狼族のおもちゃ
~桔梗亭~
11月の初め、龍陽は龍栄の住まいである桔梗亭に来ていた。
龍栄は龍陽の伯父にあたる雄竜で、父が唯一頭の上がらない相手だ。
「あ!龍陽、来てくれたの!?」
出迎えてくれたのは竜縁だ。
龍栄の娘で、年は龍陽の1つ下だけど、白猫の母なので身体の成長が龍陽たちより早く来年にも成獣しそうらしい。
「うん、これプリンとジュース。龍応はどう?」
龍陽は龍応のお見舞いに来たのだ。
龍栄の息子の龍応は先月から体調を崩しているらしい。
「まだ一日のほとんど寝てるの。時々起きても、ろくにご飯も食べずにぼーっとしてて。」
竜縁はそう言いながら龍応の部屋に案内してくれた。
~龍応の部屋~
「あ!若様!」
ベットで眠る龍応のそばには守番の竜染が付き添っていた。
紫竜の妻は竜の子を産んでも育てられないので、雌竜が守番として竜の子の養育にあたるのだ。
まあ、龍陽たちの母は例外で、ずっと子育てをしてくれているので、龍陽たちは守番に育てられてないけど。
龍応の母は狸の獣人だけど、龍応が幼い頃に龍栄と離婚して出ていったので、竜染に育てられている。
「龍応はどう?」
「相変わらずほぼ寝ています。目を覚ましても大好物のフルーツにもお菓子にも興味を示さずで・・・」
竜染は言いながら涙ぐんでいる。
龍陽は寝ている龍応の顔をペチペチ叩いてみたけど、龍応は起きる気配がない。
ねぼすけの弟でもこれをされると怒って飛び起きるのに・・・
「睡眠薬じゃないんだよね!?」
「はい。シュグと狸族の医者にも調べさせましたが、龍応様から睡眠薬は検出されませんでした。」
竜染が教えてくれた。
「ねえ、狼のおもちゃは何か分かった?」
龍陽は今度は竜縁に尋ねた。
龍応は狼族のおもちゃで遊んでいる時に、出てきた白い粉?を嘗めてから体調をくずしたらしい。
「ううん。おもちゃを作った狼も、おもちゃを運んだワシも毒にも、白い粉にも心当たりはないって。」
竜縁もお手上げらしい。
「若様」
龍栄がやって来た。
「あ!龍栄伯父さん、お邪魔してます。」
「お見舞いありがとうございます。ちょうど良かった。族長への伝言をお願いできませんか?」
龍栄からの頼み事なんて珍しいけど、龍栄は体調不良の息子から離れられず、本家に出てきていないから仕方ない。
「もちろん。なんですか?」
「たった今、狼族長から報告が届きました。狼族のおもちゃから毒の粉が見つかったそうです。
息子のおもちゃとは違う種類で作られている場所も別だそうですが、全くの無関係とも思えません。」
「え!?毒の粉ってまさか!?」
龍陽は思わず大声が出た。
解放軍の毒と呼ばれる猛毒が白鳥により粉末化されて出回っているのだ。
龍陽はその製造元を探るために、先月まで母の友人であるトモエやその部下の豊と協力して動いていた。
龍栄は黙って頷き、狼族長からの手紙を差し出した。
「族長に確かに伝えます。」
龍陽は急いで紫竜本家に戻った。
~族長執務室~
龍陽が父に報告に行くと、父は狼族長の手紙を読んですぐに、補佐官の龍算と相談役の竜礼を呼んだ。
「龍応様は毒の粉で!?」
龍算と竜礼も驚いている。
「まだ分からん。というかあの粉は飲んだら即死だろ?龍応は生きてる。」
父は冷静だ。
「いいえ~あの粉は薄めると遅効性になりますし、さらに量が少ないと獣人でも生き残った例はあるそうです。」
竜礼の話は初耳だ。
「そうなのか!?」
父も驚いている。
「はい。ワシ族からそう報告が来ています。ワシが気付かずに薄めた毒を飲んだ後、飛行中に毒が効いてきて墜落死する事件がいくつも起きているそうです。ですが、飛行しなかったワシは体調不良で済んでいるそうです。」
「それも白鳥の仕業か?」
「まだ分かりませんが、特にハクトウワシ族はうちに妻を差し出さないのに、族長の奥様に気に入られて主要取引先に次ぐ立場になりましたので、白鳥族に動機はありますわね~」
「芙蓉は関係ねえよ!ハクトウワシ族が取引量を増やしてきたからだっての!」
父は怒っているけど、ハクトウワシ族長の妹であるケープが母の友人なのは事実だ。
昨年にケープには孫が生まれたそうで、母はケープにお祝いを贈っていた。
「何にせよ、狼のおもちゃは調べる価値がございますね。」
「ああ、龍算の言うとおりだ。お前ら3人で狼族長のところに調査に行ってこい!」
「はい!族長!」
龍陽は龍算、竜礼とともに返事した。
~リュウカの部屋~
龍陽は父の執務室を出て、母の部屋にやって来た。
「あら、龍陽」
母はいつも通り笑顔で迎え入れてくれたけど、母の膝には弟の龍風がいる。
「龍風、シリュウ香作りは?」
龍陽は呆れた。
弟は今日は朝からシリュウ香作りを父から命じられていたはずだ。
「もう終わったよ。」
「は!?嘘つけ!父上から100個作れって言われたろ?」
「うん。そのくらいすぐ作れちゃうよ。兄ちゃんが遅いんだよ。」
龍風は嘘はついてなさそうだけど、早くない!?
「こらこら。龍陽はシリュウ香作り以外のお仕事もあるの。そんな言い方はダメよ。」
母は弟を叱る。
「はーい。ごめん、兄ちゃん」
弟は母の前では素直だ。
「龍陽はお仕事終わり?」
母が尋ねてきた。
「うん、今日は。明日から狼族領に出張になったよ。」
「あら!?一昨日帰ってきたばかりなのに忙しいのね。気をつけてね。」
母は少し寂しそうにしながらも引き留めはしなかった。
「ねー母上?狼族領には狼に嫁いだ豊の妹がいるんだよね?もしも、会う機会があったら挨拶くらいしてきてもいい?」
「え?ええ、もちろん。ただ、龍陽の方から会いたいとは言わないであげてね。妹さんは私に頼らず頑張ってるから。」
母は驚いた顔をした後、龍陽に釘を刺した。
「うん。分かってる。・・・ねえ?豊が持ってきたスノードーム借りてもいい?
妹さんとの話のネタに。」
龍陽は平静を装って本題を切り出したのだが、母は眉をしかめた。
「あれ?母上?ダメ?」
「龍陽、あなたのお仕事には私に言えないことがあることは分かってるわ。だから隠し事をしないでとは言わないわ。
でも、ママは嘘をつかれるのはイヤよ。」
「・・・ごめん。」
龍陽の魂胆は母に即バレた。
「兄ちゃん嘘ついたの?」
弟は怪訝な顔だ。
「ん~嘘はついてないよ。ギリ。豊の妹に会うことはもう決まってるんだ。でも僕から頼んだ訳じゃないよ。それで母上のスノードームが必要なの。」
「もう。最初からそう言ってよね。
でも悪いのは夫ね。龍陽に言わせるなんて。」
母は父が龍陽に指示したことまでお見通しだ。
父が母にスノードームを借りればいいのに、事情をうまく説明できないからと龍陽に命じたのだ。
父は今夜、母に怒られるに違いないけど、龍陽は悪くない。
「あのスノードームがどうかしたの?危険な物?」
母は本当に鋭い。
「僕が危険じゃないことを確認してくるよ。」
龍陽は母の目を見て答えた。




