欠片の行方
12月のある日、再び一族会議が開かれた。
龍栄と竜縁も来ている。
龍応から霊山の花の欠片を離しても、龍応は元気になっていないそうだ。
竜礼が立ち上がって報告を始めた。
「狼族に確認したところ、セセという狼娘は、昨年の夏に霊山に捧げ物を運んだ巫女団の中に居たそうです。
しかしその後に娘は行方不明になり、昨年の秋ころ娘の家族は原因不明の病で全滅したそうです。
霊山から何かを持ち出すのは厳しく禁止されており、狼族はセセ家族の死は神罰だろうと言っております。」
「なぜ狼は禁忌を侵して花を?」
「花を受け取った白鳥は!?見つかったのですか?」
「朱鳳は霊山の一件を知らせたらすぐに情報を出した。花を受け取ったのは龍空の元妻一族の白鳥だそうだ。
おそらく白鳥は家に花を持ち帰って解体し、花びらはペンダントトップに加工したり、どういう方法かは不明だが、龍応様のオルゴールに混入させたようだ。」
今度は朱鳳から戻った龍海が報告する。
「え!?龍空殿の元妻の一族!?確か秋に・・・」
「はい。解放軍が元妻の実家を襲撃し、元妻一族は全滅しています。昨日その跡地に行ったところ、花の茎だけは回収できました。」
今度は龍景が報告する。
「白鳥は全滅!?では残りの花と葉の行方は!?」
「不明なままです。それと龍算様が北の貴族から緑の花びらは回収しましたが、青の花びらを持つ貴族の娘は所在不明だそうです。」
「はあ!?人族はどういうつもりだ!?」
「落ち着け。人族が分かってやってるわけないだろ?
白鳥元妻の襲撃は、霊山とは全く関係ない理由で解放軍がやったことだし、貴族の娘だって紫竜から逃げるために姿をくらませたわけじゃない。
娘は北の貴族に依頼して探させている。」
父が制した。
龍風としても、母の種族や解放軍のトモエが一族から恨みを買うのは困る。
「今日の会議ですべきは残りのピンクの花びらと葉2枚の捜索だ。知恵出せ。」
「族長、あくまで私の想像ではありますが」
竜礼が手をあげた。
「花を盗んだ狼の娘と家族が神罰で死に、今の龍応様の不調も神罰というなら、霊山の花を手にした獣人たちにも何かしらの被害が出ているはずです。
現に、原因は違えど、龍空の元妻白鳥一族も滅んでいますし。
豊によれば、緑の花びらを持っていた人族、ホクヨウの一族もこの夏に北才に戦争を仕掛けて全滅したそうです。
ですので、最近、昨年の秋から今年にかけて一族が滅んだ事件を探すのはいかがですか?」
竜礼の推測には説得力がある。
「ありうると思う。霊山の神の遣いは、花を返せと言ってた。花を持ち出されたことを怒ってるのは間違いないよ。」
「しかし、どうやって?手当たり次第に取引先に照会しますか?さすがに不審に思われませんか?」
「た、確かに。龍応様が呪われていることは公表できん。」
「元妻白鳥一族の関係先に絞ればいいのでは?」
「よし!龍灯、龍景は白鳥領に行け!
俺は解放軍に問合せする。白鳥一族を襲ったのはこいつらだから、取引先にも詳しいはずだ。」
父の決断は早い。
~紫竜本家~
それからさらに2日後、龍風は兄とともに父の執務室に呼ばれた。
朱鳳が本家にやって来るらしい。
龍栄と竜縁はすでに執務室に来ていた。
「族長代理の鳳雁です。」
やって来たのは雄の朱鳳2人だ。
年配の方が先に挨拶したけど、龍風は何度か会ったことがある。
「お供の鳳燕です。」
若い方は初めて見るけど、この匂いで気付いた。
こいつが竜縁の婚約者だ。
「突然何だ?」
族長の父も訪問の理由を知らないらしい。
「これを。」
鳳燕は朱鳳の羽から作ったであろう風呂敷をひらき、木製の箱を取り出し、父に差し出した。
「何だよ?」
父は怪訝な顔をしながら箱をテーブルにおき、箱の蓋を開いた。
「あ!」
箱が開いた瞬間、龍風は匂いに気付いて駆けよった。
「葉っぱ!」
間違いない。
霊山の花についていた葉の1つだ。
「これですか?」
朱鳳たちはさっきよりも後ずさりして箱から離れている。
「霊山に行った俺の息子だけ花の匂いが分かるんだ。間違いない。」
「やれやれ。龍海殿から話を聞いた時には驚きましたよ。
今年の春に異常な大雨で川が氾濫し、全滅した鴨たちが居ましてね。紫竜からの連絡をうけて鳳燕たち若いのに調べさせましたら、泥の中からなぜか全く汚れていないこの葉が見つかったのですよ。」
意外なことに、鳳雁たちも霊山の花の欠片を探してくれたらしい。
「・・・そりゃご苦労。捜索料はいくらお望みで。」
「不要です。紫竜のためではなく、この世界の秩序を保つためなので。神の怒りを買うなどなんてことを。最近の獣人たちは予想外のことばかりする。」
「ケチなお前らにしては珍しいな。」
父と龍栄は驚いているけど、龍風も兄と顔を見合わせていた。
朱鳳は父以上の守銭奴なのに!?
「鳳燕ありがとう」
竜縁は婚約者に礼を言うけど、
「紫竜族長に物申したいことがある。」
鳳燕は怖い顔で父を睨んだ。
「なんだ?」
「なぜ危険な霊山に私の竜縁まで?」
「お前のじゃない。俺の一族の竜縁だ。どんな役目を与えるかは族長の俺の判断だ。朱鳳に口出しされる筋合いはねえ。」
父は容赦なく鳳燕を睨み返している。
「私の婚約者だ。族長息子の道連れにする必要なんてなかったろう?」
鳳燕はそう言って今度は龍風を睨んできたけど、龍風が道連れにしたわけじゃない。
「はん!道連れだあ!?竜縁は自分で志願したんだ。俺の息子も姪も勇敢なんだよ、そんな葉っぱ1つにびびってるお坊ちゃんとは違ってな!」
父は若い朱鳳にも容赦ない。
「はあ!?勇敢と無謀の違いも分からんのか!?バカな竜どもは!!」
父に怒鳴り返す鳳燕の威勢だけは大したもんだ。
「何言ってんだ。息子も竜縁もこのとおり無事だよ。神から花のヒントまで得て戻って来たんだ。お前らはビビリすぎ。」
父は平然と答えているが、霊山に迎えに来た時の動揺ぶりは朱鳳たち以上だったことは内緒だ。
なお、父以上に大泣きしていた龍栄も朱鳳たちの前では営業スマイルを浮かべて立っている。
「神からヒントを?さすがに笑えない冗談ですな。」
鳳雁は怪訝な顔になった。
「冗談なもんか。息子にだけ花の欠片の匂いが分かると言ったろう。」
「なぜ息子だけ?竜縁殿も霊山に入ったのでしょう?」
「たぶん、龍風は神の遣いに触れたからだと思う。
龍風が神に怒りの原因を教えてって話しかけたら、神の遣いが現れて、狼の子が花を盗む場面を見せてくれたの。」
「神に話しかけた!?」
「神の遣いにふれたぁ!?」
竜縁の返事に、朱鳳2人は目を見開いて驚いている。
「信じられん。父親以上のバカか!?」
「はあ!?やんのか!?」
龍風はぶちギレて、鳳燕に飛びかかろうとして、後ろから兄に制止された。
「落ち着け、龍風!竜縁の婚約者だ。怪我させたら可哀相だろ!?」
「離せ兄ちゃん!!」
「はあ!?そんな竜の子に負けるかあ!返り討ちにしてやる!」
「こら、鳳燕、今はやめい。何が神の怒りを買うか分からん。」
鳳雁は鳳燕を止めている。
「龍風、今は霊山の花を集めるのが先だ。
ここで喧嘩は止めろ。族長命令だ。」
「はい」
龍風は渋々引き下がった。
「紫竜からの連絡を受けて、黄虎はハイエナ領でなにやら探しているようですよ。我らも引き続き眷属や鳥族で神罰と思われる事案がないかを調べます。」
鳳雁はそう言って鳳燕とともに帰って行った。
「・・・族長、ごめんなさい。霊山に行ったのは私の独断なのに」
竜縁は落ち込んでいる。
「気にするな。一族の行動は族長である俺にも責任があるし、竜縁はまだ子どもだから親の龍栄の責任でもある。
今回は龍応を助ける手がかりが見つかったから大目に見たが、もう族長命令には逆らうなよ。
お前もだ!龍風」
「分かってます。」
龍風だってあんな危険な神に関わるのは最後にしたい。




