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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第2章 霊山編
45/68

北李

翌日の午後、北の貴族の使者が狼族本家にやって来た。


「北の貴族の代理で参りました、北豊です。」


豊は狼族長ではなく龍陽たちに向いて挨拶する。



「は~い、豊!先日ぶり~」


竜礼は上機嫌になって、豊に昨日のことを説明し始めた。


龍算は怖い顔だけど豊を睨むだけで竜礼を止めはしない。

豊は相変わらずの営業スマイルだ。竜礼は本物の笑顔なのに。



「北豊様!出ました!」


竜礼が説明を終える頃、ペンダントの粉を調べていた豊の部下が声をあげた。



「やはり解放軍の毒ですね。」


豊の報告に、狼族長とシーヨという補佐官は顔が強張っている。



「熊の補佐官は私を毒殺しようとしたのかしら?お兄様?」


北李が豊に問いかけた。


「どうだろうな。むしろ犯人に仕立て上げようとしたんじゃないか?お前が出入りする工房から同じ毒が見つかったんだろ?」



「そ、そんなバカな!?なぜ熊が!?」



声をあげたのはガイルだ。


「落ち着きなさい、ガイル。熊族に問い合わせたら、うちを訪ねてきた補佐官は竜礼様の言う失踪した熊で間違いないそうよ。

狼族本家の訪問は熊族長の命令だったけど、北李に贈った金のペンダントは熊族は心当たりがないと言ってるわ。」


シーヨがガイルを宥めながら教えてくれた。



「北の貴族殿はその熊の補佐官に心当たりは?」


狼族長が豊に問いかけたけど、豊は首を横にふった。どうやら熊の補佐官は北都には行っていないらしい。



「ねえ、豊?豊の推理どおりとしたら、工房内の粉に毒を混ぜたのも熊の補佐官の仕業よね?

どうやったのか分かる?」



竜礼は豊に問いかける。



「熊の補佐官やその部下は工房には入っていないのですか?」


「はい。それは間違いありません。」


ガイルが答えた。



「・・・残念ながら僕には見当がつきませんね。侵入者がいれば狼族が匂いで気付くでしょうし。」


豊にも分からないらしい。




「あ!そうだ!豊、頼みがあるの。」


龍陽は思い出した。


「なんでしょう?紫竜の若様?」


「僕のこれに毒の粉が入ってないか調べてくれない?」


龍陽は母のスノードームを取り出して豊に手渡した。



「・・・畏まりました。ただ、中の粉を取り出すにはスノードームを壊す必要がありますがよろしいですか?」


「え?それは困るなあ。僕の大事な物なの。」


龍陽は困った。

これは安全を確認したら母に返すのだ。



「・・・あの工房で作ったものですよね?壊さずに解体して粉を取り出せますよ。」


北李が意外なことを言い出した。



「なら頼む。ちゃんと直せよ。」


豊は北李にスノードームを手渡した。


「工房で作業してきてもよろしいですか?」


北李は龍陽に尋ねてきたので、


「僕も見てていい?」


北李は嘘をついてないけど、龍陽は母のスノードームが心配だ。



「若様が行かれるなら私も。」


「私もいきます~!豊もよ。若様が依頼したのはあなたなんだから~」


龍算と竜礼が言い、結局皆で工房に行くことになった。

狼族長、シーヨとガイルも着いてきた。



~おもちゃ工房~

ガイルが作業員たちを追い出し・・・というか龍陽たちに怯えた狼作業員たちはそそくさと工房から出て行った。



北李は手袋とマスクをして机に座り、何やら金属製の棒を火で炙っている。


そのそばには豊の部下2人が同じく手袋とマスクをして控えている。

毒の粉は吸い込むだけで体調不良になるらしく、龍陽は離れた場所からしか見学させてもらえない。



北李はスノードームをひっくり返して台座を上にすると、炙った棒で母のスノードームに何かし始めた・・・と思ったら、スノードームの台座が外れた!?



「え!?なんで!?」



「接着剤を熱で溶かしたのです。若様。北李は器用ですからスノードーム自体に傷はつけません。」


ガイルが教えてくれた。


北李はスノードームのドーム部分を豊の部下に渡すと、豊の部下は中身の水と白い粉をトレーに移して向こうの壁際の机に持っていった。


あちらで毒の検査をするらしいが、結果はすぐに出た。


「毒の反応は出ません!」


報告した豊の部下もうそをついていない。

龍陽はほっとした。



「紫竜の若様?中身の水と白い粉はこの工房の物をお入れしてもよろしいですか?

毒が入っていないことは確認済みですので。」


北李が尋ねてきたので龍陽は頷いた。


北李は手袋とマスクをはずすと、空の小皿を持って立ち上がり、3つの容器からそれぞれ大きさの違う白い粉を出すと、小皿に盛っていく。


あの粉を混ぜてスノードームに入れるらしい。


北李は机に戻るとスノードームのドーム部分に水と小皿の粉を入れ、今度は台座を手に取った。


台座には人の女性と雄狼の人形が固定されている。



北李は今度は机の引き出しから赤い蓋のついた容器を取り出して蓋を開けた。



「あれは何?」


龍陽はガイルに問いかけた。


「接着剤の容器です。あれでドームと台座を再度くっつけます。」


「なるほどね。」


龍陽は北李に視線を戻した。


北李は木の棒で接着剤をとり、台座に塗っている。

母のスノードームは無事に元に戻りそうだ。



「こちらはどうしますか?」


豊の部下が検査を終えたトレーを持ってきて豊に尋ねている。


「毒はないみたいだし、こちらで処分頂けますか?」


豊はガイルに問いかける。



「再利用は無理ですし、ゴミとして処分しますよ。」


ガイルは快諾してトレーを受け取った。




「若様、お待たせいたしました。ご確認下さいませ。」


北李が修理したスノードームを持ってきてくれたので、龍陽は受け取った。


見た目にも変なところはない。



「ありがと、北李さん。」


「とんでもございません。」




「若様のご依頼は終わりましたね~

じゃあ次は私から狼族長に依頼があるの。隣の部屋を借りてもい~い?」


竜礼が意外なことを言い出した。



「も、もちろんでございます。」


ガイルより先に狼族長が返事する。


「じゃあ狼たちは隣の部屋に来てちょうだい。豊たち人族はここで待っててね~」


竜礼はそう言って狼族長たちを連れて工房から出ていくので、龍陽と龍算も隣の部屋に移動した。




~隣の部屋~


「竜礼様?なんでございましょう?」


「し~静かにしてて。」


竜礼は狼族長を遮って壁際に移動した。



「竜礼?何してる?」


龍算も困惑している。



「盗み聞き。豊は何かに気づいた顔してたの~」



「ほんとに?」


龍陽は半信半疑で、豊たちが残った工房側の壁に近寄ると、豊と北李の声が聞こえてきた。




「災難だったな、北李。無事で何よりだよ。」


「それはどうも。お兄様」


「気持ちわりいな。今は豊でいいよ。」


「あらひどーい!こんな可愛い妹に」


2人はうってかわって打ち解けた様子で会話しているので、龍陽たちの盗み聞きには気付いてないらしい。



「にしても、なんで熊が?」


「黒幕が熊かは分からないが、北才が紫竜の取引先になったからだろ。これまで以上に警戒しろよ。お前が暗殺されたら狼族との関係にヒビが入る。」


「どう警戒しろって言うのよ。まさか夫の工房にまで毒を持ち込まれるなんて・・・」



「あ~そうだ。ここっておもちゃの部品を再利用してるのか?」



「え?ええ。出来損ないのおもちゃを捨てる時に、夫は使える部品は再利用させてたわ。」


「じゃあそれかな。」


「は?何が?」


北李は困惑した声だけど、龍陽にも豊の言いたいことが分からない。



「熊が毒の粉を混入した方法だよ。試供品のスノードームを配ってたろ?それに毒の粉を混入して、修理か交換名目でここの工房に持ち込んだんじゃないか?

何も知らない作業員は持ち込まれたスノードームを解体して毒入りの粉を再利用した、とかな。」



「ええ!?そんな方法あり!?

え、いや待って!スノードームの中に毒の粉混ぜたら中の水にとけない!?」


「あ~そうだな。あの毒の粉は水にとける。となると、ドームを割って水だけ出した後に粉に混ぜたのかな?」


「・・・絶対にないとは言いきれないわ。おもちゃの交換はよくあるし・・・たしか熊族にはいくつもスノードームの試供品を贈ったわ。」


「まあ、俺の推測どまりさ。証拠は何もない。

でも後でお前からガイル殿にだけ伝えとけ。お前を守るためなら対策するだろ。」



「なんで豊が言わないの?」


「この件は狼族から紫竜への依頼だ。俺はでしゃばらない方がいい。何の証拠もないしな。」



「・・・ねえ?あの竜礼って紫竜とどういう関係?」



「彼女は北の貴族の担当らしいよ。族長息子も。」


「それだけじゃないでしょ?豊にだけ態度違いすぎない!?」


「ハニートラップしかけてくる女なんてたくさんいるだろ?」


そう答えた豊から悪意が出たので、これは嘘だ。



「・・・紫竜から北の貴族一族に縁談来てるんでしょ?」


「ああ。取引先になる条件だったけど、紫竜の都合で来年まで延期になった。」


「え?何があったの?」


「さあね。詳しいことは何も。」


縁談の延期は龍応の体調不良で女たちに余裕がないことだけど、父たちは豊にも知らせていないようだ。



「縁談相手は豊だって噂になってるわよ?」


「俺は候補者の一人ではあるよ。北才はまだ決めてないんだ。」


「豊はなんで立候補しないの?」



「人じゃない妻はな~俺はいつ死ぬか分からないしね。」



「まだ危険なことしてるわけ?」


「仕方ないだろ?北才に死なれたら困るし、紫竜の件は俺しかやれない。」


「そうだけど・・・」


「お前に心配されるほど落ちぶれてないよ。」


「あ~そうですか!」


北李は怒った声だ。

この兄妹は仲がいいのか悪いのか分からない。



「あ!そうだ。北李に頼みがあるんだ。」


「なによ?」


「耳貸せ。」


豊の頼み事は龍陽には聞きとれなかった。

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