和風カフェさくら
龍陽は騒動が起きた店を出て、今度は大きな建物に来た。
「ここが和菓子屋?」
「ここの旅館に併設されたカフェが和菓子を扱っております。中で食べることもできますよ。」
豊はそう言ってピンクの暖簾がかかった入口の方に案内する。
「・・・ん?」
和菓子の匂いがするけど、龍陽の知ってる匂いだ。
なんで!?
「いらっしゃいませ、若様!おまちしておりました。」
出迎えたのは中年の男だけど、龍陽の知ってる人だ。
「え!?寒おじさんだよね!?」
「はい。お久しぶりです。」
寒はにこりと笑った。
寒は龍陽の母の幼なじみで、母の故郷である水連町で和菓子屋さくらを営んでいる。
さくらの和菓子は母のお気に入りで、父は毎月執事に買い物に行かせている。
「え?なんでここにいるの?」
「おかげさまで北都でカフェを開くことになりまして。今年いっぱいはこちらに来ているんです。
水連町では売っていないお菓子もございますよ。
ささ、あちらのテーブルにどうぞ。どのお菓子も味見して行って下さいませ。」
寒は一番大きなテーブルに龍陽たちを案内すると、すぐに色とりどりの和菓子を持ってきてテーブルに並べていく。
確かに龍陽の見たことがない和菓子ばかりだけど、匂いは同じだ。
和菓子に混じって相変わらず飴もあるけど、水連町の店と違い花の形をしている。
「え?花の飴?」
「お!?若様はお目が高い。これも新商品です。お洒落でしょう?
見た目は花ですが、ピンクは苺、白いのはミルク味です。これから花の種類も増やしていく予定で、職人たちが頑張っています。」
「へ~じゃあどっちもちょうだい。苺は竜琴が好きだし。」
「畏まりました!」
寒は嬉しそうに店員に指示を出し、すぐに戻ってきた。
龍陽は和菓子の味見をしながら寒オススメの和菓子をいくつか購入した。
いいデザート代わりだ。
柚子も豊に促されて和菓子の試食をしているけど、今日一番嬉しそうな顔になっている。
母や妹と同じく和菓子が好きなようだ。
「あ!そうだ若様!?こういう物って芙蓉や竜琴ちゃんはお好きですか?」
寒はそう言って指輪を持ってきた。
薄ピンクのサクラの花飾りがついている。
「え?これもおじさんが売ってるの?」
「はい。知り合いの商人からカフェで売ってほしいと頼まれまして、これはこうして・・・ブレスレットにもなるんですよ。」
寒は指輪を手に持って引っ張った。すると指輪は広がり、ブレスレットになった。
金属製の指輪なのにまるでゴムみたいに延びたのだ。
「寒の指じゃ見栄えしないな。柚子、試してみろよ。」
「お!そりゃ綺麗なお嬢さんの方がいいや!」
豊に言われて、寒は別の指輪を柚子に手渡した。
こっちはサクラの花ではなく黄色の、龍陽には名前が分からない花がついている。
「か、可愛いと思います。そんなに重くないし。」
柚子はブレスレットにしたり、指輪にしたりして龍陽に見せてくれた。
よく似合っている。
「へ~面白いけど、これ、宝石じゃないわよね?」
竜礼が覗き込みながら寒に尋ねる。
「はい。これはどちらも天然石です。・・・ちょっと安すぎますか?」
寒は苦笑いだ。
「さすがに族長の奥様と姫様にはお渡しできないわ。でもアイディアは面白いから、奥様がご興味あれば族長が特注するかも。宝石でも作れるの?」
「すみません、詳しいことは私には分かりかねますので、製造元の商人をご紹介します。」
寒は竜礼と商談を始めた。
「じゃあスミレに買っていこうかな。一人で検査頑張った褒美に。」
「あら~さすが若様!お優しい~使用人にならちょうどいいですわね~」
竜礼は今度は反対しなかった。
「じゃあサクラとその黄色いのとどっちもちょうだい。別々に包んでね。」
「え?畏まりました、若様」
寒は一瞬不思議そうにしたけど、すぐに店員に命じて新しいブレスレットを出し、それぞれ包装してくれている。
「・・・あ!?」
龍陽は嫌な匂いに気づいた。
龍算のワシの執事が近づいてくる。
「あら~若様、タイムアップです。」
竜礼も気づいたらしい。
「失礼いたします。」
ワシの執事がカフェに入ってきて、竜礼に手紙を渡して去っていった。
「若様~補佐官殿が戻ってきて、ですって。」
「ちぇ~まだ日暮れ前なのに」
龍陽は面白くないけど、補佐官の指示には従えと族長命令が出ているので仕方ない。
龍緑か龍景なら丸め込めるけど、龍算は無理だ。
「ご出発ですか?お荷物を馬車までお運びしますよ。」
寒が紙袋に入れた荷物を持ってきたので、龍陽は渋々町歩きを終えて、龍算のいる北才の屋敷に向かった。
~北才の屋敷~
「若様、ご無事ですか?」
北才と龍算が待ち構えていた。
「人族の小競合いくらいで大げさだよ。まだ買い物してたのに~」
「いえ、人族だけではなさそうです。」
龍算はすでにホクヨウ?の残党から話をきいたようだ。
「どういうこと?」
「こちらを」
龍算が取り出したのは、
金のペンダント
だ。白鳥妻や首都の貴族の娘の物より金の鎖が大きいので男用かな?
ペンダントトップはやはり三角で、その中央には緑の宝石がはまっている。
「もしかしてこれが豊たちが探してたホクヨウのペンダント?」
「そうです。ホクヨウの部下が盗み出していました。」
「龍空の妻や首都の貴族の娘のと同じ?」
「おそらく。娘は白鳥の商人からもらったと言っています。」
「それが僕とどう関係するの?」
「貴族の娘は、白鳥の商人から預かったと言うのです。時期的には龍空の妻が離婚した直後くらいですね。紫竜や解放軍が奪いに来ては困るからと白鳥に頼まれたと。」
「は?なんで?」
龍陽は意味が分からない。
そんなペンダント知らないけど!?
龍算と竜礼も首をかしげている。
「・・・補佐官殿?娘が若様がいるタイミングで私の屋敷に来たのは偶然ですか?」
豊が龍算に尋ねた。
「いや若様が居ることを知って来たそうだ。」
「ならばなぜ紫竜や解放軍から隠すために預かったペンダントを持ってきたのですか?」
「娘によれば、ペンダントを預けた白鳥の商人はすでに死んでいるそうだ。だから紫竜や解放軍が探しているペンダントなら交渉材料になると思ったらしい。」
「え?でも僕がそれを欲しがったら娘は拒否したよ!?」
龍陽は覚えている。
「それが・・・娘は若様に冷たく扱われたので若様には渡さず解放軍に渡した方がメリットがあると思ったそうで・・・」
龍算は渋い顔だ。
「解放軍って豊のこと?」
「いえ、白鳥の商人屋敷を襲った方と申しますか・・・娘も何か伝があったわけではないそうですが、豊に渡すつもりはなかったそうです。」
「・・・え!?白鳥の商人って龍空の妻の実家のこと!?」
「はい。娘にペンダントを預けたのは龍空の妻の実家の白鳥のようです。
ただ、娘のペンダントトップには毒の粉は入っておりませんでした。
ホクヨウのペンダントにもです。」
「白鳥妻のペンダントにも毒の粉はなかったよね。宝石とすり替えようとした金属の方にだけ毒が入ってた。」
龍陽は思い出した。
「北要に話を戻してもよろしいですか?
北要の部下たちが襲ってきたのも若様ねらいですか?」
豊が龍算に尋ねる。
「やつらの狙いはお前と北才だそうだ。若様の接待中に暗殺できればよし、失敗してもお前と北才は失態を理由に若様に殺されることを期待していたらしい。
寛大な若様に感謝しろよ。」
「そ、そうですか・・・」
豊は呆れているけど、龍陽もだ。
主君の仇うちとか言ってたわりに作戦がお粗末すぎる。
「若様、非礼を働いた貴族の娘とホクヨウの部下たちはいかがされますか?」
龍算が尋ねてきたので、
「北才の処分に任せるよ。僕はこれ以上人族の争いには関与しない。ただ、毒の粉の情報が出てきたら知らせてね。」
龍陽は毒の粉にしか興味がないのだ。
娘や部下からはろくな情報は出てこないだろう。




