北要の残党
龍陽は馬車を降りて昼食の店にやって来た。
ここは北才の屋敷と同様に馬車を降りたらもう室内だ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
店主が案内したのは大きな窓から庭が見える個室だ。
雪はどんどん降ってきていて、庭の葉っぱにうっすら積もっている。
ここは店員が料理を1品ずつ持ってきて、食べ終わると次の料理が出てくる。
味はまあまあだけど、料理ごとに違うお酒も持ってきてくれるのは悪くない。
昨日の晩餐会よりは質が落ちるけど、龍陽は人族製のお酒が一番好きなのだ。
豊はどのお酒も半分ほどしか飲んでいない。
柚子はもっと少なく最初のお酒しか飲まず、他のお酒は断ってお茶を飲んでいる。
「こちらデザートのケーキとコーヒーでございます。」
店主らしき年配の男がケーキとコーヒーを運んで来たけど、
「・・・」
龍陽は竜礼と顔を見合わせた。
竜礼も気づいたらしい。
でも、豊と柚子は気付いてない。
「ねえ?店主さん?」
「は、はい!」
龍陽に呼び止められた男は驚いた顔で振り返った。
「そっちの2人のフォークから変な匂いするよ。」
龍陽は豊と柚子の方を指差すと、男の顔色が変わる。
同時に豊が立ち上がった。
「し、失礼いたしました。お取り替えいたします。」
「若様、変な匂いとは?」
そそくさと部屋を出ていこうとした男を豊が腕を掴んで捕まえながら問いかけてきた。
「たぶん毒じゃないかな?
入ってきた時からずっと殺気出してるし。」
ボゴ
「がっ!?」
豊が男の腹を殴って気絶させた。
「申し訳ございません。せっかくのお食事を。」
豊は頭を下げて謝罪してきたけど、
「別にいいけど、僕らのフォークからは変な匂いはしないね。」
龍陽は目の前のフォークを持ち上げて匂いを嗅ぐけど、金属の匂いしかしない。
「柚子、あとで調査員に解析させる。」
「はい。」
豊に指示され、柚子は問題の2つのフォークをナプキンにくるんでいる。
「申し訳ございません。デザートは口直しに別の店を手配します。」
豊はそう言って部屋の外の部下に指示を出しにいった。
「・・・若様~あまり人族に介入されすぎてはダメですよ~」
竜礼はそう言うけど、
「僕らにも殺気を向けてきたら別でしょ?」
龍陽は殺気を感じる隣の部屋を見ながら答えた。
豊が出ていった方からも殺気を感じるけど、豊はたぶん大丈夫だ。
「え!?」
柚子は怯えた顔で、龍陽の視線の先を追っている。
竜礼にはああ言ったけど、隣の部屋の誰かが殺気を向けているのは、柚子だ。
「も~若様がそう仰るなら~」
竜礼は立ち上がって豊を追っていった。
竜礼も、殺気が龍陽たちに向けられたものじゃないと分かっていながらやっている。
「え?他にも敵がいるの?」
柚子はまだ殺気に気付いてない。
「うん。隣の部屋と、豊が出ていった方と。柚子はここにいなよ。」
龍陽としてはこれ以上騒ぎが起きると困る。
父の耳に入ったらめんどくさい。
なのに、隣の人族は龍陽の言葉で一瞬だけ殺気が緩んだものの、逃げてくれそうにない。
パン
パン
豊たちの方から火薬の武器の音がした。
争う声がし、火薬と血の匂いが漂ってくる。
「あ~あ。騒ぎになっちゃった」
龍陽は机に頬杖をついて、ため息をついた。
竜礼もあちらの敵?の牽制にはならなかったようだ。
「めんどくさいなあ。そっちのおじさん2人は見逃してあげるから逃げてくれない?」
龍陽は隣の人たちにも聞こえるように大きな声で言ったけど、
「え!?いや、私が捕えます。」
なんと柚子が立ち上がった。
「やめときなよ。2人とも殺気出してるから武器持ってるよ。」
「え?でも逃がす訳には・・・」
バン
隣の部屋から扉が勢いよく開かれ、火薬の武器を持った男の人2人が龍陽たちの部屋に入ってきた。
今度は柚子だけでなく、龍陽にも殺気を向けている。
「・・・お前が紫竜のガキか?人と変わらないじゃないか!?」
男たちは龍陽のことを知らないらしい。
「僕に何か用?」
「お前に用はねえ。用があるのは、北豊の女だ。」
男の一人が火薬の武器を向けて柚子に近寄ってきたので、龍陽は目の前のフォークをその男の顔めがけて投げた。
「うわ!?」
男はフォークを避けることもせず、フォークが鼻に刺さって床に倒れた。
「い、いてえ!?なんだ!?」
「・・・なぜ邪魔をする?」
もう一人の男は驚いている。
「この子は僕の案内人だよ。北豊に用があるならあっちだよ。」
龍陽はいまだに銃声が聞こえる方を指差した。
聞こえてくる声からしてあちらはまもなく終わりそうだ。
「こ、このガキ!?」
フォークが刺さって倒れていた男が立ち上がって龍陽の方に向かってきた。
かなりの殺気を出しながら。
「めんどくさいなあ。」
龍陽は仕方なく立ち上がって、向かってきた男の腹に一発拳を入れて気絶させた。
お腹の骨が折れたけど、まあ死にはしないだろう。
たぶん。
「な、なんで!?」
もう一人の男から殺気から消えた。
怯えた顔で、龍陽を見ている。
「で?僕に何か用?」
「し、紫竜に用はないんだ。俺たちが憎いのは主君を、北の貴族様を殺した北才一族だ。
なのに、なぜ紫竜が北豊の女を庇うんだ?」
「女じゃなくて部下だよ。」
龍陽はイライラしながら反論した。
「へ?紫竜の?」
「は?豊の部下だよ。仇討ちならあっちだろ?なんでこの子を狙うんだ?」
龍陽には男の行動が理解できない。
「・・・え?お前の女なの!?」
「はあ!?違うよ!」
龍陽は恥ずかしさと怒りで思わず叫んでしまった。
怒気も出してしまい、男は気絶して背中から床に倒れた。
バタバタ
「・・・若様!なにが!?」
ようやく豊と竜礼が戻ってきた。
「え!?こっちにも侵入者が!?申し訳ございません!」
「別にいいよ。気絶させたから持ってって。あと、お酒のおかわりちょうだい。」
龍陽は自分の席に戻った。
あの男が変なことを言うからだ。
「どうぞ若様~」
竜礼がテーブルの上にあったワイングラスをとって、龍陽のグラスに注いでくれた。
「あっちの騒ぎを抑えられなかったの?」
「無理でした~あっちの人族たちも私のことが分からなくて~銃を向けてきたから、豊が守ってくれたんです~」
竜礼は上機嫌だ。
「父上には伏せといてくんない?」
「無理です~北の貴族兵が北才に報告に行きました。龍算兄ちゃんは族長に隠し事できませ~ん。」
「めんどくさ~人族に制裁とかしないよね?」
父は人族嫌いなのだ。
やっと人が主要取引先になったのに、すぐに仲がこじれると困る。
「若様に危険があったわけではないので大丈夫とは思いますけど~ねえ?」
竜礼のこの笑みは気付いてるな。
人族が龍陽にも殺気を向けたことを。
女は龍陽たちよりも悪意や殺気を感じる力が弱いのに、竜礼は女の中で一番力が強いからかな。
「うん。こいつらの狙いは豊だって言ってた。主君の仇だとか」
「あ!そうです!豊さん!こいつら北要の残党です!」
柚子が豊に報告するけど、ホクヨウってだれ?
「はあ!?なんで今さら!?」
豊には分かるらしい。
「あら~聞いたことある名前~白鳥がらみよね!?」
竜礼も知ってるらしい。
「誰?」
「例の毒入りペンダントを持っていた今は亡北の貴族の一人です。そのペンダントは死後に行方不明になっています。」
豊が教えてくれた。
「んふふ~こいつらなら何か知ってるかもね~良かったわね~若様が生け捕りにしてくれて。」
「ありがとうございました、若様。柚子まで守って下さったようで。」
「・・・豊の部下だから特別にね。
それより騒がしいから移動できる?
龍算が迎えにきたら面倒だから、母上の和菓子買いに行きたい。」
「畏まりました。」
豊はすぐに馬車を手配してくれ、龍陽たちは店を出た。




