龍応のおもちゃ
「バカやろう!」
父は目に涙を浮かべて龍風を抱き締めているので、龍風はとんでもなく気持ち悪い。
なんで父は怒ってないのだろう?
神の遣いらしき狼の死体が消えた後、龍風は竜縁と神の遣いを探し回ったけど、どこにも居なかった。
疲れてお腹もすいたので、山を降りて馬車に戻ると、なぜか父と龍栄が待ち構えていたのだ。
父のげんこつを二発は食らうと覚悟したけど、父は龍風を力強く抱きしめて、何度も
バカやろう
と呟くばかりだ。
父らしくない。
そばでは龍栄が大泣きしながら竜縁を抱き締めている。
こっちは普段通りだから別にいい。
竜縁は凄まじく嫌そうな顔だけど、普段と違ってされるがままになっている。
龍風も今ばかりは父に反抗する気にはならないので黙って耐えていた。
~紫竜本家~
「龍風様!」
「竜縁様!ご無事で!?」
父たちに連れられて紫竜本家に戻ってきたけど、龍風の予想以上に大騒ぎになっていた。
何より最愛の母を泣かせてしまった。
父も兄も母に神や呪いの話はしていないらしいけど、父が母に何も告げずに龍風を追いかけてきたせいで、賢い母は異変を察して龍風を心配していたらしい。
「か、神に接触してしまったのですか!?」
大人たちは龍風たちの報告に顔を青くしているけど、龍風たちはそのためにあんな霊山まで行ったのだ。
「は、白鳥の手に渡った霊山の花と龍応様に何の関係が!?」
やはり龍栄と竜染も心当たりはないらしい。
「龍応様の例のおもちゃは?龍風様が見たら何か分かるのでは?」
龍賢の提案で、竜染がおもちゃを持ってきた。
龍風は初めて見る。
龍応はこれで遊んでいる時に、中から白い粉が出てきて、それを舐めたとたんに倒れたらしいけど、
おもちゃはオルゴールのようだ。
箱形で、上の蓋が開けるようになっている。
龍風はオルゴールの蓋を開けてみた。
中にはガラスでてきた人形が入っている。
箱の外側についたレバーをくるくる回すと、中の人形が動くおもちゃだろう。
龍風たちのオルゴールの1つと同じだ。
けど、それよりも花の匂いがする。
霊山で嗅いだ花の匂いと同じだ。
「竜縁!この匂い同じだよね!?」
龍風ははっとして尋ねたけど、
「え?匂い?何が?」
なぜか竜縁は分かっていない。
「この花みたいな匂いだよ!!狼の死体からもこの匂いしてたじゃん!」
「え!?花!?なんのこと!?狼の死体からは何の匂いもしなかったよ。」
なんと竜縁はあの花の匂いに気付いてなかったらしい。
「何の話だ?花の匂いなどないぞ?」
一族で一番鼻がいいはずの龍栄にも分からないらしい。
「え?こんなに匂うのに!?」
龍風ははっきりと感じる。
どんどん花の匂いが強くなっているのだ。
でもオルゴールの中に、あの花なんてない。
「これ、壊してもいい?中に何か入ってるかも。」
「構わない。」
龍栄が答えたので、龍風は両手に力を込めてオルゴールの箱をバキバキと割った。
コロン
「あ!」
「ああ!?」
龍風と竜縁は同時に声をあげた。
壊れたオルゴールから、黄色く光る三角の欠片が出てきたのだ。
「竜縁!これ!?」
「花びらの1つよね!?」
「え!?これが霊山の花ですか?」
竜縁が拾い上げた欠片を大人たちは代わる代わる見ているけど怪訝な顔だ。
龍風もこうして実物を見るとただの宝石でできた欠片にしか見えない。
あの花の匂いがすることを除いては。
「どういうことだ?狼の子が盗んだのは1本の花だろ?」
「バラバラになってるのだと思います、族長。花びらは5枚ありました。黄色、ピンク、青、緑、赤、それに茎と2つの葉っぱ」
竜縁の言うとおりだ。龍風もはっきりと花の形や色を覚えている。
「では最悪8つに別れているということですか?それに白鳥が持っていったはずの花の一部がなぜ狼から買ったおもちゃの中に?」
「狼族には問合せ中です。白鳥族にもです。」
「・・・竜縁、それ、僕によく見せてくれない?」
「龍陽、お前は触るなよ。」
花びらを触ろうとした兄を父が制した。
「じゃあ近くで見る。」
兄はそう言ってじっと欠片を見つめている。
「若様、どうされました?何か異変が?」
「僕、これと似た物知ってるかも。」
兄が驚くべきことを言い出した。
「は!?龍陽、どこでだ!?」
父も驚いている。
「龍空の元妻が持ってたペンダントトップってこんな形じゃなかった。」
「あ!あああ!?確かに!?取ってきます!」
竜波が血相を変えて部屋から出ていったけど、龍風には何のことか分からない。
だけど、竜波が持って帰ってきた金のペンダントからはあの花の匂いがする。
ペンダントトップの真ん中に填まっているのは、赤い花弁だ。
「これだ!?なんで!?」
龍風はまた驚いた。
「白鳥元妻の持ち物でしたが・・・まさか紫竜本家に2つも・・・」
大人たちは恐怖している。
「族長、僕、他の2つのありかも知ってます。」
「龍陽!?どこだ!?」
兄はさらにすごいことを言い出した。
「北の貴族のところ。1つは北要って人族の遺品、もうひとつは豊のところに来た首都の貴族の娘が持ってました。確か、色は青と緑。龍空の元妻のペンダントとそっくりだから覚えてます。」
「よし!龍算!すぐに取りに行ってこい!人族にいくら払っても構わん!」
「は!」
龍算は走って出ていった。
「これで、5枚の花のうち4枚は所在が分かったということですな。」
「だな。あとはピンクの花びらと、葉っぱ2枚と茎か・・・どこにあるんだよ!?どうやって探せばいいんだ!?」
「花を持って行った白鳥を探すしかありませんな。朱鳳に依頼します。」
「龍海、行ってこい!」
「は!」
父たちは霊山に行くのを反対していたくせに、今は花探しに迷いがない。
~白鳥領~
それから4日後、龍風は龍景に連れられて、白鳥領に来ていた。
湖のほとりに馬車を止め、龍風は龍景とともに空を飛んで湖に浮かぶ島にやってきた。
島にあった白鳥の家は火事で失くなったそうで、まだ地面には瓦礫が転がっている。
「ここが狼から霊山の花を受け取った白鳥の家?」
龍風は龍景に尋ねた。
「はい。龍空の元妻の実家でもあります。解放軍に襲撃され、一族は誰も生き残っておりません。花の手がかりがあるかは分かりませんが・・・」
「え?なんで解放軍に?」
「トモエを誘拐ではなく、追い回していた白鳥の仲間です。」
「あー!!あの時の!」
龍風は思い出した。
夏にトモエが行方不明になり、北の貴族から依頼を受けて兄たちも探していた。
「・・・あの花の匂いがするね。」
龍風はこの島に降りた時から感じていた。
「ふんふん、こっち」
龍風は瓦礫を踏みつけながら匂いのする方に向かった。
「この辺」
「若様、お下がり下さい」
龍景が瓦礫を掘り返してくれるけど、小さな欠片が見つかるかな?
「若様!」
15分ほどして泥だらけの龍景に呼ばれた。
「こちらを」
龍景は細長い緑の欠片を差し出してきた。
「間違いないよ。茎だ。」
龍風は受け取るまでもない。
あの花の匂いがする。
「他にもないか探します。」
龍景は再び瓦礫を掘り返していたけど、半日かけても見つからず、龍風は他の場所からは匂いを感じないので、龍景とともに別荘に向かった。
父たちは霊山の花を本家から持ち出し、別荘の1つで保管している。
花の欠片自体から危険な感じはしないけど、念のためだ。
龍風と竜縁以外の竜の子はこの別荘に近寄ることを禁止され、龍応の不調の原因が霊山の花にあることは一族内の秘密とされた。
~別荘~
「若様、お疲れ様でした。」
龍風が別荘に着くと、父と龍算が待っていた。
龍景が花の茎を見つけた経緯を説明し、父に茎を渡した。
「龍景は風呂に行け。龍風はこっちだ。」
父は龍風を別荘の一室に案内した。
「若様、こちらを。」
龍算が差し出したのは金のペンダントだ。緑の宝石がペンダントトップに填まっている。
「花の匂いする。間違いないよ。
あれ?もう1つあるんじゃなかった?」
「はい。もう1つ青のペンダントがあるはずでしたが、持ち主の貴族の娘とともに行方不明です。」
龍算が渋い顔で報告する。
「は!?北の貴族は何してんの!?」
「落ち着け、龍風。娘は豊に捜索させる。在処の手がかりがあるだけましだ。
所在不明なのはあとピンクの花弁と葉2枚だな。明日また会議をする。お前の鼻が頼りだ。」
父はそう言って龍風の頭を撫でた。




