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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
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龍応の異変

~紫竜本家~


父は龍栄と別室に行き、龍算と竜礼が付いていった。

龍栄から事情を聞くらしい。



龍栄の息子に何があったのだろう?

龍栄があれほど怒り狂っていたということは重症なのだろう。


龍栄は父の兄だが、息子は龍応(りゅうおう)1人しかおらず、まだ10歳にもなっていない。

最初に生まれた息子は幼くして亡くなってしまい、龍栄には今は妻がいないので、龍応に何かあると困るのだ。

 龍応の異母姉である竜縁(りゅうえん)も悲しむだろう。




「お姉さん、大丈夫?」


弟は心配そうにトモエに話しかけている。

さっきまで父にしがみついていたけど、もう大丈夫そうだ。



「大丈夫よ。ごめんね。龍風君まで巻き込んで。」


トモエはそう言って弟の頭をなでる。

龍風は普段は子ども扱いされることを嫌うのに、トモエは特別らしい。



「いいんだよ。僕が父上からトモエを守るからね。」


「父上に苛められてはないのよ。私の部下が若様を攻撃したのよ。悪いのは私。」


「兄上なら大丈夫だよ。人族の攻撃なんて大したことないでしょ?」


「ふふ。そうね。でもそういうことじゃないの。お父上は何年も苦労してやっと人を取引先にしたところだから、解放軍といえども人の方から紫竜を裏切る真似をしちゃいけないのよ。」


トモエは意外なことを言う。



「え?父上は何もしてないよ。人を取引先にするなんて父上の一声があればできるのに、十何年もしなかったんだよ!」


弟は反論するけど、龍陽も同じ意見だ。



「・・・私には紫竜一族の中の話は分からないけど、芙蓉はそうは思っていないのでしょう?」


トモエの問いかけに龍風は無言になる。



「種族の違う者同士が信頼を築くのは大変なことなのよ。」


「母上もそう言ってた。でも父上は僕らには何も教えてくれないよ。」


龍風は拗ねている。



「私には子どもの教育は分からないけど、こうして龍風君たちを私たち人間に関わらせようとするってことは、父上はこれからお2人に人のことを学んで欲しいのかもね。」


「ねえ、トモエ?僕たちは何をしたらいいの?」


「お父上と補佐官殿と相談するから待っててくれますか?」


「分かった!」


龍風は素直に応じたけど、こんなに素直な弟は久々だ。


それからは龍陽と弟はトモエと豊と雑談をして過ごしていたけど、父は夕方になっても戻って来ず、龍景の判断で、龍陽たちは母のもとに帰り、トモエたちは別荘に滞在することになった。




~族長執務室~

その翌日、母は別荘にいるトモエに会いに行き、昼過ぎに帰ってきた時には、上機嫌だった。


トモエが無事で喜んでいるのだろう。

龍陽が攻撃された事件は母にも内緒だ。



母に付き添っていた父は、母をリュウカの部屋に送った後に、仕事に戻った。

そして夕方頃、疾風が龍陽と龍風を呼びにきて、父のいる族長執務室に案内された。



「龍陽、龍風、もうすぐトモエたちが来るがその前にお前たちに言っておくことがある。

ここからの話は一族以外には他言するな。芙蓉にもダメだ。」


「分かりました、族長。龍応のことですか?」


「流石だな、龍陽。そうだ。龍応は昨日から入院している。原因はフクロウの医者たちが調べているが、龍応は新しいおもちゃで遊んでいたら、中から正体不明の粉が出てきて、それを嘗めた途端に倒れたらしい。」



「え!?まさか白鳥の毒の粉!?」


龍陽は驚きのあまり大声が出た。


「粉は龍応がなめたから残ってなくてな。調べようがない。おもちゃは白鳥製ではなく、龍栄が狼族から仕入れた物らしい。そちらは竜染(りゅうせん)が調べるが、もしも白鳥の毒の粉なら、これからお前たちにも関与させる事件と無関係とも思えない。

うちの一族としても本腰を入れて調べることにした。」


父は険しい顔だ。

毒の粉も猛毒だと聞く。龍応は大丈夫なのか!?



「なんでトモエたちには内緒なの?」


龍風が尋ねる。


「ちゃんと結論が出るまではどこにも公表しないんだ。下手に公表すれば、犯人たちが証拠を隠すかもしれないしな。」


「トモエたちが犯人かもってこと?」


「違う。トモエたちも特別扱いはしないってことだ。犯人がはっきりするまでは一族以外には知らせない。いいな!」


「はい、族長」


「分かりました。」


龍陽は弟と返事した。



それからしばらくして、龍算、龍景とともにトモエと豊がやって来た。



「揃ったな。トモエ、豊はこれからどう動くんだ?」


父が尋ねる。


「解放軍は粉の製造元の情報を集めます。私は一度、熊族長と面会して参ります。失踪で迷惑をかけましたし、熊族ならなにか粉の情報を握っているかもしれません。

それに、私が公に動けば、白鳥の仲間が襲いにくるかも知れませんし。」


トモエはそう言うけど、わざと囮になるのだろうか?



「豊はどうだ?」


「私は北都に戻ります。金のネックレスを所持していた北の貴族一族はもう処刑してしまいましたが、部下たち生き残りはいますので、そちらから金のネックレスの情報を辿ります。」


「よし。なら、龍景と龍陽は人族のふりをしてトモエに同行しろ。白鳥の仲間が襲ってきたら生け捕りにしろよ。

龍算と龍風は北都だ。人族から事情を聞くのを助けろ。」


父は驚くべき命令をする。



「は!?え!?龍景と若様が人族のふりを!?」


龍算も驚いている。


「ああ。トモエを囮にすれば白鳥の仲間が襲いにくる可能性が高そうだからな。だが、熊族には知られたくないから、熊族本家までな。」


「え?でも匂いでばれない?」


龍陽は思わず問いかけた。


「人族以外にはな。だから、龍景」


父がそう言うと、龍景は壁際のテーブルに行き、箱から深紅のストールを取り出した。


これは・・・



「え!?朱鳳のストール!?母上の?」


「いや、朱鳳から借りてきたんだ。高いレンタル代払ってな。絶対に失くすなよ!」


父は龍陽たちに念押しするけど、いつの間に!?

龍栄がらみだから朱鳳は協力的なのだろうか?


龍栄の娘の竜縁は朱鳳に嫁ぐことが決まっているのだ。



「僕たちも人族のふりするの?」


龍風が尋ねる。


「いや、お前たちはいい。豊が毒の粉を知っていそうな人族を見つけたら、尋問のためにうちに協力要請させる。そしたら2人で北都に行け。」


「えー!?僕はトモエと行きたい!」


龍風がワガママを言う。


「ダメだ。お前は背が小さいから解放軍に紛れ込めないとさ。」


父がそう言い、


「ごめんね、龍風君。さすがに無理なの。」


トモエも同意する。



「ちぇー!!」


「族長命令だ。龍算と龍風はもう帰っていい。」


「はい。」


龍風は不満そうにしながらも龍算と出ていった。



「豊とトモエは明日、うちの馬車で北都に送らせる。龍景と龍陽も同行しろ。」


「え?なんで北都?熊族領に行くんじゃないの?」


「トモエの捜索は、北の貴族からの依頼だからな。」


「あ!」


父に言われて思い出した。


母が解放軍のトモエを探しているとは公表できないので、トモエは豊の部下ということにして、北の貴族から捜索の協力依頼を受けたんだった。




~朝顔亭~

その日の夕方、龍景は日が沈む前に自分の屋敷に帰れたが、嬉しくない。


明日から龍陽のお供で人族町だ。

それも長めの出張になる。



「あ!おかえり~」


「パパ!」


妻と子どもたちが部屋から出てきて、出迎えてくれた。


昨年生まれた娘は妻が抱っこしている。

もう1歳半なので歩けるが、娘は抱っこが好きで妻や龍景にすぐに抱っこをねだるのだ。



「ユリ、すまない。明日から出張を命じられて、しばらく帰れない。」


「あら!?行ってらっしゃい。竜羽(りゅうう)、今のうちにパパに抱っこしてもらいなさい。」


妻はそう言って娘を龍景に差し出した。


妻にはまた苦労をかけるけど、あっさり送り出してくれるのが、ありがたいし、寂しい。

うるさい妻はごめんだけど、一度くらい出張にいかないでとすがられてみたいと思うのはワガママだろうか?



「パパ!ぼくも!」


息子が両手を伸ばすので龍景は左手で息子を抱えあげた。


娘と息子の重さの違いがよく分かる。



「龍結(りゅうゆう)、パパがいない間、ママと妹を頼んだぞ。」


「はーい。おみやげかってきてね。」


息子もあっさりしているのは、妻の教育のおかげだろう。

いや、人族から産まれた子はこういうものかな?


族長のお子さんたちも父親を恋しがる姿は見たことがない。



「パ、パ!あぶ、あ~あうあう・・・」


娘が話しかけてきたけど、パパしか聞き取れなかった。

でも、一歳半でこんなに喋れるのはすごいな。


息子が一歳半の頃はもっと無口だった気がする。



「あらあら。竜羽はパパ気をつけてねって言ってるわ。」


妻はそう言って笑うけど、ほんとに!?

娘の言葉が分かるのだろうか?



「う~ごめんな。出張終わったら休みもらってくるから。」


龍景は胸が苦しい。

子どもが2人になってまだ幼いのに、なんで妻子と離れて出張!?



「別に気にしてないわ。稼いできてね。」


「かせいでね~」


妻と息子はほんとうにあっさりしている。


いや、娘までニコニコと笑いながら龍景に手を振っている!?



「はい、ボーナスもらってきます」


龍景は涙を堪えて返事した。

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