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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
18/30

豊の旅 前編

~???~

8月のある日、豊は北都から出て、かつての上司である解放軍の司令官に会いに来た。



「久しぶりね、豊」


1年半ぶりに会う司令官は元気そうだ。



「お久しぶりです。突然すみません。」


「いいのよ。豊の活躍ぶりは聞いてるわ。」


「とんでもないです。司令官こそお忙しいのでは?」


「ふふ、まあまあよ。それで、どうしたの?」



「実は龍希から依頼が来まして。お知恵を拝借したいんです。」



豊はさっそく切り出した。


「特別な依頼なの?」


「おそらく。これに成功すればようやく芙蓉さんの願いを叶えられるかもしれません。」


「あら?芙蓉だけじゃないでしょ!?

豊はこのために解放軍を離れて頑張ってるんじゃないの!?」


司令官は楽しそうに笑う。

豊は恥ずかしさで顔が赤くなってしまった。



司令官にごまかしは通用しない。



「とんでもない難問で途方にくれています。」


「あらまぁ!?どんな依頼なの?」



「族長の奥様を喜ばせる物を持ってこい。ただし、族長の龍希が金で買えるものは禁止

だそうです。」



「・・・」


司令官は目を丸くして黙り込んでしまった。


豊と北才も最初に聞いた時には同じ反応になった。



「龍希が金で買えないもの?でも物ってことは形があるものを用意しなきゃいけないのね。」


しばらくの後、司令官が問いかける。



「俺も同じ意見です。ですが、そうなると、世界で一つしかない物とか、龍希を嫌う誰かの所有物とか・・・では、芙蓉さんが喜ぶとは思えない。」


「そうね。芙蓉が喜ぶけど、龍希では用意できない物ってことね。

芙蓉は最近、お父さんを亡くして元気がないみたいね。」



司令官は芙蓉さんの友人なので、近況を把握しているようだ。



「はい。でも父親の遺品は芙蓉さんが引き取り、埋葬まで終わっているそうですので、父親関係の物とは思えません。」


「そうね。でもこれが人に課された試験なら、龍希では用意できないけど、人にならできる物を求められてるんでしょうね。」


「やはりそうですよね。それで司令官からの手紙とか、どう思われます?」


豊が司令官を真っ先に頼ったのはこの理由だ。



「ふふ。なるほどね。確かに龍希は買えないものね。

でも残念。私はこの間、芙蓉と会ったばかりなの。」



司令官から意外な情報だ。



「え!?またなにか芙蓉さんに事件が!?」


「ううん。龍希からの相談じゃなくて、芙蓉が会いたいって。だけど、まあ妻には家族にしか面会できないルールらしいから龍希が頑張ったんでしょうね。」


「そうですか・・・」


芙蓉さんが司令官と面会できること自体はいいことだけど、豊はガッカリした。

 これでは司令官からの手紙を用意しても【正解】ではなさそ・・・



「偶然のタイミングとは思えませんね!?」


「ええ。龍希の差し金か、芙蓉も一枚噛んでるのかもね。」


司令官は楽しそうだ。



「笑い事じゃないですよ!これを逃したら今度は何年後になるか・・・」


豊は胃が痛い。



「ん~でも偶然じゃないなら、芙蓉が待ってるのは私じゃない誰かからの手紙なのかもね。」


「誰かですか?」


「それが豊に課された課題なんでしょ!?

逆にいえば豊が手紙をもらってこれる相手なんでしょうね。きっと。」


「ありがとうございます!司令官!」


豊はやるべきことがわかった。




~水連町病院~

その3日後、豊は水連町病院に来ていた。

解放軍のカエデ姉さんに会うためだ。


水連町病院には複数人の経営者がおり、芙蓉さんの父もその1人だった。

 カエデ姉さんは芙蓉さんの父の秘書として病院経営を助けていたけど、父は亡くなる数ヶ月前に、死んだら経営者の地位はカエデ姉さんに引き継がせると遺言したそうだ。


唯一の娘である芙蓉さんは病院の経営に関われないので、カエデ姉さんに託したのだろう。


病院には解放軍の仲間がたくさん働いているのだ。解放軍であることは秘して。



「まあ!豊!久しぶり~」


数年ぶりに会うカエデ姉さんは杖をついているものの、自分で立ち、豊の方に歩いてきて抱擁してくれた。


最後に会った時には、カエデ姉さんは酷い怪我をおって入院中で車椅子移動だったので、豊はカエデ姉さんの回復が嬉しい。



「姉さん、ご無沙汰してしまって・・・前よりお元気そうですね。」


「まったくよ!全然音沙汰ないんだから!

私はまだ年寄りじゃないからね。リハビリで回復したの。」


そう言って得意気に笑うカエデ姉さんは以前より明るくなった気がする。



「やあ、隊長」


カラスの獣人が豊に挨拶しながら、カエデ姉さんを豊から引き離した。


彼はアースト。解放軍の協力獣人だ。

豊はもう解放軍の隊長じゃないのに、アーストがわざとこう呼ぶのはカエデが豊に抱きついてきたので嫉妬しているからだろう。



「久しぶりだね、アースト。相変わらずカエデ姉さんを助けてくれてるんだね。」


「もちろんだよ。公私ともにね。」


アーストは得意気だけど、豊はちらりとカエデ姉さんを見た。



「ふふ。私のパートナーなのよ。」



カエデ姉さんは照れ笑いしながら答えた。

どうやら豊の知らない間に2人の仲は進展していたらしい。


とはいえカエデ姉さんはもう50歳近いはずだし、カラスと人では子どもは作れないはず・・・豊は気になったけど質問はしなかった。



「それで、何か用があってきたんでしょ?」


カエデ姉さんは相変わらず鋭い。 



「はい。芙蓉さんの父が亡くなったとお聞きしまして。芙蓉さんはこの病院の近況を知ることができなくなったんですよね?」


豊は龍希の依頼は明かさず遠回しに尋ねてみた。



「あら?芙蓉さんのこと?

病院や町のことは結太君が手紙で伝えてくれてるから大丈夫よ。」


カエデ姉さんからは予想外の答えだ。



「え?芙蓉さんに?結太は家族ではないのに手紙を?」


「ええ。当初は父親から手紙を送って結太君のことも知らせてたけど、そのうち・・・龍希が特例で許したそうよ。」


「なんだ」


豊はがっかりした。

司令官じゃないなら、芙蓉さんの故郷の情報が正解だと思ったのに!?



「え?なに?なんでガッカリするのよ!?」


カエデ姉さんは不審がっている。



「あ~いえ。芙蓉さんは親を亡くして元気がないらしいので、故郷の近況を知らせたら元気が出るかなって・・・」



「そうなの?残念。龍希が先手をうってたわね。」


カエデ姉さんは愉快そうに笑う。



「結太は・・・まだ病院で勉強中ですか?」


「ううん。今年の4月に薬師の資格をとって、診療所を開いたわよ。

そうそう~紅葉と結婚したのよ」


「え!?紅葉と!?なんで?」


豊はまた驚いた。

紅葉は解放軍の戦闘員だった若い娘だ。

結太と接点はなかったはずだ。



「結太君の母親は朝顔亭の妻ってことが有名になって、いろんな種族が接触してきたり、人の娘を使ってハニートラップしかけてきてたから、紅葉につばつけさせたのよ。」


「わーお!?紅葉ってそっちもいけましたっけ?」


「ふふ。あの事件以降は戦闘員の仕事はほぼなかったから、解放軍のハニートラップ部隊で3ヶ月くらい鍛えたわ。

紅葉はユリに世話になったことを覚えててね。自分で志願したのよ。

でも仲良くやってるみたい。」


「そりゃ良かった。変な女に捕まらなくて。」


豊は結太とはほぼ接点はないけど、結太の母であるユリはかつては命を預けて戦ってきた仲間だった。

その息子である結太の幸せを願う気持ちくらいはある。



「ユリも不自由な立場だからね。これくらいの手助けはね。

それより豊は?北の貴族の側近が独身だと格好つかないでしょ?」


「格好つけない方がいいんです。

俺に子ができたら北才の政敵にされかねない。」


豊には元より結婚するつもりはなく子も望んでないけど、今はさらにしがらみのある立場になった。



「あらまあ。そっちはそっちで大変ねえ。

話題をそらしちゃったわね。芙蓉さんのことで手助けできることはあるかしら?」


カエデ姉さんは話題を戻してくれた。



「他にこの町で芙蓉さんと接点がある人は居ますか?」


豊はこれからどうしていいのか分からない。



「え?この町にはいないかも。」


「この町にはってことは、どこにいます?」


「水原町に真矢(まや)がいるの。ほら、あの子は子どもの頃に紫竜に捕まってたことがあったじゃない?

その時にたぶん芙蓉さんに会ったらしいの。」


「・・・そういえば!?ありがとうございます!」


豊の次の目的地が決まった。

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