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結太の手紙

三輪はそれから2日間、別荘で人族の医者が診ていたらしいけど、2日間の昼には食欲も戻り、元気になったので、医者はやはり過労だろうと診断を出したそうだ。


三輪も過労を知っているらしく、医者の診断に納得して、もう大丈夫と言ったそうで、龍緑は三輪を睡蓮亭に連れて帰ったそうだ。


この件はこれで一件落着となり、どさくさにまぎれて龍陽の夜遊びは怒られなかった。



人族の医者と豊は帰って行ったらしいけど、龍陽の母はまだ元気がない。

父は母のことも豊たちに相談していたけど、


人は親を亡くしてしばらくは落ち込む生き物だから特に治療は必要ない


というのが医者と豊の回答だった。


嘘はついてなかったけど、母の役にはたたないじゃん!

と龍陽は不満に思った。


でも父は納得したようで、それ以上は求めなかった。


父は昔から人族嫌いで有名だけど、意外なことにあの豊のことは信頼しているようだ。



龍陽は豊のことをほとんど知らない。


豊は母の友人であるトモエの部下で、何年も前に一時期、紫竜領の別荘に居たことがある。

 龍陽は母と一緒に豊に会いに行ったのだ。


その時、母は豊のことを褒めていたけど、あれきり母が豊と会うことはなかったはずだ。

龍陽の知る限り。


なのに、父が豊を信頼しているのは、母が豊を気に入っているから?

いや、嫉妬深い父なら豊を毛嫌いしそうだけどな?

母の同族で歳も近い男なんて・・・



「・・・様?若様!」


「わ!?なに?」


龍陽は呼ばれて我に返った。

呼んでいるのは父の執事だ。



「取引のお時間です。お支度は終わられましたか?」


「あ、ああ。行こう。」



龍陽は思い出した。

今日は取引まで時間があったので、作業場で1人シリュウ香を作っていたんだった。


シリュウ香が固まるのを待つ間に物思いにふけっていた。




~取引の部屋~


「若様、本日もよろしくお願いいたします。」


今日最初の取引相手は狼族だ。狼族長の代理の雄狼が来ている。

 龍陽はまだ子どもなので、父の取引に同席して取引を学んでいる。

族長である父の取引先は一族の主要取引先のみだけど、それでも取引先の数は多い。


シリュウ香の取引量も多く、父の補佐官である龍景(りゅうけい)が次々と父のシリュウ香が入った箱を運んでいる。

 


狼族はこの数年、他種族との縁談を増やしており、シリュウ香の需要が増しているらしい。

 狼たち獣人にとって、シリュウ香は他種族との子作りに欠かせないのだそうだ。


父の補佐官たちは、父の取引がある時は父の補佐をし、ない時には補佐官自身が担当する取引先との取引をしているらしい。


担当取引先は一族の会議で決めるらしいけど、父から取引を引き継いだり、妻や母の種族を担当することが多いらしい。


でも龍陽の母の種族は取引先になっていない。

人族は異種族との婚姻を嫌うので、シリュウ香の需要はないのかもしれないけど、取引先の中には自分の種族で使わず転売しているところもあるらしいから、人族が取引先でないのにはほかに理由がありそうだ。


人族は龍陽の母の種族なのに、龍陽はまだ子どもだから教えてもらえないことは多々ある。

 



~リュウカの部屋~


龍陽が取引を終えて自室に戻って来ると、侍女のカカが呼びに来た。


母が龍陽を呼んでいるらしい。


母は昨晩は一緒に夕飯を食べたけど、まだ元気がなく、今朝はいつもの時間には起きて来なかった。



「母上、来たよ。」


龍陽が母の部屋に行くと、母はソファーに座って待っていた。

しれっと弟の龍風もいて、母の膝に頭をのせて甘えている。


弟ももう10歳を超えたのに、妹以上の甘えん坊なのだ。

父が見たら激怒するだろうけど、父は執務室に戻って仕事中だ。



「おかえり、龍陽。結太君からお手紙が来たのよ。」


「え!?見たい!」


龍陽は母の向かいに座り、身を乗り出して母から手紙を受け取った。

 龍陽は結太と文通できないけど、結太は時々、母宛に手紙を送ってくるのだ。


結太は母の家族ではないけど、かつて父が結太を保護していた時に、母が結太に薬師の教育をし、母の希望で結太は母の故郷で薬師として働いている経緯から、父は特別に結太との文通を許したらしい。


 祖父の訃報を知らせてくれたのも結太の手紙だった。



「遅くなったけど、結太君に結婚祝いを贈らないとね。」


手紙を読み終わった龍陽に、母が話しかけてきた。



結太は今年の5月に薬師として独立し、店を開いたそうだ。

同時に結婚もしたらしく、母に手紙で知らせてくれた。


母は大喜びして結婚祝いを選んでいるところに、今度は祖父の訃報が届いて・・・龍陽はすっかり忘れていた。



「あ!」


龍陽はいいことを思い付いた。



「ねえ、母上。結婚祝いは僕が届けに行くよ。」


「え!?」


母は驚いている。



「久々に結太兄ちゃんに会いたいし、僕もお祝い言いたいの。お願い!」


「え!?わ、私はありがたいけど、夫が何て言うかしら・・・それに龍陽も忙しいんじゃないの?」


「僕は平気だよ。だいぶシリュウ香作り早くなったんだ。母上から父上にお願いしてくれたら大丈夫!」


「そ、そう?じゃあお願いね。結太君もきっと龍陽が会いに行ったら喜ぶわ。

あ!でも事前に時間を決めておかなくちゃね。結太君のお仕事の邪魔になっちゃいけないわ。」



母は嬉しそうなので、龍陽も嬉しくなった。

 母は望むことを父にも龍陽にも滅多に教えてくれないので、母が喜ぶことをできるのは嬉しい。



「え~息子でもないのに、結婚祝いとか必要?」


龍風は不満げだ。


「人は息子以外でもお祝いを贈ることがあるのよ。結太君の結婚を聞いて、ママはとっても嬉しいの。」


「ママがいいならいいけど~」


龍風は不満そうな顔のままそう言う。



「ふふ、やだわ。龍風は結太君に嫉妬してるの?」


「してないも~ん。」


龍風は図星だったらしい。


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