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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
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北才の悩み

パン

パン



屋敷内から銃声が聞こえてきたけど、春菜は気にせず客人用にお茶を用意していた。


豊さんがこの屋敷に移ってから1~2ヶ月に一度はなにかおきる。


北の貴族兵が屋敷の外を警護しているけど、屋敷内まで侵入してくる事件は何度もあった。

貴族兵が殺されたり、裏切ったり・・・いずれにせよ信用できない。



豊さんを守れるのは解放軍だけだ。

だけど、春菜は戦いの役にはたたない。

女の戦闘員もいたけど、春菜は後方支援として連絡係やハニートラップの仕事をしていた。


陽助や牡丹とは違い司令官に会えるような立場ではなかったので、司令官が来ていると聞いてもなんの感情もわいてこない。

それよりも


「また廊下の掃除が大変」


春菜はため息をつきながらお茶をお盆に載せて応接室に向かった。

夕飯を作っている鍋の火は一旦消しておいた。



侵入者が何人なのか分からないけど、また廊下は血まみれだろう。

戦えない春菜は文句なんて言えないけど、血や脂を拭き取るのは大変なのだ。

すぐ臭くなるし。



そう思っていると廊下の向こうから血の臭いがしてきた。

廊下を曲がると案の定、床に死体が2つ。

今回も人間だ。

刀傷なのでおそらく陽助が始末したのだろうけど、床には血だまりができ、壁にまで血が飛んでいる。



これまで獣人の襲撃もあったけど、夏に北才と他の北の貴族が戦争になった時には、ここにも北の貴族兵が来て・・・あの時は結構大変だった。


敵側の貴族兵が十数人侵入してきたそうで、春菜は娘を連れて部屋に隠れ、陽助たちが侵入者全員を始末するまで2時間近くかかったのだ。


戦争は早々に北才が勝ったらしいけど、あれ以降人の侵入者が増えた。

豊さんの暗殺目的みたいだけど、


豊さんはいつまでここで仕事をするのだろう?


豊さんが解放軍ということは広く知られているようで、常に暗殺の危機に晒されている。

他の解放軍の幹部は司令官も含めて身を潜めているのに、豊さんだけはこんな目立つ場所で暮らしている。


北才の側近としての立場なら仕方ないことだけど、いつまでやるのだろう?

というかなんのために?



春菜は詳しいことは何も知らない。

陽助は豊さんの側近なので詳しそうだけど、春菜には教えてくれないし、春菜も知りたいとは思わない。




~応接室~


コンコン


「失礼します。」


春菜がノックして入ると、

中年女性が1人

30歳前後の男が1人

10代の男の子が1人


となぜか娘がいる。



「マ、マ!」


中年女性の膝に座っていた娘は春菜に手を伸ばす。



「すみません、娘がお邪魔してるとは知らず。」


春菜はお盆をテーブルに置いて娘をだっこした。


さっき陽助が連れていった娘がなぜここに?



「いいのよ。私が陽助から預かったの。」


そう答えるこの女性が司令官だろう。

春菜は初対面だ。



「ありがとうございました。もう間もなく掃除を終えて陽助さんは戻るはずです。お待ち下さい。」


春菜は一礼して娘を連れて応接室から出た。



豊さんから司令官の相手は命じられていないので、春菜はすぐに退散すべきだ。

春菜の仕事は夕食作りだし。


にしても牡丹の言うとおり、男2人は人にしか見えなかった。

男の子の方は牡丹好みの初々しさに、整った顔立ちだけど、逆に不気味だ。



春菜は解放軍の関係で人から生まれた人そっくりの混血獣人を見てきたけど、あんなに育ちのいい混血獣人はいない。


どの種族でも混血獣人は迫害される。見た目は人そっくりでも、混血獣人は匂いだったり、外から見えない身体の部分が人と違ったりして、人の町では暮らしていけないのだ。


人と明らかに見た目の違う混血獣人がいないのは生まれてすぐ死ぬからだろう。


春菜は詮索してはいけない。

豊さんの命令にだけ従って、豊さんの役にたてればそれでいい。


春菜は夕飯作りに戻った。




~北才の屋敷~

同じ頃、豊は北才に司令官が見つかったことと、紫竜と協力して白鳥の毒の粉の製造元を探すことになったことを報告していた。



「司令官が無事で良かった。」


北才はほっとしているが、どこか浮かない顔だ。



「また何かあったのか?」


「ああ。紫竜から人の製品を買いたいと注文がきただろ?量がすごいから他の貴族たちにも協力を頼んだんだ。南の貴族たちと東の貴族たちとは話がついたが、首都の貴族の1人とだけまだ話がつかない。

熊族との取引があるからこちらに回せる品には限りがあると言うんだ。それにこちらが品を取りに行くと言っているのに、首都の貴族兵が運ぶから手間賃を寄越せとも言ってきてな。まあふっかけられている。」


北才の話に豊は舌打ちした。



やっと紫竜の取引先になったと言うのに!

紫竜からの注文品の多さは知っている。


人の妻が3人、その妻たちが生んだ竜の子が総勢8人

その夫たちも妻たちと同じ物を食べるそうで食料品だけでもかなりの量だった。

 それに加えて高級な着物、化粧品、小物類等々・・・他の貴族の協力は不可欠だ。


紫竜と直接取引ができない他の貴族たちは北才の要請に飛び付くと思っていたのに、首都の貴族だけは北才の足元を見てきたらしい。



「俺が首都の貴族のところに行ってくる。」


「・・・いいのか?」


北才は不安げに問いかけてきた。



「なにがだ?」


「北豊が今は亡き首都の貴族の息子だと言うことはもう知られている。どんな扱いを受けるか分からんぞ?」


北才の言うとおり、豊の実父はかつて第四家と呼ばれた首都の貴族の1人だった。

豊がワニに誘拐され、解放軍に助け出された際、ワニの誘拐犯たちは首都の貴族が武力で奪い返したと勘違いして、父の一族を滅ぼしたのだ。

 豊の妻も一緒に殺された。


豊だけが生き残ったが、豊は過去も真名も捨て解放軍として生きることにした。



「今の俺は北の貴族一族の北豊(ほくほう)だ。首都の貴族どもに遠慮する理由はないな。」


豊は気にしていない。

とっくの昔に首都の貴族の息子という立場は捨てたのだ。なんの未練もない。



「北豊がいいなら任せた。悪いが私は北都を離れられない。」


北才はあっさりしている。

いや、それだけ豊を信頼してくれているのだろう。

豊は反貴族の解放軍出身なのに、北才のこの柔軟さというか強かさはすごい。



「じゃあ北要(ほくよう)の残党の方は頼んだ。盗まれた金のペンダントはまだ見つからないのか?」


「ああ。盗人の手がかりすら掴めない。毒の粉の情報もまだないな。本当に白鳥にそんな物が作れるのか!?」


「司令官も否定的だったな。毒を開発したワニの残党が関与してる可能性もある。龍希は芙蓉さんに粉の話をしたらしくてな。早く解決しないと!」


豊は思い出して腹がたってきた。



「奥様もご存知なのか!?肝心の解毒剤は何も進展がないのに・・・申し訳ないな。」



北才は落ち込んでいる。

人の中でもっとも毒の研究が進んでいるのが北才管理の研究所だが、解毒剤の開発は失敗続きなのだ。



「ああ。だからせめて毒の粉だけでも早く根絶しないとな。芙蓉さんは危険なことに巻き込みたくないんだ。」


「全くだな。奥様にまたご面倒をおかけする訳にはいかない。」


北才はそう言って力強く頷いた。


数年前、紫竜と解放軍の共通の敵を排除するために、北才も巻き込んで水連町でおびき出し作戦を実行したのだが、その際に芙蓉さんは狙撃されて大怪我を負ったのだ。

あの紫竜たちですら狙撃に気付けず、犯人はいまだに不明だ。



「やっと取引先になったんだ。初取引の日も迫ってきてるし・・・」


「あ!そうだ!紫竜との縁談だが有力候補が見つかった。」


「誰になった?」


豊も縁談の候補者にはなっているので、他の候補者がいるならそちらに譲りたい。



「母の異母兄の1人が南の貴族筋に婿に行っていてな。その息子が40半ばの男なんだが、もう子どもがいるから今の妻たちとは離婚して、北都に来ることはできるらしい。

名は南開(なんかい)だ。南の貴族の傍系という立場ではあるが、南の貴族は紫竜との縁談のためなら手放すだろう。」


「・・・微妙だな。縁談に気を大きくして政治にまで口出ししてこないよな?」


豊は悩ましい。



紫竜との縁談は書類上の妻とはいえ、嫁いできた雌竜の機嫌を損ねるようなことがあっては困る。

 それに雌竜の夫になったことを口実に、北才を排除して北の貴族になり代わろうとしても困る。

 南開は立場的には北才の従兄弟、父親は婿入りしたとはいえ北の貴族筋なので、血筋的には北の貴族になる資格はあるのだ。



「私は面識がないが、南開の親はもう亡くなっているし、私も母も恨みを買った覚えはない。

ただ、夫の屋敷に紫竜から嫁いできた妻は滞在するらしいから、南開にはそれなりの屋敷を用意する必要がある。結婚生活のために金も支給するから、まあ南開に取り入ろうとする連中は出てくるな。」


北才は浮かない顔だ。



「一度、北都に呼んでくれ。紫竜の知識がどこまであるかも分からないし、覚悟のほども・・・な。」


「ああ。だが時間がないんだ。もし南開がダメなら北豊に頼むしか・・・」



北才が言いかけたところで、


コンコン


外から扉がノックされた。



豊が中から扉を開けると、北才の側近が入ってきた。



「失礼します。北豊様の屋敷に侵入者です!」



「またか。」


豊はもう驚かない。警護の貴族兵が殺られても屋敷内にいる陽助たちが排除するだろう。


ただ、今日は紫竜の2人が来ている。

侵入者が遭遇したら面倒だ。



「悪いが一度屋敷に戻る。」


「そうしろ。すぐに貴族兵も向かわせる。」


豊は屋敷に戻ることにした。


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