貴族娘の行方 中編
12月のある日、龍風は初めて北都に来ていた。
けど、寒い!
寒すぎる!!!
「兄ちゃん、もう帰ろう。」
「は!?何言ってんだ!?ペンダント回収するまで帰れないぞ。」
兄はそう言って龍風を北才の屋敷に引っ張って行った。
「お待ちしておりました。」
出迎えたのは、豊と北才だ。
「娘はまだ見つからないのか?」
龍算が豊に尋ねる。
「申し訳ございません。手がかりすらなく・・・」
「ちっ!若様方なら何かお気づきになるかもしれないから連れてきた。もう一度、娘の部屋に案内しろ。」
「どうぞこちらに。」
豊に案内されたのは、3階の小さな部屋だ。
龍風は部屋の中と隣のトイレを見て回ったけど、
「ここにはないよ。」
あの花の匂いは全くしない。
この部屋の狭さなら、室内にあれば絶対に分かる。
「やはり外か・・・」
龍算はそう言って窓を開けたけど
「さむう!!閉めてよ!」
外の冷気と雪がふきこんできた。
「龍風、行くぞ!」
兄は龍風を掴んで窓から外に出た!?
「寒いよ!兄ちゃん!」
「我慢しろ!このために来たんだ!娘が外に出たのはたぶん窓からだ。匂いを探せ!」
龍風は暴れてみたけど、兄の力には敵わない。
まだ。
龍風は仕方なく周囲の匂いを嗅ぐけど
「雪で分かんない。」
庭には分厚い雪が降り積もっており、地面の匂いは全く分からない。
「雪掻きをさせます」
先ほどの窓から豊が身を乗り出して叫んだので、龍風たちは雪掻きが終わるまで部屋の中で待つことになった。
~応接室~
「お寒い中畏れ入ります」
北才はストーブのきいた温かい部屋でホットチョコレートという甘い飲み物を出してくれたので、龍風は機嫌が直った。
人の食べ物はやっぱり美味しい
特に甘いお菓子やジュースは人族製が一番好きだ。
「寒すぎない?雪もすごいし。」
兄もかなり寒かったようだ。
「はい。ここ数日でかなり寒さと雪が激しくなっております。私もこんなに寒い冬は初めてです。」
北才ですら経験のない寒さらしい。
「もう帰ろうよ~」
「はあ!?お前が来るって言ったんだろう?庭にも手がかりなければ北都中を探すぞ!」
兄は容赦ない。
「あの、差し支えなければ紫竜が娘のペンダントをお探しの理由をおききしても?」
豊が尋ねてきた。
「ああ、この間は説明する余裕がなかったな。あのペンダントトップについていた青い宝石は狼族領の霊山から持ち出された物だと分かってな。
早く霊山に戻さないと神罰が下る。
持ち出した狼だけでなく、その後の持ち主たちも死んでいるよ。」
「ええ!?」
龍算の説明に北才と豊は目を見開いて驚いている。
「で、ではもしや、もう貴族の娘は!?」
「死んでる可能性はあるな。ペンダントの青い宝石が見つからないと霊山に返せないのだ。最後の一欠片だからな。」
「あの北要の緑の宝石もそうだったということですか?
ま、まさか夏の無謀な戦争が神罰!?」
「豊?戦争って何?」
兄が問いかけるけど、龍風はあんまり興味がない。
「今年の夏に北要は勝ち目のない戦争を仕掛けてきたのです。
自殺行為でしかなく、我らはずっと北要の動機が分からなかったのですが・・・」
「他の欠片を所持していたやつらも本人のみならず一族が全滅しているそうだ。原因不明の病、前例のない落雷や洪水のほかに解放軍の襲撃もある。」
龍算の説明に豊たちは絶句している。
「も、もしも娘がそのペンダントを持ったまま北都のどこかで死んでいたら、北都にも神罰が!?」
「いや、それはないな。他の欠片でも持ち主家族以外には大きな被害は出ていないらしい。」
「よ、良かった。」
北才は安堵している。
「ならば首都にいる娘の家族は危険ということですか?」
「そうだ。だが昨日会って来たが、まだ被害はなさそうだったな。」
龍算がわざわざ首都に寄ったのは、娘の家族の確認も兼ねていたらしい。
そんなことする必要ある?
と龍風は疑問に思ったけど、黙っていた。
「豊、娘の行き先に手がかりくらいないの?」
今度は竜礼だ。
「分かっているのは協力者がいることだけです。3階の窓から娘を抱えて連れ出せるとなると、鳥族くらいですが、正体不明です。」
「あ~そうだわ。娘の父親も、娘が一人で北都に行けるわけないって言ってたから、北都まで連れてきた獣人と同じかもね~
豊の屋敷に娘が来たときに誰か見てないの?」
「見ておりません。警護の貴族兵は、娘が一人で歩いてきたと言っております。」
「ん~やっぱり若様の鼻だけが頼りです~北都中を探しましょ。」
竜礼は龍風を見てきたけど、龍風は想定外だ。
こんなに寒いとは思わなかった。
遊ぶ暇もなさそうだし。
「こんなに寒くちゃ無理だよ~」
「なら竜縁から朱鳳のハンカチ借りてくればよかったろ?」
「ヤダ!あいつ嫌い!」
龍風は兄に舌を突き出した。
竜縁の婚約者朱鳳はムカつくやつだった!!
あいつの匂いがついたハンカチまでムカつく!!
「ったく!ねえ、豊?娘に人の協力者はいないの?」
兄が尋ねる。
「居ないはずです。娘が失踪した当時の見張りの兵士は先日、龍算殿同席のもとで問いただしました。
北開もです。」
「ホクカイ?その人も見張り?」
「いえ、北開は先日の晩餐会にもおりました北才の従兄弟です。娘が失踪する前夜、軟禁されている娘を気の毒に思って差入れを持っていったそうです。
ただ、北開が帰る際に娘はまだ部屋に居たことは兵士たちが証言し、嘘はないと龍算殿が。」
「差入れってなに?お菓子?」
「お菓子と酒でした。娘は手をつけていませんでしたが。」
「若様方、念のため北開にももう一度聞いてみませんこと?人族は賢いから嘘をつかずに隠し事をするんですよね~」
「いいよ。」
「うん。」
兄と龍風はそれぞれ返事した。
龍風としては今日はもう室内で過ごしたい。
「呼んでこい。」
北才が側近に命じ、30分ほどして頭髪の薄い中年の男がやって来た。
「若様、補佐官殿、竜礼殿、先月ぶりでございます。こちらの若様は初めまして。北開と申します。」
「若様方にも貴族の娘と最後に会った時の話をしろ。」
「北の貴族殿のご命令とあらば何度でも。私はあの晩、何日も一人で閉じ込められている娘を憐れに思いまして、一人で部屋を訪ねました。
見張りの兵に鍵を開けてもらい、娘に差入れを渡し、少し話をして・・・私が部屋を出るときには娘は確かに室内におりました。
見張りの兵も娘を確認して鍵を閉めました。
私は娘の逃亡の手助けなどしておりませんし、今どこにいるのか見当もつきません。」
北開からは悪意は出なかった。
「なんで夜に一人で行ったの?」
竜礼が尋ねた。
「私も多忙な身ですし、私の差入れを快く思わない者もおりましょうから、まあ、わざとその時間にしたのです。」
やはり北開から悪意は出ない。
だけど、北才と豊は怪訝な顔で北開を見ているので、たぶん北開はこの2人の目を盗んで娘に会いに行ったのだろう。
でも娘の逃亡を助けてないとの話に嘘はない。
やはり北開の話は役に立たず、北才の部下が庭の雪掻きが終わったと報告に来たので、龍風は兄に寒い中庭に引っ張って行かれた。
娘が逃げるときにペンダントだけ落としてないかと期待したけど、やはり庭のどこからもあの花の匂いはしない。
「ダメだね。匂いは全然ないよ。」
龍風の報告に皆がっかりしているけど、龍風だって早く青い花びらを見つけて帰りたいのだ!
雪がどんどん降っているせいで、雪かきされた地面には雪が積もり、もう龍風の長靴の高さよりも高くなっている。
「もう帰ろ・・・ん?」
コツン
龍風の頭に何かがあたった。
コン
コン
コン
屋根にも何かがあたり音が鳴っている。
空から何か落ちてきてる!?
「ひ、雹だ!す、すぐに中へ」
北才が叫び、龍風たちを屋敷内に案内する。
「何?氷の塊!?」
兄も知らないようで、驚いた顔で空をみあげている。
「う、うわ!?」
「でかいぞ!?」
人族たちは騒がしくなっている。
ゴン
ゴン
空から降ってくる氷の塊はどんどん大きくなってきて、龍風の拳よりも大きくなった。
「豊、何これ?」
「これは雹です。氷の塊があの雲から降ってきているのですが、こんな真冬に!?」
「珍しいの?」
「真冬の雹は初めてです。40年近く北都におりますが・・・それもこんな大きさは見たことがありません。」
北才は目を見開いて外の雹を見ている。
「前代未聞の天気ってこと?嫌な感じですね。」
竜礼と龍算は険しい顔になっている。




