、豊さんは昨日も今日も紫竜に同行しており、ほとんど屋敷に居なかった。


柚子は今回は豊さんのお供は命じられず、屋敷内で過ごしていたけど、もしかして明日はお供させてもらえるのかな?



柚子は期待してリビングに来たけど、全員が来ていた。


戦闘員兼侍女の牡丹(ぼたん)さん


豊さんの側近の陽助(ようすけ)さん


戦闘員兼庭師のサクさん


料理人のかすみさん


だ。


ここは豊さんの私邸で、豊さんが選んだ最小限の部下しか住んでいない。

サクさんの部下が何人か日中は出入りしているけど、彼らは北都で所帯をもっているそうで夕方になると自分達の家に帰っていくらしい。



かすみさんは、解放軍幹部の陶矢(とうや)さんの紹介で先週この屋敷にやって来た。


戦闘員の経験はなく、長年町に潜伏して連絡係として働いていたらしい。

 かすみさんの料理はとても美味しいし、子ども慣れしていて陽助さんの娘の陽菜(ひな)ちゃんの世話もしている。ごく普通の、家庭的な女性という感じだ。


牡丹さんは、かすみさんは陽助さんの後妻になるだろうと言っている。



「ただいま・・・」


豊さんが疲れた顔で帰ってきた。


「おかえりなさいませ。遅かったですね。」


陽助さんが豊さんの正面に座って話しかけたので、柚子たちもリビングのテーブルあたりに集まって座った。


「日が沈むまでは紫竜たちと町で娘探しさ。今日も雹が酷かった。なんであんなでかさの雹が降るんだよ!?

夜は晩餐会でやっと帰ってこれた。」


「まだ見つからないんですか?貴族の娘は?」


「ああ。紫竜たちの鼻でもダメだとさ。まだ町の五分の一も探せてないが、無謀すぎるだろ!

というか娘はもう死んでるかもしれない。死体になってたらもう無理だ!」


豊さんがこんなに愚痴るのは珍しい。



「豊さん?愚痴聞かせるためにおれらを集めたんですか?」


サクさんが不機嫌な顔で尋ねた。



「あ~わりい。もう俺は手詰まりだ。お前たちの知恵を貸してくれ。」


「は!?知恵?」


「貴族の娘は一人じゃ脱出できない。協力者がいるはずなんだ。獣人だけでなく人にもな。

怪しいのは見張りの兵士か北開だ。」


豊さんはそう言って、貴族の娘が失踪した前夜のことや、紫竜たちが兵士と北開を尋問した結果を教えてくれた。



「は!?夜に女の部屋に行った?絶対に襲ってるでしょ?貴族の男もしょーもない。」


最初に口を開いたのは牡丹さんだ。


「いや、それはない。ベッドにも室内にも血はなかった。それにさすがに娘の悲鳴が聞こえたら兵士が報告するはずさ。」


豊さんは否定するけど、


「え?血って北開が貴族の娘を殺したかもってことですか?」


柚子は話についていけない。



「違うわよ。貴族娘は結婚するまで処女らしいから襲われたら股から血が出るって話」


牡丹さんの指摘に柚子は自分の質問が恥ずかしくなった。



「そういうことだ。あの娘は未婚だったし、口だけは達者だったから黙って襲われるはずがない。

だが、北開が下心なしに会いに行くはずもない。裏取引をしたはずなんだ。だけど逃亡の手助けはしてないという話に嘘もない。

北開の隠し事を暴きたいんだ。」


「拐って拷問しては?」


サクさんが物騒なことを言い出した。



「無茶言うな。あいつには紫竜の縁談相手になってもらうんだ。殺せない。」


「え!?てかまだ決定してないんですか?」


陽助さんは呆れている。



「北開のやろう!土壇場で怖じ気づき始めてんだ。紫竜からは今月中に決めろって言われてるからもう今から代わりは探せないんだよ!」



豊さんがキレた。


北開が紫竜の女と政略結婚しないと、代わりに豊さんが結婚させられるらしい。



「いや、そりゃ竜礼?の態度見たらそうなりますよ。あれ演技じゃなくホントに豊さんに惚れてましたもん。」


牡丹さんは先月、豊さんを夜這いしに来た?竜礼に会って相当牽制されたらしい。


牡丹さんはかなり怖かったそうだ。



「うるせえ!俺は絶対に嫌だよ!

政略結婚なんざ貴族の仕事だ!」



「豊さーん。今は北開と娘の裏取引でしょ?

北開は逃亡の手助けはしてない、でも娘は逃亡して今も見つからない。

となると、逃亡を助けたのは北開の部下とか?」


陽助さんが宥めながら話題を戻した。



「いや、部下と娘を引き合わせたら逃亡の手助けになるだろう?

だから、北開は逃亡の手助けになると思っていなかったが、娘が北開から受け取った何かを利用して逃亡した・・・とかか!?」


豊さんはまた頭を抱えたけど、柚子には想像もつかない難問だ。



「やっぱり北開を問い詰めるしかないですよ。明日誘拐しましょうか?」


サクさんは脳筋すぎない!?



「ダメだ。大騒ぎになる。」


「ん~仮に北開が何かを娘に渡して、娘はそれを使って逃げたとして、北開に娘を助けるメリットありますか?」


陽助さんが問いかける。 



「そうなんだよな~北開にメリットがないんだ。だが、ほかにわざわざ夜中に娘の部屋に行く理由もない。」


「貴族の男の考えなんて分かんないですよ。北才たちの方が詳しいでしょ?」


「北才たちは無罪説だ。北開が貴族娘を助けるメリットなしってな。」


「ならやっぱり北開は知らずに娘に利用されたってことですか?」


皆頭を抱えてしまった。

柚子は何も思い浮かばない。



「娘は本当に逃げたんですか?誘拐とか、殺されて死体が運ばれた可能性は?」



「え!?」


かすみさんがすごいことを言い出した。



「ごめんなさい、変なこと言いました。」


「いや、視点を変えるために全員に集まってもらったんだ。

そうだ!仮に北開が娘を殺したとしたら?死体を運び出しても逃亡を助けたことにはならない。」


豊さんは真剣に検討している。



「いくら北開でも誰にも見られずに死体を運び出すのは無理では?」


「いや死体なら窓から落とせばいい。」


「でも北開が部屋から出る時には娘はまだ部屋でしょ?その後誰が窓から死体を落としたんですか?」


「・・・」


豊さんはまた頭を抱えた。



「とりあえず明日、北開と見張りの兵士たちに娘の殺害を問いただしては?死体のありかさえ分かればいいんでしょ?」


「サクの言うとおりだな。かすみナイスだ!」


「いえ、的外れでしたらごめんなさい。でも、北開が娘を殺していたらどうなるんですか?」



「北才は処罰しないだろうな。というか殺害を公表できない。だが、北開を脅すネタにはなるな。

殺しててくれねぇかなぁ。そうしたら紫竜の縁談も解決だ。」



豊さんは怖いほどの笑顔だ。


貴族は解放軍の敵だけど、柚子はそれでも娘に同情してしまう。



「どうでもいいけど、北開は娘を殺すために部屋に?それとも偶発的?」


牡丹さんも殺害説に変わったらしい。


「北開に聞けばいい。」


豊さんは興味がないようだ。



「いや、でも殺害を紫竜には隠せませんよね!?北開は縁談相手としてダメだとかいわれません?」


陽助さんが縁談の話に戻してしまった。


「ないと思うぞ。紫竜は基本的に他種族に干渉しないスタンスだ。貴族娘に同情するとも思えん。

それにやつらはペンダントが見つかったらおそらくすぐ紫竜本家に帰る。この寒さは紫竜たちにもかなりキツイんだと。」


豊さんは否定した。



「確かに。特に今月に入ってからヤバイんですけど!?北都にきたこの2~3年で初めてというか、狼族領でもここまで凍えた記憶はないです。」


サクさんの言うとおり、柚子も寒くて仕方ない。

ストーブを焚いても部屋の中でコートを着ている。


せっかくのお風呂もぬるいままで身体は温まらなかった。



「龍陽は大人しいんだけどな。弟の龍風はずっと文句言ってるよ。全然似てない兄弟だ。」



豊さんから龍陽の名前が出たので柚子は気になった。

言葉には出さないけど。



「へ~取引の時には弟は居なかったですよね?」


陽助さんも会ったことはないらしい。



「ああ。まだかなり幼く見えるけど、10歳は超えてるんだろうな。弟はあんまり人っぽくないというか、紫竜っぽいというか・・・今日だって龍陽は陽菜ちゃんを気にかけてたけど、龍風は全く興味なさそうだったよ。」


「へ~俺は逆に見てみたいですけどね。」


「あ~陽助を連れていくくらいなら柚子の方がいいな。どうする?明日はついてくるか?」


突然豊さんに尋ねられて柚子は驚いた。



「え?あ!?はい。豊さんの命令でしたら・・・」



「いや今回はどっちでもいいんだよな。ひたすら外で娘探しだからむしろキツイんだ。でも、まあ、龍陽は喜ぶかもな。」



豊さんは今度は意地の悪い笑みだ。



「私は何のお役にも立てないですよ。」


「居るだけで役に立つさ。あ!あの指輪つけてこいよ。」



「え!?」



柚子は驚いた。


あの指輪って!?

なんで豊さんが知ってるの!?



「何ですか指輪って?」


かすみさんだけが不思議そうにしている。


「先月、柚子は龍陽の買い物のお供をして気に入られてな。指輪をもらったんだよな?」


「え!?大丈夫ですか?柚子ちゃん紫竜に狙われてます!?」


かすみさんは本気で心配している顔だ。



「大丈夫さ。紫竜は母親と同じ種族とは結婚しないんだと。だけど、龍陽は柚子を侍女として引き抜こうとしてるかもな。

芙蓉さんは人の侍女を欲しがってるらしいから。」



「そうなんですか!?」


柚子は二重にショックだ。


龍陽が何度も柚子を助けてくれて、プレゼントまでくれたのは、母親の侍女にするためだったの!?



「芙蓉の差し金なんですか?解放軍は彼女の手駒ではないんですけど!?」



サクさんは怖い顔になっている。


「違うよ。芙蓉さんはそんなことしないさ。龍陽が勝手にやってるか、龍希の差し金だろう。」


豊さんは即否定した。



「芙蓉さんって誰ですか?」


またかすみさんだけ不思議そうにしている。



「龍陽の母親で、紫竜族長である龍希の妻だよ。俺の従姉妹でもあるんだ。」


陽助さんが答えた。


「え!?もしかして陽助さんが子どもを作らなきゃいけないことと関係あります?」


「おおあり。子どもは龍希の要望なんだ。芙蓉さんの血縁者は俺と陽菜だけだからね。」


「血縁者がなんで必要なんですか?」


「芙蓉さんが怪我した時には血縁者からの輸血が望ましいらしいよ。何度も暗殺されかけてるらしいからね。」



「やっと人が主要取引先になったんだ。もう芙蓉さんを危険な目には遇わせない」



豊さんは怖い顔になっている。



「・・・え!?豊さんがここで仕事してる理由って芙蓉さんなんですか!?」



かすみさんは驚いているけど、柚子も理由は知らない。

でも豊さんの反応を見てそんな気がしてきた。



「そうだよ。司令官と同じくらいすごい女性さ。俺は尊敬してるんだ。」


豊さんはあっさり認めた。



「確かに。紫竜に嫁いで族長妻やっているって司令官並みに強そうな女性ですね。」


「あ~芙蓉さんは強いよ。精神的には。でも司令官とは全く違うタイプだなあ。家庭的で女性らしくてさ。」


陽助さんが否定したけど、豊さんも頷いている。

柚子は会ったことがないので分からない。



「豊さんがここで仕事してるのは司令官の命令でしょ?」


牡丹さんは疑っている顔だ。



「違うよ。俺が自分で決めたんだ。解放軍は紫竜の正式な取引先にはなれない。でも北才たち貴族は紫竜に信用されてない。

俺にしかできない仕事だと思ったんだ。

あれからまだたった2年か・・・やっとスタートラインにたったんだ。」



そう言った豊さんは、初めて見る表情をしている。



「なら諦めて結婚したらどうです?

龍希の目的は豊さんに首輪つけることなんですから。」


陽助さんはなぜか笑いだした。



「え!?やっばそういう下心?」


牡丹さんは呆れている。



「違うよ!芙蓉さんに失礼なこと言うな!俺のはそういう感情じゃないんだよ!」



豊さんがキレた。



「そうだぞ~牡丹。失礼なこと言うな。豊さんは見返りなんて求めてないんだよ。ただただ、惚れた女のために人生かけてやってるんだ。

格好いいだろ?」



「キモい!」


「陽助さんはかいかぶりすぎですよ。」


牡丹さんとサクさんは豊さんに容赦ないけど、柚子は感動してしまった。


初めて豊さんが格好よく見える。



「あら~豊さんって外面だけの男って言われてたのに、ずいぶんお変わりになりましたねえ!?」



かすみさんが突然毒を吐いた。



「はは。ひどいなぁ。」


豊さんは気にしてないのか笑っている。



「陽助さん?芙蓉さんってどんな方なんですか?」


柚子は気になる。


豊さんに人生をかけさせて、龍陽からも母として慕われている女性ってどんな人?



「え!?ん~俺の下手な言葉じゃ芙蓉さんの魅力はとても言えないや。いつか会ったら分かるよ。」


陽助さんはそう言って柚子の頭を撫でた。

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