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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
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再会

11月のある日、龍陽は侍女のスミレを連れて豊の屋敷に来ていた。

今回は人のふりをする必要はないので、空飛ぶ馬車で北都にある豊の屋敷に直接来たので楽だ。


同行してきた龍算と竜礼はそのまま馬車に乗って北才の屋敷に向かった。

北才と取引と縁談の話があるらしい。



北都は先月よりも更に寒く、夜になると雪が降るらしい。

でももう朱鳳のストールはないので龍陽は厚手のコートとマフラーをしてきた。



「スミレ寒くない?」


龍陽は2歩後ろを歩くスミレに振り返りながら尋ねた。


「大丈夫です。若様」


スミレは真っ白な息を吐きながら答えるけど、悪意が出たので嘘だ。

顔は真っ白だし。



「お待ちしておりました、若様」


豊が出てきて出迎えてくれた。


「寒すぎるよ。」


「どうぞ中に。すぐに温かい飲み物を用意させます。」


豊はそう言ってストーブを焚いた応接室に案内してくれた。



「侍女のスミレだよ。」


龍陽はコートを脱いで、豊にスミレを紹介した。


「初めまして。豊と申します。」


豊はスミレに営業スマイルで挨拶している。


結太は微妙な反応だったけど、豊はスミレが嫌ではないみたいだ。



コンコン



「失礼します、お茶をお持ちしました。」


豊の侍女?がお盆を持って入ってきたのだが、



「え!?」



龍陽は顔を見て驚いた。



「私の新しい部下で、この屋敷の侍女をしています。紫竜族長の若様に挨拶しなさい。」


「解放軍の柚子と申します。若様お見知りおきを。」


「知ってる。」


龍陽は呟きながらも事情が飲み込めない。



先月トモエたちと一緒に旅した柚子だけど、龍陽の正体は秘密にしていたのに!?



「え?なんで僕のことバラすの!?」


龍陽は思わず豊を睨んだ。


「若様の活躍のおかげで、柚子はただの混血獣人じゃないと勘ぐったみたいで。ショウが誤魔化しきれなくなりましてね。ちょうど僕のところに欠員が出たので来てもらったんです。」


答えた豊から悪意はでなかった。

それよりも



「まさか陽助の妻の後任!?」


龍陽はショックだ。



「いや、それとは別です。さすがに10代の子をおっさんの妻になんかしませんよ。」


豊が否定したので龍陽はほっとした。

冷静になると、柚子から陽助の匂いはしないし。



「・・・化粧すれば10歳は盛れるって、豊さん言ったじゃないですか?」


柚子はなぜか不満げだ。


「言ったけど、ここじゃ若い侍女役な。」


「分かりました。ごゆっくり。」


柚子は不満そうにしながらも紅茶とクッキーを置いて出ていった。

 


「若様?あの侍女がどうかされましたか?」


「な、なんでもないよ、スミレ。それより紅茶飲みなよ。温まるよ。」


龍陽はそう言ってカップを手にとった。

侍女教育をうけているスミレは龍陽より先に飲むことはないのだ。



「ありがとうございます」


スミレは紅茶のカップを手にとって温かさを楽しんでるようだ。



「医者には診察の準備をさせておりますので、この後ご案内します。診察の間、若様はいかがされますか?」


豊は龍陽の向かいに座って問いかけてきた。


「また陽菜ちゃんに会ってもいい?母上が気にしてたんだ。」


「承知しました。ご案内します。」


豊は快諾してくれ、龍陽はティータイムを終えて、スミレを医師の待つ部屋に行かせ、龍陽は豊の案内で陽菜のいる部屋に向かった。



「あ!若様!」


案内された部屋には陽菜ちゃんのほかに陽助と柚子とは別の侍女がいた。


この侍女には前回も会ったけど、名前は忘れた。



先月、実母を失った陽菜ちゃんは意外と元気そうだ。

陽助に抱っこされたまま龍陽をチラチラと見てくる。



「これ母上から陽菜ちゃんに。」


龍陽は母から預かった袋を侍女に渡した。


「あらすごい!?可愛いおもちゃがいっぱい!」


侍女がおもちゃを袋から出してカーペットの上に置くと、陽菜ちゃんは床に降りてすぐにピンク色のテディベアを手にとった。



「こんなにたくさんありがとうございます。芙蓉さんにまで心配掛けてしまってすみません。」


陽助が近寄って話しかけてきた。


「いいんだよ~父上が口を滑らしたんでしょ。まったく」


龍陽だって、陽助の妻が犯人だってことは母に隠してたのに!



「・・・若様のおかげで娘は無事でした。感謝してもしきれません。」



「いいんだよ。大切な母上の親族だからね。」


「北の貴族様がこの屋敷の警護を強化してくれましたので、誘拐なんて二度と起こさせません。」


「お願いね。また母上が悲しむと困るよ。」


龍陽は不安だけど、陽助家族の警護は北の貴族の仕事だ。



コンコン



「失礼します。」


柚子がやって来た。



「牡丹さん、お客様です。」


「はーい。ここよろしく。」


ボタンは龍陽に一礼して部屋から出ていき、柚子が部屋に残った。



「先月は柚子のことも守って下さったようで、ありがとうございました。」


陽助も先月のことを知っているらしい。


「大したことはしてないよ。」


「いや爆弾を空に蹴り返したって、狼と熊でも噂になってるそうですよ。

彼は何者か!?って。」


「そうなの?あの火薬臭い風を出す玉くらいで!?」


龍陽にはよく分からない。



「はは。人も獣人もあれを喰らったら死にますから。」



陽助は呆れた顔になっているけど、柚子は眉をひそめてしまった。



「ねえ、柚子はどこまで僕のこと聞いたの?」


龍陽は気になる。


「人でも獣人でもなく紫竜という特別な存在ってことと、母親は人ってことを。」


柚子は答えてくれたけど、龍陽と目は合わせてくれない。

やっぱり龍陽の正体を知って、嫌われたかな?



「すみません、若様。まだ柚子は緊張してまして。一昨日この屋敷に来たばかりでまだ誰とも馴染んでないんです。」


陽助がフォローする。


「あ~ごめんね。僕のせいでショウのとこに居づらくなったの?」


「いえ、そういう訳ではないです。あちらの仕事は無事に終わったころに、豊さんのところで欠員が出たと聞いて自分で志願したんです。」


なんと柚子からの希望だったらしい。



「そうなの?僕の正体知ったのに!?」


「・・・私はかつて熊族の奴隷でした。でも数年前、紫竜の奥様のおかげで解放されたんです。」


「え!?母上が!?そんなことしたっけ?」


龍陽は心当たりがない。



「・・・私が元奴隷ってことは気にならないんですか?」


「うん。今は解放軍でしょ?人は気にするものなの?」


「人によります。」


柚子はそう言いながらもなぜかほっとした顔だ。


なんで?



「・・・ん?」


「若様?どうされました?」


「なんか玄関で言い争ってるよ。知らない女の声がする。」


「え!?ここから玄関の音聞こえるの!?」


柚子は驚いている。



「さっきの客かな?」


陽助にも聞こえてないようだ。


「おそらく。女がアポもなく訪ねてきたんです。」


柚子が答える。


「は?外の貴族兵は何してるんだ?」


「それが・・・貴族の関係者らしく、やつら勝手に通したんですよ。」


陽助と柚子は不愉快そうな顔だ。



「・・・なんか紫竜(うち)のこと話してるみたいだね。」


龍陽にも玄関の声は途切れ途切れにしか聞こえない。

龍陽は気になって玄関に向かった。



「・・・だから!あんまりではないですか!?」


「何を今さら・・・」


龍陽が玄関に行くと、コートを着た20代くらいの女性がなにやら豊と口喧嘩している。


牡丹はもう居ないようだけど、女の背後、玄関の外には北の貴族兵が2~3人立って、豊たちを見ている。



「豊、どうしたの?うちの取引のこと?」


「え!?若様!?」


龍陽が背後から話しかけると、豊は驚いた顔で振り向いた。



「申し訳ございません。騒がしかったですか?」


「人には聞こえてないって。この人誰?」


龍陽はやはり見覚えのない女性だし、香水の匂いがキツくて人の匂いは分からない。



「・・・首都の貴族の娘です。紫竜との取引には関わっておりません。」



豊は渋い顔で教えてくれた。



「もしや紫竜族長の若様ですか?」


貴族の娘は驚いた顔で龍陽を見てきた。



「うん。」


「突然申し訳ございません。私は首都第二家の貴族の娘で、央華(おうか)と申します。」


「僕に何か用?」


「私どもは北の貴族からの要請を受けて紫竜の取引に協力するはずでした。熊族との取引を断ってまで北の貴族からの要請に答えようとしましたのに、突然北の貴族から協力関係を打ち切られたのです!」


央華は涙を流しながら訴えてきたけど、悪意が出ているので嘘をついている。



「それで?」


龍陽はこの女がこんな話をしてくる理由が分からない。



「どうか若様よりわが一族に温情を頂けませんでしょうか?」


「なんで?」


「え?」


女は戸惑った顔になっているけど、戸惑っているのは龍陽の方だ。



「おい。この女つまみ出せ。」


豊は不愉快そうな顔で北の貴族兵たちに命じるけど、北の貴族兵は顔を見合わせて動かない。



「な!?北豊様!?なぜ我が家だけそんな仕打ちを!?」



女は豊にくってかかる。



「北の貴族から連絡したとおりだ。第二家は判断が遅すぎた。紫竜の取引のために手を組む価値無しと判断したんだ。

お引き取り願おう。」


答えた豊から悪意はでなかった。



「そんな!?熊族との取引破棄なんてすぐに決断できることじゃないのですよ。」



「もううちには関係ない話だ。せいぜい熊との取引を大事になさいませ。さ、お引き取り願おう。」


豊は普段と違って冷淡だ。



「わ、若様!?どうか!?」


女はまた龍陽に訴えてくるけど、何が?



「人族のもめ事に僕は介入しないよ。」


龍陽はもうこの女の相手がめんどくさい。

けど、香水とは別の匂いに気づいたので豊を一人にはできない。



「もめ事なんて!?我が家の協力なくては紫竜との取引にご迷惑をおかけしてしまいますわ!」



「そうなっても責任とるのは北の貴族だよ。お姉さんは関係ない。」



「そ、そうですが・・・で、でも人の不始末は族長の奥様にもご迷惑が・・・」


「僕の母上を心配してくれるの?」


「も、もちろんでございます。」


答えた女から悪意が出た。



「ならお姉さんの胸元にある白鳥の匂いがする物を僕にくれない?」



龍陽のお願いに、女は顔色を変えた。



「おい!何を持ってる!?」


豊も顔色を変えている。



「・・・こ、これは若様には関係のない物です。」


女からはまた悪意が出る。

どうやら白鳥の匂いがする物は龍陽に関係があるらしい。



「困ったな~人族は弱いから力加減間違うと殺しちゃうんだよね~!?」



龍陽がそう言って微笑み掛けると、女は顔を強ばらせて一歩下がった。


「若様、殺しても問題ありません。」


そう言った豊から悪意は出なかった。



「さ、差し上げますから、命だけは・・・」



女は震えながら金のペンダントを差し出した。

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