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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
35/66

サク

豊が屋敷に戻ってくると、北の貴族兵が侵入者の死体を運び出しているところだった。


豊の部下で、普段は屋敷で庭師をしているサクが立ち会っている。

サクも解放軍の所属で豊より少し若い男だが、銃の腕は豊は同じくらいだ。



「サク、何があった?」


「豊さん帰ってきたんですか!?また侵入者です。人が6人、全て始末しました。」


サクは

大したことないのになんで豊は帰ってきた?

という顔だ。



「今日は客人がいるから帰ってきた。」


豊はそう言って応接室に向かった。




~応接室~


コンコン



「失礼します」


豊が応接室に入ると、出掛けた時と同じく

司令官

紫竜の2人

と陽助がいる。



「あれ?もう帰ってきたんですか?」

陽助が不思議そうに尋ねてきた。


「ああ。すみません、お騒がせしたようで。」


「なんともないわ。私たちは掃除が済むのを待ってただけ。」


司令官の回答に豊はほっとした。



「皆殺しか?白鳥の仲間じゃないのか?」


龍景が尋ねてきた。


「違います、白鳥とは無関係です。他の貴族の刺客か解放軍に恨みを持つやつらか、いずれにせよ私を狙ってきたのですよ。」


豊が否定すると、紫竜の2人は顔を見合わせている。

そんなに意外なことなのか?



「ねえ、豊?解放軍は毒の根絶を目指してるんでしょ?なんで白鳥と無関係と分かるの?」


龍陽が意外なことをきいてきた。



「え?それは・・・」


豊はそう言うものの、はっとした。



どうして豊を狙う暗殺者は毒の粉とは別だと思い込んでいたのだろう?



「いえ、確かに若様の言うとおりですね。侵入者は皆殺しにしろと命じたのは私です。申し訳ありません。」



「え?いや謝ることじゃないけど・・・生き残りがいたら僕らが訊問くらいしたのになって。」


「・・・いいのですか?」


豊は驚いた。

龍陽たちの目的は司令官を囮にして毒の粉の関係者を見つけることなのに!?



「・・・毒の粉に関係しそうなら、な。それ以外では人族に干渉しない。」


龍景が渋い顔で釘をさす。



「では若様方にお願いしたいことがございます。外を警備していた貴族兵に内通者がいる可能性はあるのです。

6人も侵入してくるなんて過去にはありませんでした。運悪く警護の隙をつかれたとは思えません。」



豊は思いきって頼んでみた。


「いいよ。どうしたらいい?」


龍陽が快諾したので、豊は2人にフードを被ってもらい、貴族兵たちに会いに行くことにした。



龍陽は豊に続いて、豊の屋敷の外に出てきた。

豊の屋敷は3メートル近い塀に囲まれているようで、正面に見える門は壊されておらず、今は貴族兵たちが出入りしている。



「北豊様!?」


気づいた貴族兵が2人近づいてきた。

屋敷内の人たちは【豊】と呼んでいたけど、兵たちは【北豊】と呼ぶらしい。



「侵入者たちはどこから?目撃した兵に話を聞きたい。」


豊が問いかけると、すぐに兵の1人がどこかに走っていき、5分ほどで5人の兵士を連れてきた。

1人は怪我をしているようで血の匂いがする。



「申し訳ありません。」

兵たちは揃って豊に頭を下げる。


「どこから入ってきた?」


「鳥の獣人です。侵入者たちを乗せて塀を飛び越えていきました。」


「鳥!?どこの種族だ?」


豊は驚いている。


「ワシかトンビです。すぐに飛び立ってしまい、追跡はできませんでした。」


「・・・鳥たちは逃げた?なら侵入者たちはどうやって脱出するつもりだったんだ?」


豊は首をかしげているが、龍陽も同感だ。


人は空を飛べない。

兵が囲んでいる屋敷に侵入したら仮に暗殺を成功させても逃げる術がない。



「鳥の接近に気付かなかったのか?」


「気づいておりました。しかしまさか侵入者を乗せているとは思わず、てっきりワシの郵便配達か商人かと・・・」


兵の答えに他の4人も頷いている。



「負傷兵がいるのか?誰にやられたんだ?」


豊は血の匂いがする兵士に向かって尋ねた。


「あ!いえ、これはナイフを仕舞うときに手が滑って自分で・・・襲撃とは関係ありません。」



「そいつだ!」



龍陽はたった今嘘をついた兵士を指差した。



「は?なんだ!?」


兵士たちは怪訝な顔で龍陽を見てきた。



「私の部下だ。お前、その怪我は自分でやったのか?」


豊が問いかけると、例の兵士は頷いた。

悪意は出ていないので、これは本当らしい。


となると、



「今回の襲撃とは関係ないんだな?」


「はい。」


今度は声に出して答えた兵士から悪意が出たので、龍陽はまた指差した。



「なんだよ、お前は!?」


血の匂いがする兵士は龍陽に悪意を飛ばしてきた。


「彼は混血獣人だ。嘘をついている人間が、汗の匂いや鼓動の音から分かるのさ。この兵の身柄はこちらで預かる。」


豊がうまく誤魔化してくれた。


「は!?いや、そんなバカな!?」


「いくら北豊様でも兵士を自由にする権限までは・・・」


他の兵士たちが渋る。



「ならば、その兵士を連れて北の貴族殿のところに行こう。」


豊はそう言うけど、兵士たちは動かない。



「我らは北の貴族様よりこちらの警護を命じられております。北豊様の命より優先されます。」


例の兵士とは別の兵士が反論し、他の兵士たちも頷いているが、豊に殺意を向けているのは例の兵士だけだ。


侵入者の仲間なのは例の兵士だけ?

なら他の兵士はなぜ豊に逆らうのだろう?



「お前らはその警護に失敗したんだ。その上内通者までいるとはな。はあ・・・めんどくさいな。

サク!部隊長を呼んでこい!北の貴族が追加で派遣すると言ってたからもう来るはずだ!」



豊が叫ぶとサクと呼ばれた男の人は門の外に走っていった。



「北豊様、我らはもう外の警護に戻ります。」


「そいつ以外は構わん。」


豊は例の兵士を見ながら答える。



「こいつは何もしておりません。私と彼の間に立っており、迂闊にも自分で怪我をしただけです。」


別の兵士が反論するけど、悪意は出ていない。



「何もしてないなら嘘をつく理由がないな。逃げられたらお前たちの首だけじゃ済まないんだろ?」


豊も譲らない。



「貴族兵よりもどこの誰かも分からない混血獣人を信用なさるのですか?」


他の兵士たちは豊に詰め寄り始めた。


「彼は俺の部下だ。お前たちは北の貴族殿の部下だ。俺を排除しようとする勢力は内外にあるから貴族兵だからと言って盲信しない。」


豊は動じず言い切った。



龍陽が見るかぎり、豊と北才の仲は悪いどころか信用しあっている様子だったけど、部下は違うらしい。



「・・・何をしている!?」


門から貴族兵が1人走ってきた。

他の貴族兵とは服装が違うので、彼が部隊長かな?


豊に詰め寄っていた貴族兵たちは顔を見合わせて数歩下がった。




「北豊様!部下が失礼を?」


「いや、職務熱心で何よりだよ。そこの怪我をしている兵士に事情を聞きたいんだ。警護の任を解いて身柄をこっちに預けてくれ。」


豊は緊張を解いて、やってきた男に話しかけている。



「畏まりました。怪我をしている兵士は誰だ?名乗れ。」


男は即答すると、振り返って5人の貴族兵たちに問いかけたのだが、怪我をした男は何も答えない。



「おい!部隊長の指示だ!」


隣の貴族兵が促しても例の兵士は反応しない。


「お前か?名乗れ!」


部隊長が例の兵士に正面から近寄っていくと、兵士の殺気が強くなった。



「豊!」


龍陽が叫ぶと同時に兵士は懐から銃を出して部隊長に向けた。



「な!?なんの真似だ!?」


部隊長は驚いて立ち止まる。



バサバサ



「ん?」


龍陽が見上げるとトンビの獣人が空から下降してきた。

まさか兵士の仲間!?



「お、おい!?何してんだ!?」


兵士たちは戸惑った様子で問いかけるが、銃を持った兵士を取り押さえることはできないようだ。



龍陽が動くべき?

万一、豊が撃たれたら困る。



龍陽が悩んでいると、殺気を感じた。



パン



銃声が聞こえ、銃を持っていた兵士が肩から血を流して倒れた。

撃ったのは先ほどのサクだ。



部隊長が駆け寄って地面に落ちた銃を拾う。



「取り押さえろ!」



部隊長の大声で貴族兵も動いた。

2人が倒れた兵士の上に乗り、他の2人は刀を抜いて倒れた兵士に向ける。



「ご無事ですか?」


銃を持ったサクが豊に駆け寄ってきた。


トンビは高度をあげて1人で逃げていったようだ。



「ああ。急所は外したな?」


「はい。」


「銃を貸せ。」


豊はサクから銃を受けとると、倒れている兵士に近寄っていくので、龍陽は龍景とついていった。




「おい。お前が侵入者を手引きしたのか?」


豊が兵士の頭に銃を向けて問いかけるが、倒れている兵士は答えない。


豊は片足で倒れている兵士の兜を蹴り飛ばすと、むき出しになった顔を3回蹴りつけた。


兵士は呻き、鼻と口から血を出すもまだ答えない。



「ここで吐いとけよ。プロの拷問はこんなもんじゃないぞ。」


「・・・」


豊が脅しても兵士は微動だにしない。


「ちっ!」


豊は舌打ちすると、銃で撃たれた兵士の肩を踏みつけた。



「ぐ・・・あああ!」


先程とは違い兵士が悲鳴をあげた。



「ぬるいですよ。足撃ち抜きます?」


サクが寄って行って、豊から銃を受け取った。



「い、言う!」


兵士が叫ぶ。

今度は悪意が出なかった。


豊が兵士の肩から足を退けたが、サクは兵士に銃を向けたままだ。



「金をもらって頼まれたんだ。空に鳥の姿が見えたら騒ぎを起こして警備の兵の目を逸らせと。それだけだ。」



倒れた兵士から悪意は出なかったので、龍陽は黙っていた。


「誰に頼まれた?」


豊が問いかける。


「・・・別の貴族兵だ。今日は来てない。」


「嘘をついたよ。」


兵士が悪意を出したので、龍陽はまた兵士を指差した。



「サク、足を撃ち抜け。太ももは避けてな。」


「はい。」


豊の指示にサクは兵士の足に銃を向けた。



「ま、まって!白鳥だ!商人の!」



今度は兵士は嘘をつかなかった。


「どこで出会った?」


「先月、北都に取引に来てた。非番の日に酒場に居たら雇われたんだ。金はその時もらって後は部下のトンビから指示するって。

さっき飛んできたトンビだ!」


「ちっ!トンビは逃げた後だな。」


豊は悔しそうに空を見上げた。



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