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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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貴族娘の行方 前編

朱鳳たちがやって来た翌日、今度は黄虎(おうこ)族長の代理が、もう1つの葉を持ってきた。


今年の春にハイエナ族で前代未聞の落雷があり、あるハイエナの家に落ちて、ハイエナ一家は全滅したらしい。


激しい雷雨だったのに、落雷はこの家だけだったので、黄虎たちは当時から不審に思っていたらしい。


この度、黄虎がハイエナに命じて家の跡地を探したところ、花の葉が見つかったそうだ。



さらにその翌日、


「族長!ピンクの花が見つかりました!」


龍景が父の執務室に駆け込んでいた。



「何!?どこにあった!?」


「熊族です。トモエから連絡がありました。解放軍が例の白鳥の取引相手だった熊商人の行方が掴めず、探していたところ、谷底で熊の死体を見つけたそうです。

熊の首にはこれが!」


龍景はそう言って金のペンダントを差し出した。

ペンダントトップにはピンクの花びらがはまっている。



「間違いないよ。この匂い。」


龍風はもう嗅ぎ慣れた匂いだ。



「おっし!これで揃ったな!」


父は嬉しそうだけど、



「まだです。貴族の娘が持ち去った青の花びらが・・・」


「はあ!?豊は何してんだ!?まだ見つけてねえのか!?」


龍景の指摘に父は怒り出した。



「・・・父上、僕が豊のところに行くよ。花の匂いで追いかけられるかも。」


龍風は父に提案してみた。


正直、かなり近くまで行かないと花の匂いは分からないけど、もう本家に篭るのは飽きたし、龍風も人の町でお菓子を買いたい。



「・・・龍算と竜礼を呼べ。龍風とともに北都に向かわせる。龍陽もだ。」



「えー!?兄ちゃんはいらないよ!」


龍風は父に反論したのだが、


「お前は龍算たちの言うことは聞かないだろ?龍陽に見張らせる。悪さをしたら、龍陽は俺と芙蓉にチクるからな。

今度は絶対に単独行動するなよ。もう一度芙蓉を泣かせたら俺が許さん。」


父は龍風の魂胆なんてお見通しだったようだ。



「分かってるよ。僕は母上を泣かせるつもりはなかったの。」


龍風はまだ罪悪感でいっぱいなのだ。


母の涙はもう見たくない。



翌日、龍風は兄や龍算たちと空飛ぶ馬車で本家を出発したけど、


「え?北都に行くんじゃないの?」


「先に、貴族の娘の実家に向かいます。豊たちは北都を探し回ったそうですが、娘の目撃情報すらないそうで、娘一人で失踪できるはずがないと。実家が迎えを寄越したのではないかと言っております。」


龍算はそう言って、龍風たちを首都(しゅと)という人族町に連れていった。



~???~


「ようこそ、紫竜の皆様。第ニ家の央訓(おうくん)と申します。」


出迎えたのは中年男だ。

こいつが失踪した娘の父親らしい。



「北都から消えたお前の娘を探している。どこにいる?」


龍算が問いかける。


「申し訳ございません。娘は先月、家から姿を消したきりです。北の貴族から連絡を受けるまで、娘が北都に行ったことすら知りませんで・・・

娘が紫竜に何かご迷惑を?」


答えた父親から悪意は出なかった。



「知らばくれるな。白鳥からペンダントを預かったろう?我が一族から隠せと頼まれてな。」



「何のお話ですか?」


父親はぽかんとした顔だ。

悪意は出ていないので、本当に知らないらしい。



「北都で娘自身に確認したぞ。取引先の白鳥からペンダントを預かったとな。」


「そ、そんなバカな・・・白鳥の取引先は解放軍に襲われて失くなりました。」


父親は真っ青な顔になっている。



「ああ。解放軍に襲われる前、やって来た白鳥にペンダントを託されたんだと。紫竜や解放軍から隠せと・・・ん?」


龍算は言いかけてなぜか兄の方を見る。



「なに?龍算」


「若様、おかしくないですか?

白鳥が解放軍に襲撃されたのは夏です。あの頃はまだ我が一族は花・・・ペンダントを探してなどいなかった。

なのになぜ、白鳥は我らがペンダントを探すと分かって人族の娘に?」


龍算の言うとおりだ。


白鳥には予知能力でもあるのかな?



「でも娘の話に嘘はなかったよね!?

白鳥が隠したかったのは毒の粉じゃないの?ペンダントに隠して売り買いしてたんでしょ?」


「いや、しかし、娘のペンダントは毒の粉を入れるような作りにはなっておりませんでした。」


「そうだね・・・」


龍算と兄は考えこんでいる。



「も~補佐官、話がそれてます~

娘の居場所に心当たりはないの?」


竜礼が父親に問いかける。


「ご、ございません。北都の者たちが北才から娘を匿うはずはありませんし、我が屋敷の者は侍女も兵も皆おります。外で娘を助ける者は居らぬのです。なのに、どうやって娘一人でここを抜け出したのかも分かっておりません。」


父親からはやはり悪意は出ない。



「嫁入り前の娘でしょ?人族って随分自由にさせてるのね!?」


「とんでもない!こんなことは前代未聞で、私どもは娘が誘拐されたと思っておりました。」


竜礼の指摘を父親は真っ向から否定した。



「なら娘を連れ出した仲間がいるわね。」


「ん~でも、豊の屋敷で娘と会った時には娘の身体から別の獣人の匂いはしなかったんだよね。」


兄は覚えているらしい。



「は~何にせよ。手がかりはなしか。邪魔したな。」


龍算について龍風も父親の家を後にした。

とんだ無駄足だった。




~北都~


同じころ、豊と北才は2人で頭を抱えていた。



貴族の娘はどこに行った!?



先月、龍陽たちがスミレの検査を終えて帰った後も、首都の貴族の娘は北才の屋敷の一室に軟禁していた。


娘は、北都に来た目的や手段、ペンダントを渡したという白鳥について尋問する予定だったが、北才も豊も体調を崩したのでとりあえず侍女に世話を任せ、兵士に交代で見張らせていたのだが、なんとそれから数日後の朝、軟禁していた部屋から娘は姿を消したのだ。


部屋の出入口には兵士がおり、娘が抜け出せるはずはないし、抜け出したとしても、北才の屋敷内から誰にも気付かれずに抜け出すなんて不可能だ。



とはいえ窓からの脱出も無理だ。

娘を軟禁していたのは3階で飛び降りられる高さではないし、地面に降りてもまだ高い塀で囲われた北才の屋敷敷地内なので、やはり誰にも目撃されずに逃げることはできない。


逃亡した娘には協力者がいたはずだが、北才の兵も侍女も誰も行方不明にはなっておらず、今月、龍算が2つの金のペンダントを回収しにやって来た時に、失踪前日に娘の部屋の警護をしてきた兵たちを尋問したが、

誰も娘の逃亡を助けておらず所在も知らなかった。

龍算が嘘はないと確認したので間違いない。



「やはり何度考えても一人で逃げ出すなんて不可能だ。どこかに協力者がいるはずだ。」


北才は豊と同じ意見だ。


「だが、娘の部屋を調べた龍算は人以外の獣人の匂いはしないと断言してたぞ。

それに鳥の獣人が窓から娘を連れ出したなら、誰かが鳥を見てるはずだ。」


「分かってる。北豊の屋敷でトンビが闇夜に乗じて誘拐未遂を起こしてから、私の屋敷も鳥の獣人を特に警戒させていたんだ。

しかし鳥でないなら、何の獣人だ?

3階の窓から脱出できて、空を飛ばずに高い塀を娘を抱えて乗り越えられる!?誰にも見られずに!

そんな獣人がいるか!?」


「俺は知らん。獣人ができるレベルじゃないだろ!?紫竜みたいな神獣なら別だろうけどな。」


豊は解放軍として多くの獣人と戦ってきたし、協力獣人たちもいたので、獣人の限界には詳しいつもりだ。


図体のでかい獣人ほど力は強いが、逆に見つかりやすいのだ。



「まさか紫竜以外の神獣か!?オウコやシュホウとかいう・・・」


「それなら龍算が匂いで気付くはずだし、それ以前にそんなやつらが隠れて拐うか?

正面から娘を寄越せと言われたら、俺たちは拒否できないだろ?」


「そうだな・・・」


北才はそう言ってまた頭を抱えた。



「娘はもう北都にはいないだろうな。捜索範囲を広げるしかないが、雪が・・・」



12月の後半に差し掛かり、北都では連日雪が降って雪掻きをしないと1日で何メートルも積もる。

北都の外はもう雪で道は見えなくなっており、捜索できる範囲は限られる。



「狼族に依頼するしかないな。幸い、娘の匂いがついた衣服はある」



北才は狼族長への依頼書を作るために部屋から出ていった。



豊は一人で再度、娘が失踪した部屋に向かった。

もう見張りの兵はいないが、鍵は北才と豊しか持っていない。


部屋は失踪時と同じにしてあるが、失踪当日は窓が開いていた。


今は雪が積もっているけど、北才の屋敷の庭なので、庭師たちが日に何度か雪掻きをしている。

 失踪当日はもっと雪が少なく、庭師たちが雪掻きをした後だったが、逆に言えば庭師たちが雪掻きを始めるより前に娘は部屋から抜け出したことになる。



娘の部屋にはコートも厚手の上着もなかった。協力者がいなければ、娘が一人で抜け出そうなんて気にもならないだろう。


解放軍の女ならまだしも、温室育ちの貴族娘だ。



だが、部屋に抜け穴なんてない。

北才は貴族の娘ということで、

タブルベッド

2人がけのテーブルと椅子

女性の着替えを入れたクローゼット

を用意し、奥の小部屋には洗面所とトイレがある。


2日に一度、侍女が付き添って部屋の外にある風呂にも入れていたらしいけど、失踪前夜、娘が部屋にいることを侍女が確認して、部屋の外から鍵をかけている。


なのに、翌朝、別の侍女が朝食を運んできたら部屋はもぬけの殻だったらしい。



ベッドは使った形跡があり、洗面所は濡れていたので直前まで娘は部屋に居たはずなのだ。


なのに、貴族兵や使用人総出で北才の屋敷を探しても娘は見つからなかった。


それから北都の門を閉鎖し、町を探し回ったが、目撃情報すらない。



「一体誰がどうやって!?」



豊は途方にくれていた。

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