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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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深夜の密談

~北才の屋敷~

その日の晩、龍陽は北才の屋敷の晩餐会に来ていた。

今回は龍陽たちは泊まりなので、北才が主催したそうだ。

主要取引先との交流も仕事なので仕方ない。



龍陽の正面には北才と、妻らしき女と息子らしき若い男が座っている。


龍算の向かいには龍陽の知らない男女が座っているけど、位置からして北才の親族なのだろう。


末席の竜礼の向かいには豊がおり、竜礼は食事そっちのけで豊に話しかけている。



豊の屋敷で捕まえた貴族の女は北の貴族兵がとらえて連れていった。

明日、北才の部下が取り調べをし、龍算も立ち会うらしい。


女が持っていた白鳥の匂いがするペンダントがどう龍陽に関係するのか、龍算も気になるそうだ。


ペンダントは龍空の妻が持っていた金のペンダントによく似ていた。

ただ、三角のペンダントトップにはまっていたのは青の宝石だったけど。



「若様?お食事はお口に合いますか?」


北才が問いかけてきた。


「うん。美味しいよ。お肉のおかわり欲しいな。」


「すぐに用意させます。おかわりが来る前に私の一族をご紹介してもよろしいですか?」


「うん。」


「妻の北品(ほくひん)と息子の北研(ほくけん)です。息子の隣は、私の母の北清(ほくせい)で、先代の北の貴族です。

その隣の北開(ほくかい)は私の従兄弟で南の貴族との取引を担当しております。

さらに隣の北豊は、もうご紹介は不要ですね。」



龍算の向かいの男がホクカイだったらしい。

龍陽は名前だけ知っている。雌竜(おんな)との縁談の候補者だ。


元は南の貴族にいたけど、北才が縁談のために呼んだらしい。

だけど、豊が末席にいるということは、北開の方が貴族内での序列は上みたいだ。



「若様にお会いできて光栄にございます。お母様・・・族長の奥様はお元気ですか?」


北才の母である北清が話しかけてきたので、


「陽助の娘の誘拐未遂にショックを受けてたよ。母上の血縁者はちゃんと守ってよね。」


龍陽は釘をさしておいた。



「ま、誠に申し訳ございません。あんな不始末は二度と起こさせません!」


北才が立ち上がって謝罪してきた。



「いいよ。もう座って。」


龍陽はそう言って目の前の白ワインを飲んだ。

おかわりの肉の匂いがしてきたからだ。


北才はしばらくためらった後、席についた。



「おい、若様の侍女の診察は明日には終わるのか?」


龍算が豊に問いかけた。


「申し訳ございません。医師は明日も検査をし、結果は明後日になると申しております。」


「構わん。族長の若様の依頼だ。できる検査は全てしろ。」


龍算も明後日までいるらしい。

今回は単なる検査なのに、龍陽はお守りの補佐官から解放してもらえない。



「若様~?明日は北都を見て回りませんこと?」


今度は竜礼だ。


「え?いいよ。」


そういえば龍陽はちゃんと北都を見て回ったことはない。

母の故郷より寒いこの町はどんなだろう?



「じゃあ明日は北豊に案内してもらいたいわ~

いいわよね?北の貴族殿?」


「もちろんでございます。」


北才は快諾した。

豊は営業スマイルを浮かべたまま何も言わないけど、龍陽も豊の案内なら気が楽だ。



晩餐会は終わり、龍陽は北才の屋敷の客間に案内された。

豊の屋敷に泊まりたかったけど、龍算にダメと言われた。


族長息子の公式訪問なので、泊まるのは族長である北才の屋敷じゃないとダメらしい。



せっかく豊の屋敷で柚子に再会できたのに・・・明日もスミレを連れて豊の屋敷に行くから、その時にまた会えるかな?



「いや、別に会いたいわけではないけど・・・」



思い出して恥ずかしくなってきた龍陽は自分に言い訳した。





「北豊殿」


同じ頃、晩餐会を終えて自分の屋敷に帰ろうとしていた豊は北開に呼び止められた。


「なんでしょう?北開殿?」


「今日の縁談協議の結果をお聞きになりましたか?」


「いえ、まだです。」


今日、北才が龍算、竜礼と縁談の話をしていたことは知っているが、首都の貴族の娘のせいで、豊は晩餐会ギリギリに着いたのだ。



「北の貴族殿は頭を抱えておられますよ。紫竜の補佐官殿は北豊殿以外を、竜礼殿は北豊殿をご指名とか。」



「ほ~」


豊は思わず顔が引きつった。

龍算の反応はいい。予想通りだ。

竜礼はどういうつもりだ?


豊は竜礼との結婚だけは御免なのだ。

龍陽は竜礼に伝えてくれてないのか?


いや、というか竜礼はとっくの昔に気付いているだろうに。豊に好かれていないことに。



「本日は随分と話し込んでおられましたな。竜礼殿と。」


「ありがたいことに、慣れぬ場に緊張している私を気遣って下さったようですね。」


豊は営業スマイルに戻して返事した。



北開が正式に縁談相手に指名された場合に、相手が竜礼になるのか、別の雌竜になるのか、豊には分からないが、竜礼と懇意にしていると勘違いされるのは困る。



「私は晩餐会前にご挨拶しましたが、塩対応でしたよ。まあ、つれない美人もいいものですがね。」



北開も営業スマイルだが、普段よりもわずかに口角があがっているので、竜礼の見た目は好みらしい。

 竜礼は40代の人の女よりも若く見えるし。



「彼女が縁談相手なのかはまだ分かりませんけど、美人なことは確かですね。」


「なのに、北豊殿は紫竜の縁談には前向きではないのですか?紫竜との取引担当者なのに?」


「はは。私には高貴な女性の相手は務まりませんよ。政略結婚とはいえ、早々に愛想つかされるような男を北の貴族殿に推薦させるわけにはいきませんから。」


「やれやれ。相変わらずのご謙遜だ。もっと堂々とされませんと。兵士になめられたままではなりませんぞ。」



『うっぜえな。』


豊は悪態をなんとかのみ込んだ。


このおっさんは何かと豊に対抗意識を燃やしてくるのだ。

くだらない男の貴族同士の権力争いなんて豊は興味ない。


北の貴族一族という地位は紫竜との取引担当者になるために必要な手段でしかないのだ。



「いや~私も北開殿ほどの貫禄が欲しいですよ。」


この場は営業スマイルでかわし続けるのみだ。



「・・・ちらりと小耳に挟んだのですが、紫竜の見た目が人にそっくりなのは、外から見える部分だけだとか?」


北開が急に小声になって問いかけてきたので、


「いや、見た目は人とまったく変わりませんよ。」


豊はつい素で答えてしまった。

北開が縁談に怖じ気づくと困るのだ。


なんとしても豊の代わりに結婚してもらわないと!



「ほう。」


北開は何やらイヤな笑みを浮かべた。


「なんですか?その笑みは?」


豊は嫌な胸騒ぎがするけど、嘘はついていない。



「いえ、北豊殿は服の下までご存知なのですね。」



「・・・紫竜に嫁いだ奥様からそう聞いております。」


豊はあわてて誤魔化したけど、おそらく北開は一瞬ひきつった豊の表情に気付いただろう。



「やれやれ。とんだ茶番だ。」



北開は営業スマイルを崩して去っていった。

間違いなく勘違いされたことだろう。


だけど、豊にはうまい弁解が思い浮かばなかった。




~豊の屋敷~


「あ~くそ!」


豊は自分の屋敷に戻って頭を抱えていた。


なんとしても明日、北開の誤解をとかなければならない。

だけど、どうやって弁解する?


いっそ龍陽に証言してもらえないかな?

豊が嘘をついていないことを。

豊は竜礼に手を出してなんていないのだ。



コンコン



「豊・・・さん?」


「牡丹、今夜は一人にしてくれ。」


豊は牡丹を振り返りもせず答えたのだが、



「いえ、お客様です。紫竜の・・・」



「は!?」


豊は驚いて振り返った。

表情のかたい牡丹の隣にいるのはなんと竜礼だ。



「こ、こんな夜分にどうされました?」


「うちの族長からの伝言伝えに来たの~」


「牡丹、下がれ。」


こう言われては豊は拒否できない。

いや、たとえ竜礼が用もなく訪ねてきても、豊は追い返せないけど!



「ふふ。ごめんね~さっき伝え忘れたの。」


竜礼は部屋に入ってきて扉を閉めた。


「いえ、わざわざありがとうございます。応接室にご案内しますよ。」


ここは豊の私室だし、豊はもう晩餐会の衣装は脱いでいた。



「ううん。いいの~来月中に人族の縁談相手を正式に決めてね~

縁談自体は来年になるけど、こちらにも準備あるから~」


「・・・畏まりました。北の貴族に伝えます。」


豊は拍子抜けした。

わざわざ言いにくるほどのことか?

それもなんで豊に?



「ふふ。こっからは内緒ね~

あのホクカイ?になるならうちからは竜染(りゅうせん)が嫁ぐわ。年齢的にね。」



「北開なら、ですか?」


「うん。豊なら私」


「・・・左様ですか。」


豊はまた顔がひきつった。



「内緒ね~豊に漏らしたことがばれたら、私が紫竜一族から処罰されちゃうから。」


竜礼は普段通りの笑顔で言うので、本当なのか嘘なのか分からない。

だけど、狼族と熊族から聞く限り、事前に紫竜の縁談相手が知らされることはなかったはずだ。



「なんで私にそんな話を?」


「豊は私が相手なら嫌って言ったんでしょ?私は騙し討ちで豊と結婚したいわけじゃないの~」


「いやいや、私は縁談相手を選べる立場ではないと申し上げただけですよ。」


豊は否定したが、竜礼にも豊の本音が伝わっていることが分かってほっとした。



「ホクカイを見倣ってほしいわ~彼は是非自分をってアピールしてきたわよ。」


「ああ。北開殿は竜礼様を美人だと絶賛しておりましたよ。」


豊は北開を売り込んでみたけど、



「やーよ。他の雄には興味ないの。」



竜礼は相変わらずだ。



なんで豊はこんなに惚れ込まれているのやら?

竜礼に嫌われようとあれこれ工作してるのに!



「兄君の補佐官殿は北開殿をご希望では?」


北開から先ほどそう聞いたし、現に竜礼の兄の龍算は豊を嫌っている。



「え?あはは~まさか。龍算兄ちゃんはね~いつまでも覚悟を決めない豊に怒ってるのよ~

あんな男に可愛い妹はやれないとか言ってさ~余計なお世話よ。」



竜礼は大笑いだ。

嘘はついていない。残念ながら。



「兄君は正しいですよ。覚悟のない男と政略結婚するべきじゃないですよ。」



「いいのよう。私は豊に愛も情も子作りも求めないわ~私のことは死ぬまで好きになれないままでいいの。」



竜礼はいつもの笑顔でそんなことを言う。


「そんな結婚に何の意味があるんです?」


豊には理解できない。

豊なら、そんな結婚は絶対に嫌だ。



「だって私はそういう生き物だもの。私の歴代の夫はみ~んな私のことが嫌いだったわよ。

私にとって夫ってそんな存在だもの。」



「・・・好きな男と夫婦になったのに、その夫は貴女のことが好きではないなんて、そんなの、結婚しない方がましじゃないですか?

情のない夫との結婚よりツラくなりませんか?」



「ふーん。人族はそんな考えなんだ~私には理解できないわ。

私はね~豊が人族の女を好きでもいいの。だって人族は同種繁殖の生き物だから。

でも紫竜(どうぞく)の女はダメ。もしも豊と結婚するってなったら、私はきっと嫉妬で雌竜(どうぞく)を殺しちゃうわ。」



そう言って眼を見開いた竜礼は一瞬だけ両目が深紅の、まるで獣のような眼になったので、豊は背筋に寒気が走った。



豊には紫竜の考えは分からない。

だけど、竜礼の話的に、紫竜にとって結婚とは、伴侶の愛や情を求めるものではなく、相手を縛る手段のように聞こえる。



「人は・・・結婚したら相手に一番に愛される存在になりたいと思う生き物ですよ。」


「私は誰よりも豊が好きよ~」


「いや、そうじゃなくて・・・貴女は夫から一番に愛される存在になれないじゃないですか?」


「仕方ないわよ~私はそういう生き物だから。」


竜礼には、豊の言いたいことが伝わらない。



「紫竜にとっては、伴侶から愛されないってことは悲しいことではないんですか?」



豊はとうとう尋ねてしまった。



「悲しいわよ?そりゃ、私にだって豊に愛されたいって願望くらいあるわよ。でも無理なものは無理。私は愛されない生き物だから。

無理難題を豊に求めて苦しめたくないの。」



「・・・龍希は芙蓉さんに愛されてるじゃないですか?思い込みですよ。貴女にだって、これから運命の出会いがあるかもしれませんよ。」



豊は言葉を吐き出した。

頭では分かっていても、言葉に出すと・・・心が痛い。



「んふふ~豊はロマンチストねえ。

芙蓉ちゃんが龍希に情を抱くまで何年かかったかな~!?最初は芙蓉ちゃんも嫌ってたのよ。」



「そうなの!?」


豊は初耳だ。


「も~芙蓉ちゃんのことになると目の色変わるんだから~嫉妬しちゃう。」


「そっちは色どころか目自体が変わってたぞ!?」


豊は先ほどの獣の眼を思い出してまたゾッとした。



「あらやだ!?気をつけるわ~」


「なんで芙蓉さんは好きでもないのに龍希と!?」


「さあ~!?芙蓉ちゃんは龍希が見つけてきた妻だから、私たちは縁談の世話をしてないの。」



芙蓉さんは最初から異種族の夫を受け入れていたわけではなかったのだ。

それどころか龍希が嫌いだった!?


心を通わせるまでに、夫を愛せるようになるまでに、何があったのだろう?

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