白鳥族本家の来訪者
~白鳥族本家~
9月のある日、龍陽は竜礼、龍景とともに白鳥族本家に来ていた。
今日は竜礼の取引の見学、明日が本来の目的であるトモエの捜索だ。
豊は龍陽の執事見習いに扮して、龍景の執事とともに馬車の番をしている。
白鳥族では早速、人族の侍女に続いて人族の執事見習いがいると話題になっていたけど、龍陽は別に気にならない。
それよりも、上機嫌の竜礼の方が気になる。
ここにくる馬車の中では、豊は露骨に竜礼を嫌う態度はしないものの、終始営業スマイルで事務的な対応だった。
竜礼は複数の取引先から縁談が絶えず来ているらしいのに、なんで竜礼は豊にこだわるのだろう?
「若様、竜礼様、朝顔亭の旦那様、ようこそ、白鳥族本家に。」
白鳥族長が出迎え、竜礼と取引の話をしている。
普段は白鳥族が紫竜本家まで取引に出向いてくるけど、今回は特別だ。
白鳥族は龍空の離婚により主要取引先のトップから陥落したことに焦り、龍算との縁談を持ちかけてきたらしい。
龍算は龍空と同い年だけど、すでに竜の子が2人いるので、どの娘も竜の子との同居を嫌がって、龍算はもう何年も独身なのだ。
「・・・ん?」
あくびをかみ殺しながら竜礼たちのやり取りを見ていた龍陽は、思わず隣の部屋に繋がる扉を見た。
隣の部屋に獣人たちが入ってきたのが匂いで分かったけど、白鳥と人族の男だ。
「若様」
隣に座る龍景が龍陽の肩に手を置き、小声で制止した。
龍景も気付いたらしい。
龍陽は無言のまま頷いて、扉から視線をはずした。
ここは白鳥族本家だ。龍陽たちは獣人の世界に介入しすぎてはいけない。
~応接室~
「こちらにどうぞ。」
同じ頃、解放軍のショウは白鳥族長補佐官の案内で白鳥族本家の応接室に通されていた。
隣の部屋に龍陽たちがいることは知らない。
「早速こちらを。」
白鳥補佐官はショウに白い封筒を差し出した。
ショウは受け取って封筒の中の手紙を見た。
「・・・確かに。」
手紙にはショウが依頼した情報が書かれていたので、ショウは約束の対価を白鳥補佐官に渡す。
「・・・確かに。」
白鳥補佐官はショウから渡された品を確認して懐に仕舞った。
「これから解放軍はそちらへ?」
「ああ。」
ショウはそう言って帰ろうとした。
一刻も早く司令官を助けださなければ!
「お待ちを。今日と明日は紫竜の方々が白鳥領に来ている。このお方たちの邪魔だけはせぬよう。」
白鳥補佐官が予想外のことを言い出した。
「・・・よく言うぜ。そのお方たちが来ているタイミングを狙って俺をここに呼んだくせに。」
ショウは立ち止まって白鳥補佐官を睨んだ。
「なんのことだ?」
「すぐ近くにいるんだろ?だからあんたはわざわざ紫竜に敬語を使っている。
解放軍との関係を知らせたところで紫竜が白鳥族を気にかけるとは思えないけどな。」
ショウの指摘に白鳥補佐官はわずかに顔をひきつらせすぐに営業スマイルに戻した。
ショウは今日来たときからやたらと白鳥補佐官の態度がかたいことに違和感を抱いていたが、まさか紫竜が来ていたとは。
他の獣人なら紫竜の匂いに気付いただろうけど、ショウたち人間は鼻がよくないのだ。
たが、白鳥補佐官が言葉遣いに気をつけているということはここの会話は紫竜に聞かれていると考えた方がいい。
「なんのことやら。」
白鳥補佐官はすっとぼけているが、解放軍の邪魔をするつもりではないはずだ。
「まあいい。警告は確かに聞いたよ。」
ショウはそう言って白鳥族本家を後にした。
長居は無用だ。
今の白鳥族長が解放軍と協力関係にあることは族長と補佐官の一部しか知らない。
解放軍はかつて白鳥族相手に派手に活動していたので、解放軍に恨みを抱く白鳥は多いのだ。
今は紫竜よりも反解放軍の白鳥に気付かれる方が厄介だ。
~白鳥の宿~
竜礼の取引と縁談の交渉が終わり、龍陽は竜礼が貸し切っている白鳥の宿に来ていた。
龍景、竜礼とは別の部屋だけど、龍陽の両隣に各々泊まるらしい。
豊も同じ宿だけど、数部屋離れた場所だ。
龍陽が夕食を終えた頃に、竜礼と龍景がやって来た。
「若様~ご不便はありませんか?」
「平気だよ。それより何の用?」
「うふふ~若様はお勉強に来られてるのですから。今日の取引と縁談の話はいかがでした?」
竜礼は意外なことをきいてきた。
けど、龍陽は途中から隣の部屋の会話を盗み聞きしていたので、取引のことなんて覚えていない。
「取引は特に気になることはなかったかな~縁談は僕の仕事にはならないけど、実現しそうなの?」
「んふふ~明後日くらいに断る予定ですわ。龍灯様に白鳥妻がいる限りは、龍算兄ちゃんに白鳥はダメなのです。」
「え?じゃあなんで今日来たの!?」
龍陽は驚いた。
最初から結論は決まっていたのに!?
「取引先には我らがどんな基準で妻を選らんでいるのかを知られるわけにはいきませんの。
それに白鳥族との縁談は今後も欲しいので、一件ずつちゃんと検討しましたよ~とパフォーマンスも必要なのですわ。」
「ふーん。女の仕事は大変だね。」
龍陽はそんな無駄な作業はしたくない。
「ふふ、女と男では役割が違いますから~
さて~次は若様と龍景の番ですよ。隣の部屋の人族はどんな話をしてました?」
竜礼からの問いかけに龍陽は龍景と顔を見合わせた。
なんで竜礼が気づいているのやら?
「・・・解放軍の人族が取引に来ていたようですね。」
龍景が説明してくれた。
龍陽を制止したくせに、龍景も盗み聞きしていたようだ。
「ふーん。あんなタイミングで人族の匂いがしたからおかしいと思ったのよねぇ~
白鳥族長は若様に媚びを売りたいみたいですわね~」
「え?僕?なんで?」
龍陽は驚いた。
「若様の母子仲がよいのは有名ですから。人族と仲良くしておけば、若様のご機嫌をとれると思っている取引先は多いのです~
主要取引先から外れた狼族が北の貴族と縁談を結んだのも同じ理由でしょうね~」
「僕目当て?母上じゃなくて?」
「族長の奥様のこともありますけど、それよりは若様ですわ~
どの主要取引先も若様の妻の座を狙ってますの。」
「あ~そういうこと!?」
龍陽は納得した。
15歳を越えたあたりから、縁談の話ばかり聞かされる。
ただ、すでに婚約者がいる竜縁とは違い、龍陽が成獣するまで結婚相手は確定しないらしい。
龍陽にとっても結婚は仕事なので、一族の決めた相手と結婚するしかないけど・・・
「竜礼殿、それよりも白鳥族は解放軍と組んでトモエの捜索をしているのでしょうか?」
龍景が話題を変える。
「うーん。白鳥族に捜索の動きはないわよ。解放軍はかつて白鳥領で派手に暴れてたから、白鳥族長は公には解放軍に協力できないと思うの。
補佐官が人族に警告したのも、解放軍がうちの邪魔をして、白鳥族長との関わりが発覚すると困るからでしょうね。」
竜礼はやたらと詳しい。
「ま、私たちはあくまでも豊のお手伝いですから、白鳥族にも解放軍にも干渉してはダメですよ~」
竜礼に念押しされた。




