龍風の恩人
~紫竜本家~
「は!?龍陽を攻撃した!?」
父は怖い顔でトモエを睨む。
龍陽たちはトモエと豊を連れて本家に帰ってきたが、龍景が父に速効でチクったのだ。
「あんなの攻撃にならないよ。僕を狙ったわけでもなかったんだって。」
龍陽は父とトモエの間に割って入った。
父がトモエを攻撃したらヤバい!
「・・・龍陽、龍景の報告に違うところはあるのか?」
父はトモエを睨んだまま尋ねてきた。
「ないけど、僕はトモエの処罰なんて望んでないからね。許す代わりに白鳥の悪事を教えてもらったし!」
「子どもが勝手なことしやがって!
竜の子が攻撃されたとなれば決定権は俺にあるんだ!」
「まあまあ、族長!」
父が龍陽に怒気を向けたからか、龍景が宥め始めた。
「・・・トモエ、なんでお前の部下は龍陽を攻撃した?」
父は怒気をおさめてトモエに尋ねる。
「部下は白鳥の仲間と勘違いしたそうです。紫竜の若様だと分かって狙ったわけではありません。
ただ、責任は私にあります。」
トモエは怯えた顔ではないけど、今までに見たこともないほど白い顔だ。
父は険しい顔で考え込んでいる。
トモエをあっさり許す気はないらしい。
ドタドタ
「ん?」
外の廊下から誰か走ってくる。
龍景が驚いた顔になって父を見る。
父はなぜか困った顔になっている!?
「あ!」
龍陽が匂いに気付くと同時に扉が開いた。
「お姉さん!」
笑顔で駆け込んできたのは弟の龍風だ。
トモエに駆け寄って抱きついた。
弟はかつて旅行先のイグアナ領で1人迷子になった時に、偶然トモエと遭遇して助けてもらったらしい。当時まだ解放軍にいたユリもその時一緒だったらしく、龍風はトモエとユリが大好きなのだ。
「・・・龍風、仕事中なんだ。出ていけ。」
父が弟を睨むが、弟はトモエから離れない。
それどころか
「またトモエ苛めてるの!?母上にチクるよ。」
弟は父を睨み返している。
「いじめてない。大事な話の途中なんだ!
ここは族長執務室だ。出ていけ。」
「やだよ!トモエはいつもと違う顔してるもん。」
弟は鋭い。
トモエは困った顔で龍風を見ているが、たぶん弟を利用したりはしないだろう。
「龍風きいてよ。トモエの部下が白鳥と見間違えて僕を攻撃したんだ。僕は気にしてないのに、父上はトモエを責めるんだよ!」
「こら!龍陽!」
父が怒るが、龍陽はひけない。
トモエに何かされたら母が悲しむ。
「はあーー!?やっぱりいじめてた!
お姉さんは僕の恩人なんだよ!忘れたの!?」
弟は父に怒り出した。
「何年前の話だよ!?その件の礼はしたよ!もう終わった話だ!」
「どんなお礼したのさ!?僕は知らないよ!」
「どんなってそりゃ・・・」
言いかけた父はなぜか龍景を見る。
「え?なんですか?族長?」
「俺はしたよな?あの時」
「あの時?龍風様を見つけた時ですか?
礼?あの時は・・・解放軍だと分かったけど、見逃して逃がしてやりましたね。」
龍景は覚えていたらしい。
「ほらな!」
忘れていたくせに父は得意気だけど、
「迷子になった息子の命と人族2人の見逃しじゃ対等じゃないね!」
弟は引かない。
「族長の俺が決めることだ!子どもは下がってろ!」
「ヤダ!僕のお姉さんを傷つけたら許さないからね!」
父相手でも龍風はひかない。
「まあまあ~族長
それ以上騒いだら他の補佐官に気付かれますわ~私からご提案がございます~」
竜礼が割って入った。
「なんだ?」
「人違いとはいえ若様を攻撃したことを不問にはできませんわ~とはいえ当の若様は寛大な処分をお望みですので、この人族の命はひとまず族長がお預かりになり、チャンスを与えてはいかがです?」
竜礼はトモエを庇うつもりらしい。
「チャンスとは何だ?」
「白鳥の毒の粉です~これは我が一族と無関係ではございませんわ。この件の解決に協力するなら人族には温情を与えてもよいかと?」
「・・・いいだろう。息子と相談役の顔をたててやる。いいな、トモエ?」
「はい。ありがとうございます」
トモエは父に深々と頭を下げる。
とりあえずトモエの首は繋がったので、龍陽はほっとした。
「龍風、分かったならお前は出ていけ。」
「ヤダ!僕もトモエと仕事する。」
弟はトモエから離れない。
「は!?お前は関係ないだろ?」
「あるよ。」
「ないだろ!?」
「あるよ~」
弟はひかない。
「族長?」
「なんだ龍陽?」
「解放軍を利用するにしても監視は必要ですよね?でも解放軍は別れて活動するので龍景補佐官と僕だけだと人手が足りませんよ。」
龍陽は弟も巻き込むことにした。
「・・・龍風はまだ子どもすぎる。」
父は嫌そうだ。
「大丈夫です~龍算補佐官ならちゃんと若様をお守りしますわ~」
なんと竜礼も賛成らしい。
「龍算も巻き込むのか?」
父は驚いている。
「白鳥の件は元は龍算の担当ですわ。それとも龍栄様にされます?」
「いや、龍風は・・・」
「もう遅いです~若様が襲われたことを聞いてしまったのですよ。」
竜礼の指摘に父は渋い顔になる。
龍陽はようやく察した。
父はこの件をできるだけ一族に、他の補佐官にも知られたくないのだ。
トモエを守るため?
「龍風、龍算のそばについて従うことと、仕事内容は他の一族には漏らさないこと、族長の俺に隠し事はしないこと、この3つを守るなら仕事をやる。」
「はい!守ります!族長!」
弟は即答した。
「・・・豊、お前はどうする?」
父は壁際でずっと黙って立っている豊に尋ねた。
「白鳥の毒の粉は、北都でも事件がございました。紫竜がご調査されるなら、一取引先として協力させて頂きたいです。」
意外なことに、豊はトモエの部下としてではなく取引先として協力したいらしい。
「いいだろう。その北都の事件とやらを共有してもらおうか。トモエ、お前の持つ情報も明かしてもらう。」
父は快諾し、執事に龍算を呼びに行かせた。
まもなく龍算がやってきたので、龍景が経緯を説明し、情報共有することになった。
ただし龍景は龍陽が攻撃されたことは龍算には伏せてくれた。
「北都の事件は、北才の娘が北要という北の貴族の刺客に誘拐されかけたものです。
その際、刺客は北要からもらった金のネックレスを着けておりました。その時は毒の粉が忍ばされているとは思いもよりませんでしたが、紫竜から解析の依頼があった金のネックレスとよく似ていたのです。
ですが、刺客から押収したネックレスは中身を調べる前に何者かに盗み出されてしまい、手がかりはありません。」
豊が最初に説明する。
「うちから依頼したネックレスというのが、今回解放軍が襲った白鳥の娘が、まだうちに嫁いでいた時に所持していたものだ。ペンダントトップの中に毒の粉が忍ばされていた。」
今度は龍景が説明する。
「あの家はネックレス販売拠点でしたが、白鳥の家には毒の粉を製造する設備はありませんでした。どこから仕入れていたのかは分かりません。
それと、北要にペンダントを売ったのは今回襲った白鳥商人です。人の世界にも広まってきています。
解放軍が掴んでいるのはまだこの程度です。」
トモエの話からすると、
白鳥が燃やされて終わりかと思いきや、肝心の毒の粉を作っている奴は正体不明らしい。
「液体の毒を粉末化するのは人族ではできないのか?」
龍算が尋ねる。
「できた例は知りません。北才の研究者たちも見当もつかないそうです。」
「解放軍も掴んでおりません。ただ、白鳥の家にはワニの匂いが残っていたそうです。毒を開発したワニの生き残りが関与しているの可能性はありそうです。」
豊とトモエがそれぞれ答える。
「んじゃあ解放軍は何ができるんだ?」
父は困った顔だ。
「それは・・・」
トモエが言いかけた時だった。
ゾクリ
龍陽は背筋に寒気・・・いや恐怖を感じて思わず床にしゃがみこんだ。
「ひ!」
弟は悲鳴をあげて父に駆け寄り、竜礼は龍算に抱きついている。
「え?どうされました?」
豊とトモエは驚いているけど、龍景は龍陽と同じく恐怖で床に座り込んでいる。
これは間違いない。
龍栄の怒気だ。
父は険しい顔で龍風を抱きながら部屋の扉を睨んでいる。
龍栄が近づいてきているからだ。
「族長!」
怖い顔をした龍栄が駆け込んできた。
「龍栄!子どもと女、ついでに人族もいるんだ。怒気をしまえ!」
父は龍栄に怒っているけど、龍陽は恐怖で声も出ない。
父と龍栄がいかに強い竜かを思い知らされる。
「息子が倒れたんだ!そんなこと気にしてられるか!?」
龍栄は怒ったまま驚くべきことを言い出した。
「は?何があった!?すぐに対処するから怒気をしまって説明しろ!な!」
父が宥め、なんとか龍栄の怒気はおさめさせた。




