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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
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テント

~狼の町郊外~


トモエとショウは狼の店で手早く買い物をして戻ってきて、龍陽たちは馬車に乗って閉門ギリギリに町から出た。


町の中では野宿はしないらしい。

月明かりを頼りにショウたちは森の中で野宿できる場所を探しているが、龍陽はよく分からないので馬車の中で待っていた。


日が落ちて外はかなり寒く、馬車の中なのに吐いた息が白くなっている。

だけど、龍陽は朱鳳のストールを身体に巻いているのでさほど寒さは感じない。



龍景は馬車から降りてショウたちとともに森の中を見に行き、しばらくすると戻ってきて馬車を移動させた。



「ここ?」


馬車が止まったので龍陽は外に出たけど、普通の森の中だ。

ショウたちは何を探していたのだろう?



疑問に思う龍陽をよそに、ショウと柚子は木の棒と表面がテカテカしている布で何かを作り始めた。


トモエは馬車から馬たちを外して近くの小川に連れて行っている。



龍景は・・・狼の町でショウが買ってきた薪を地面に並べて火を付けようとしているみたいだ。



「ケイ兄ちゃん?僕は何したらいい?」


龍陽にだけ仕事がない。


「え!?いえ、わか・・・リュウは何も・・・」


「リュウ!こっち手伝って!」


柚子に呼ばれた。



「うん、何?」


龍陽が柚子たちの方に行くと、何やら布が三角柱のような形になっている。



「そっちのバケツに小川の水汲んできて」

柚子は三角柱を作りながら顔をバケツの方に向ける。


「分かった。」


龍陽は3つのバケツを持って小川に向かう。


小川ではトモエが馬たちに水を飲ませていた。



「わか・・・リュウ?どうしたの?」


トモエが気付いて問いかけてきた。



「水汲みに来たの。」


「ありがとう。飲み水だから馬よりも上流で汲んでくれる?」


「いいよ。」


トモエに言われて龍陽は川上に向かった。

少し懐かしい。


昔、母の故郷の山に行った時も、母方の祖母は山の小川で飲み水を汲んでいた。

川の水を飲むなんて龍陽は初めてだったけど、意外と美味しかったのだ。



ここの小川の水も嫌な匂いはしないので、問題なく飲めそうだ。



龍陽がバケツ3つに水を一杯入れて戻ると、火が点いていて少しだけ温かくなっていた。


ショウと柚子は鉄製の鍋を出して食事の用意をしているけど、火から離れた場所に作られたあの三角柱の布は何なんだろう?



「あ!リュウ!どこまで行ってたんだ!?」


龍景が龍陽に気付いて駆け寄ってきた。



「水汲んできた。」


「助かる。こっちに一つくれ。」


ショウが話しかけてきたので、龍陽はバケツを持ったまま火の近くに行った。

火のそばはかなり暖かい。



「へ~意外と力持ちなのね。」


柚子はなぜか龍陽を見て感心しているけど、バケツ3つで!?



「お前、リュウをバカにしてるだろ?」


龍景が柚子を睨む。


「してないわ。褒めてるじゃない。」


柚子は反論しながら龍陽からバケツを一つ受け取った。



「柚子、お喋りはいい。ここは頼んだ。」


ショウはそう言って立ち上がると馬車に向かい、馬車の中から布を取り出してきた。


あれは馬車の椅子に掛かっていたカバーかな?


ショウは御者台に敷いていたカバーも外すと、それらを抱えて三角柱に入って行った。



「ねえ、ケイ兄ちゃん?あれなに?」


龍陽は小声で尋ねた。

また柚子に不審がられそうだけど、火のそばが温かくてここを離れてまで質問したくない。


「テントだよ。人のやつは初めて見るな。あの中で寝るんだ。」


「え!?寒くない!?」


龍陽は驚いた。



テントは知っている。

家族で牛領の牧場にソフトクリームを食べに行くと、牧場の中に休憩用のテントがいくつも建っていた。


もっと大きくて広くて、テントの中は外よりも涼しかったのだ。



「寒いよ。でも風と夜露をしのげるだけましだ。あとはこいつと。」


龍景は渋い顔で焚き火を見るけど、こんな小さな火ではストーブ代わりにもならない。



「温石によさそうだぞ。少しはましになる。」


ショウが拳よりも大きな石をいくつか持ってきた。



龍陽は温石も知っている。

これは母が教えてくれた。

石を火で温めて、布に巻いてお布団に入れるのだ。


母は火鉢で作っていたけど、ショウは持ってきた石を焚き火に投げ込んでいる。



柚子が鍋を火にかけて料理を作ってくれた。

完成する頃にトモエも戻ってきて5人で火を囲んで座った。


鍋の中身は乱切りした鶏肉とジャガイモのスープで、味付けは塩だけとなんともシンプルだけど、味よりも温度が嬉しい。


むしろ添加物がない分、豊の屋敷の食事よりも龍陽は好きだ。

いや、でもダシと胡椒は欲しいかも・・・龍陽は途中で味に飽きたけど、お腹は空いているので完食した。



寒さはどんどん酷くなる。

朝まで薪は足りるのだろうか?


龍陽は不安だ。

というか徹夜するのかな?


龍陽は平気だけど、人は?



「交代で眠りましょう。」


龍陽の心を読んだかのようにトモエが言い出した。


「司令官、先に休んでください。」


ショウが譲る。



「そうするわ。2時間交代にしましょう。リュウとケイは最初に休む、次にする?」


トモエが尋ねてきた。

2時間ずつ仮眠を取るってことかな?



「俺は仮眠はいらない。お前らより鼻も耳もいいから見張りはしてやる。リュウを最初に休ませてくれ。」


龍景は寝ないらしい。


「僕はまだ元気だよ。司令官お先にどうぞ。」


龍陽は譲ったのだが、


「じゃあ私と一緒でもいい?3時間交代にして次にショウと柚子が休むのはどう?」


トモエは意外なことを言い出した。

あの狭いテントで二人で寝るの?



「なら男女で別れたほうが・・・」


ショウはそう提案するけど、龍陽はどっちも嫌だけど、男の人と一緒に寝るほうが嫌だ。

人に限らず他の雄と同じ室内に居たくない。

同族の男も嫌だ。


これは紫竜の本能らしい。

紫竜の男は成人すると各々が屋敷を買い、一緒に外出することになっても馬車も別、泊まる場所も別だ。



「僕は司令官と一緒でもいいよ。」


龍陽が答えると、トモエは頷き、二人で最初に寝ることになった。

各々温石を持ってテントに入ったけど、トモエと龍陽が並んで眠れるかギリギリのスペースで寝転がるとトモエと肩が当たる。



「ごめんね、狭くて」


「大丈夫だよ。トモエは嫌じゃない?僕と近くて」


龍陽の匂いはしないはずだけど、紫竜は獣人からは嫌われる生き物なのだ。



「嫌なことなんてないわ。お休み」


トモエから悪意は出なかった。


ものの数分でトモエから寝息が聞こえてきた。トモエは母よりも寝るのが早い。



龍陽は寝心地が悪くて眠れない。

地面とは布1~2枚しか離れていないので地面の冷たさを感じるし、何より固い。

掛け布団はなく薄い布だし。


龍陽は母と眠っていた頃を思い出していた。

こんな環境で寝ることはなかったけど、子どもの頃は母の体温と匂いに安心して眠っていた。


トモエは母とは匂いが違うけど、嫌いな匂いじゃない。

女の人の匂いだ。


龍陽は目をつむって母のことを思い出していた。



ゴソゴソ



生き物が動く音と震動で龍陽は目を開けた。

いつの間にか眠っていたようだ。



「交代だ。」


これはショウの声だ。

どうやら3時間経ったらしく、隣のトモエはもう上半身を起こしている。


龍陽も起き上がってテントを出た。



「眠れたか?」


龍景は3時間前と同じ場所に座っていた。

焚き火はやや小さくなっているけど、十分温かい。



「うん。ケイ兄ちゃんは寝なくていいの?」


「大丈夫だ。」


龍景から悪意は出なかったので本当らしい。



父は龍景が補佐官の中で一番弱いと言うけど、今の龍陽よりは強いらしい。

龍陽にはまだ徹夜する体力はないや。



「薄いお茶だけど温まるぞ。」


龍景は焚き火に鍋をかけてお茶を作り、コップに入れて龍陽とトモエに渡してくれた。



「ありがとう」


龍陽はありがたく飲んだ。

身体が温まる。



テントからはショウと柚子の寝息が聞こえるけど、龍陽はトモエとお喋りする気にはならなかった。

眠いし、あまり疲れはとれてない。



「・・・ん!?」


龍景がふいに立ち上がった。


「どうしたの?」


「ワシが近づいてきています。この匂いは・・・」


龍景に言われて龍陽も気付いた。


龍算のワシ執事の匂いだ。

こんな夜中にわざわざ飛んできたらしい。

龍陽と龍景はフードを被った。

執事にも2人の潜入は内緒なのだ。



ワシの執事は龍陽たちから数メートル離れた場所に降りてきた。



「トモエという人族はいるか?」


ワシは普段とは違って険しい顔だ。


「私です。紫竜の執事殿ですね。」


トモエが立ち上がって懐からあの薄紫の便箋を出した。



「主からの返事だ。」


ワシは封筒をトモエに手渡すと、龍陽たちには見向きもせずに飛び立った。


どうやら気付かれなかったらしい。



トモエは封筒を開いて手紙を読むと、龍景に渡した。

龍陽は気になったので、龍景が読んだ後に手紙を見せてもらう。


龍算の字で、


狼の町の名前と宿の名前

今日の11時に訪ねて来いと書いてある。


わざわざ龍算から来てくれるらしい。

熊とのトラブルはなんとか回避できそうだ。

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