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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
23/30

縁談相手

~北都~


「北才!依頼書を書いてくれ!」


豊は紫竜本家から北都に戻るなり、北才のいる執務室に突撃した。



司令官は豊にとっても大切な人だ。

なのに、誘拐の事実すら知らなかった。



「は!?な、なんだ!?戻ったのか!?」


側近とともに書類を読んでいた北才は驚いている。



「突然すみません。北の貴族様!

北豊殿より取り急ぎご報告したいことがあるそうで。」


豊を追いかけてきた陽助が前に出て弁解する。



「あ、ああ。お前たちは下がれ。」


北才は部屋にいた側近たちを追い出した。



「紫竜の件はご苦労だった。公式発表を聞いたよ。よくやってくれた!」


すでに北才の耳には入っていたが、



「そんなことはどうでもいい!

司令官がタンチョウに拐われたんだ!」



豊の本題はこっちだ。



「は?司令官ってあの司令官か?」


北才は驚き、


「豊さん!落ち着いて教えてくださいよ!何がなんだか・・・」


陽助が肩を揺すって頼んできたので、豊は椅子に座って深呼吸し、龍希とのやり取りを説明した。



「分かった。奥様のご要望なのだな。それに司令官は私の恩人でもある。紫竜相手に依頼書を作ろう。」


北才は話が早い。



「でも司令官がタンチョウに拐われるなんて信じられません!タンチョウの大群が襲ってきたわけでもないんでしょう?」


解放軍にいた陽助は司令官のことを知っているので、信じられないらしい。



「俺も司令官がおとなしく拐われたとは思ってない。だが、異変が起きているのも確かだ。司令官が行方不明なのもおそらく間違いない。

それにタンチョウといえば、まだ捕まっていない()()()の残党にいただろ!?」


2年程前、司令官率いる解放軍は、芙蓉・龍希夫婦と協力して、共通の敵だったジュウゴという男を始末した。

 だが、その直前までジュウゴと行動を共にしていたタンチョウの獣人は逃げてしまい、いまだに捕まっていないのだ。



「そ、そうですが・・・司令官の異変なら側近のカエデさんたちがすでに動いているのでは!?」



「たぶんな。俺は俺ができることをする。

陽助、またしばらく北都を頼んだ。」


「わ、分かりましたけど、嫁入りはいつですか?

その時にはさすがに豊さんは帰ってきますよね?」



「は!?誰の?」



豊は意味が分からない。

この緊急事態に、陽助は何の話をしてるんだ?



「え?豊さんに紫竜から妻が来るんでしょ?

取引の条件だから。」



「あーー!忘れてた!」



豊は大声で叫んだ。


司令官の誘拐ですっかり忘れていた。



「いや、ちが!まだ決まってない!」


「え?でも取引先になる条件なのでは?紫竜からそう連絡が・・・」


北才と陽助は顔を見合わせている。



「縁談自体はな!だが、こっちの縁談相手は北才から推薦するもんだろ・・・」


「いや、紫竜族長が豊さんを指名したんでしょ?しかも相手も決まったのでは?」



「俺は嫌だよ!」



豊は叫ぶほかない。



「いや、落ち着け、北豊。

私の後継者問題を気にしてくれるのは知ってるが、紫竜から妻を迎えれば、逆に北豊を支持するやつらは減るんじゃないか?

いくら私を嫌いなやつらだって北都を紫竜に乗っ取られたくはないだろう?

それに、紫竜は子作りまでは強制しないのだろう?

なら人外の妻と子作りはしなくていいから、言い方は悪いが書類上の妻だろう?」


北才はそんなことを言う。


何もわかってない!!



「よくねえよ!

政略結婚らしく、書類上の妻ならいいさ!リュウカンでもリュウ何でも誰でもいい。

だけど!竜礼だけはごめんだ!」



「落ち着けって!外で誰が聞いてるのか分からんぞ!

誰だ?そのリュウレイというのは?知り合いなのか?」


「・・・覚えてないのか?2年前に水連町でお前も会ったろ?補佐官の妹だよ!」


芙蓉さんはかつて水連町で怪我を負い、北才の宿で療養していた。

その時に、竜礼は芙蓉さんの世話をするため宿に来ていたのだ。



「・・・あ~もしかして、あの紫竜か!?

お前に惚れ込んでた?」



「その言い方やめろ!」


「豊さん、落ち着いて!北才様に殴りかかるのだけは勘弁ですよ!」


陽助はついに豊を後ろから羽交い締めにする。



「北才様!?私にも分かるように教えてくれませんか?2年前にそのリュウレイと何かあったんですか?」


陽助は豊を抑えたまま問いかけた。

豊は冷静に説明なんてできそうにない。



「いや、私もあの時会ったきりなのだ。

やたらと北豊に・・・惚れ込んでたことだけ覚えている。

彼女が縁談相手か?紫竜の年齢は見た目からは分からないが、おそらくもう子どもは成せないくらいの年齢なんじゃないか?

北豊が気にしているのは兄の方か?

妹が惚れていることに怒っていたよな!?」



「兄はいいんだよ!あの女との結婚だけはごめんだ!龍希の公私混同すぎるだろ!

こっちは北才の血縁者を推薦すべきだろう!」



「いや、紫竜族長になんと説明するのだ!?

それに悪いが推薦できる縁者はいないぞ?

私の兄弟は皆死んでいるし、信頼できる親戚もいない。一族の生き残りは俺の即位を憎んでいるやつらばかりだ。

だが、紫竜との縁談なら下手な男は出せない。私の息子はダメだ。どの種族も、族長になる可能性のある男は紫竜から妻はもらわないと聞いているから将来的にも無理だ。

お前が適任だろう!?」



「はああ!嫌だよ!」



「豊さん、落ち着いてって!その女と何があったんですか?」


陽助は豊を抑えたまま叫ぶように問いかけてくるが、豊は説明なんてできなかった。




~紫竜本家~


豊が来た翌日、龍陽が父について族長執務室に行くと、龍算、竜礼兄妹が待っていた。



「ん?どうした?」


父にも心当たりがないらしい。



「族長、豊が竜冠との縁談を拒否したというのは本当ですか?」


龍算が尋ねてきた。


「ああ。豊は人族側の事情で子を作らないんだと。なら、竜冠は勿体ないからな。」


「それで子を産めない女の方がいいと?」


なんで龍算は怒ってるんだ?


龍陽には分からない。



「いや、豊は縁談自体拒否だとさ。人族側から夫を推薦したいと言ってるから待ちだ。」


父は昨日はあんなことを言っていたけど、豊に縁談を強制する気はないらしい。


龍陽はほっとした。

父は嫉妬深いけど、傍若無人ではないのだ。



「え~!?

私が豊に嫁ぎたい~族長、お願いします!」


なぜか竜礼はがっかりしている。


「ダメだ!人族には過分すぎる!」


龍算が怒っている理由はこれらしい。



「そう~!?

私はもう年齢的に子ども産めないし、これから竜縁たちが成獣するから、私の価値は下がる一方よ。」


「そんなことない!縁談ならたくさん来てるだろ!?」


「豊がいいの。」


竜礼はそう言うけど、



「いや、豊はお前は嫌だとさ。」



父は容赦ない。



「ひど~い。」



竜礼は本気でショックを受けている!?



「人族の推薦を許すとして、こちらは誰を嫁がせますか?」


龍算は反対にほっとしている。

なんで?



「縁談相手が決まったら女たちから推薦させるよ。だが、独身なのは竜礼と・・・ほかに居たか?」


竜維(りゅうい)は夫が死にましたけど、もう年齢的に無理ですね。

夫の年齢次第ですが、竜染(りゅうせん)を離婚させることも考えます。」


竜礼はもう落ち着いて答えている。



「ん?別に竜礼が嫁いでもいいぞ?」


父はそう言うが、


「豊以外の雄はいやです~」



「え!?嫌とかあるの!?」


龍陽は驚いて竜礼に尋ねてしまった。



紫竜一族は、男も女も取引先との政略結婚が基本だ。

龍陽も、成獣したら父の選んだ縁談相手と結婚しろと、子どもの頃から教えられてきたのに!?

 竜礼は若い頃から族長の指示で政略結婚を繰り返してきたのではなかったか!?



「んふふ~ありますよう。

でも私たちにとっても政略結婚はお仕事ですから、我慢できます。」



そう答えた竜礼から悪意はでなかった。



「なら我慢して豊以外の人族に嫁がないの?」


「嫌です~それは私じゃなくてもいいので。」



「豊に嫌われてるのに、なんで竜礼は嫁ぎたいの?」



龍陽には理解できない。



「あらヤダ~!?私は嫌われておりませんよ。豊は私のことを好きになれないだけなのです。」



「・・・何が違うの?」


龍陽は困惑して父たちに尋ねたけど、父たちは困った顔になって、誰も答えてくれなかった。


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