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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
17/30

課題

~族長執務室~


8月のある日、龍希のもとに北の貴族からの調査結果が届いた。


例の白鳥妻のペンダントに入っていた白い粉末の調査結果だ。



「解放軍の毒?あれは液体だろ?」


「はい。粉末の毒は北の貴族でも初めて見たと。ですが、成分的に間違いないそうです。

解毒剤開発のために毒の製法は広く知られましたので、白鳥族では毒を粉末化する研究が進んでいる可能性があると。」



「妻の厚意を悪用しやがって」



龍算の報告に龍希は歯軋りした。



何年か前、解放軍の毒がワニ族により開発されたことを突き止め、命からがら毒の製法が記されたファイルを龍希の妻が持ち出したのだ。

 解放軍の毒は猛毒で世界的な脅威となっており、妻は解毒剤の開発のために毒のファイルを各種族に公開した。


しかし解毒剤の開発は何一つ成果が出ておらず、白鳥族では、毒の改良に利用しているということだ。



「いかがされますか?解放軍の毒を妻の侍女が秘密裏に入手しようとしたということは・・・」


龍算が最後まで言わなくても分かる。

侍女はおそらく他の妻の暗殺を目論んでいたということだ。


そしてその暗殺に龍空の妻の実家も関与していた。



「一族会議を招集する。」


「はい。若様たちは?」


「子どもの参加は認めない。」


「畏まりました。」


龍算は会議を招集しに出て行った。



息子の龍陽、娘の竜琴、龍栄の娘の竜縁(りゅうえん)は肉体がほぼ成熟し、まもなく成獣しそうなので一族会議に参加させることも増えてきた。


だが、妻の不祥事や離婚が絡む話はまだ聞かせられない。


息子と娘は龍希の妻の厚意を白鳥族が踏みにじったと知れば、激怒するだろうし。


妻にも明かしたくはないが・・・



コンコン



「入れ。」


やって来たのは執事の疾風と、龍希の侍女である鶴のカカだ。



「族長、少しよろしいですか?」


「ああ。どうした?」



「新しい若様の侍女のことでご相談が。」


カカの言う侍女とは人族の混血獣人であるスミレのことだろう。

龍陽の侍女になったので、教育をカカたち龍希の侍女に任せたのだ。



「なんだ?」


「スミレには文字を習わせる必要があるので、奥様がお書きになった字をお手本として使わせて頂きたく、奥様にお願いしたのです。

そうしたところ、奥様自らスミレに文字を教えたいと仰りまして、いかが致しましょう?」


「なんだそんなことか?妻が望むなら構わん。」


龍希は拍子抜けだ。



「奥様に近づけてもよろしいのですか?」


「妻に危害を加えることはないだろう。

混血獣人だが、人族の見た目だから妻は気になるんだろ?」


「はい。奥様はスミレが若様の侍女になったことを大変喜ばれておりまして。

毎日、スミレを気にかけて声をかけて下さいます。」


カカと疾風は嬉しそうな顔になったので、スミレが来たことで妻はかなり機嫌がいいのだろう。


龍希の妻には同族の侍女がいないのだ。

妻には実家がないし、人族は取引先ではないので侍女を調達できない。


10年以上前には、行き倒れていたところを拾った三輪を妻の侍女にしていたこともあったが、三輪は龍緑に嫁いだので、同族の侍女はいなくなった。


子どもたちが手を離れ、薬師の教育をしていた結太も独り立ちして手紙の頻度が減ってきたので、妻は暇を持て余しているのかもしれない。



「族長、そろそろ奥様にも人族の侍女をご用意頂けませんか?

タタは引退し、ナナとニニも歳をとりました。今いる侍女だけでは人手が足りません。」


カカからは何年も前からこの訴えを聞いている。

侍女を補充したいが、妻に悪意を持った侍女は近づけられないし、厳しいカカの教育についていけず、侍女を雇ってもすぐに辞めてしまうのだ。


だが、族長である龍希とその妻子の世話をする侍女に妥協はできない。



「分かっている。あと少しなんだ。

やっとここまで来た。もう少しだけ待ってくれ。」



龍希だって考えて動いていたのだ。


あの日から時間をかけて、今度こそ妻の望むことを実現できるように。




~リュウカの部屋~

父が一族会議を終えて帰ってきたのは夜遅くになってからだった。


龍風はもう自室で寝ているけど、龍陽と竜琴は母の部屋で一緒に星を見ていた。


母は次第に元気になってきた。

特にスミレが来ると嬉しそうで、文字を綺麗に書けるよう教えたり、お化粧の仕方を教えたりと世話をやくので、妹と弟はスミレに嫉妬している。


スミレはまだ母相手に緊張しているけど、嫌ではないそうで、母から香水のお下がりをもらってとても喜んでいた。



「なんだお前たちまだ起きてたのか?

それにもういい歳なんだから母親の部屋には入るなよ。」



父は怒るけど、


「あなた、私が2人を呼んだのよ。一緒に星を見てたの。」


「そ、そうか?芙蓉が望むなら仕方ないな。」


母に言われて父はすぐに機嫌が直った。



「あなた、遅くまでお仕事お疲れ様でした。」


「会議が長引いてね。なあ、芙蓉?龍陽の新しい侍女をどう思う?」


父は龍陽たちを追い出さずに母に問いかけたので、龍陽と妹はそのまま聞くことにした。



「いい子よ。何事にも一生懸命だし、掃除も丁寧なの。

お節介かもしれないけど、教養だけでなく身なりも整えてあげたいわ。」



母はスミレの話題になると本当に嬉しそうだ。

スミレは混血獣人だけど、人と同じ見た目だからだろう。



「そうか。俺の母親も、見習いだった疾風やタタに世話を焼いていたから、任せるよ。

あいつはほぼ人族と変わらないみたいだからな。」



「そう?ならあなたにお願いがあるの。」


「なんだい?」


「スミレは年齢的にはもう大人の身体になってるはずなんだけど、まだ初潮がきてないんですって。

混血獣人だからなのか、なにかそれ以外に原因があるのかを人のお医者様に診てもらえないかしら?

スミレと龍陽がよければだけど。」


母は意外なことを言い出した。



「あ~」


父は困った顔だ。


「無理?」


問いかける母は、譲れない時の顔だ。



「いや、無理ではないけど、ちょっと手順というか、先に人族相手にやらなきゃいけないことがあって・・・」


父は歯切れが悪い。



「手順?」


母にとっても意外な答えだったようで首をかしげている。



「ああ。ほかの妻のように、人族(つまのどうぞく)の医者の出入りを認めたり、侍女を置くのが先なんだ。

妻の治療ならともかく使用人のためだけに人族の医者は呼べないからね。

それで、芙蓉に相談したいんだけど・・・」


父は言葉を切って龍陽と竜琴を見てきた。



「私たちは邪魔?」


妹は父にも物怖じせず尋ねている。


「いや、聞いてていいから他言するなよ。

芙蓉の助言だと知られたら、芙蓉が危ないかもしれない。」


父はまた意外なことを言う。


普段なら内緒話の時は、龍陽たちを追い出すのに!?



「あなた?子どもたちまで危険なことに巻き込む気?」


母は嫌そうだ。



「違うよ。子どもたち、特に龍陽と竜琴には関係することなんだ。

今日の会議で龍空の離婚が決まった。理由は妻の実家の不祥事だ。

白鳥族は主要取引先のトップに据えてたけど、当然取引先内での地位を落とすことになる。

それで、これだけが理由じゃないけど、人族を正式な取引先に据えようって話が再燃したんだ。」



「え!?そうなの?」


母が驚いているのは、離婚かな?

それとも人族が取引先になること?



「離婚が子どもたちと関係するの?」


「違うよ。もし人族が取引先になれば、族長である俺の担当になるから、龍陽と竜琴も取引を手伝うことになるんだ。」


「なればってことはまだ決定事項じゃないのね?」


母は少しだけ表情が暗くなった。



「あ!相談したいことはそこなんだ。

過去のことや、族長妻の種族ってこともあるから、白鳥族の不祥事で人族を取引先に、とはいかないんだ。

族長の俺から人族に依頼というか課題というかを与えて、それをクリアしたらって条件をつけることで一族の同意を得た。

でも、問題はその依頼の中身なんだよ~」



龍陽はやっと父の相談を理解できた。

母の言っていたとおり、父は人族を取引先にするために動いていたらしい。


でもすんなり決まらなかったってことは反対勢力もいるのだ。

誰だ?


一族会議に参加できたら分かったのに!?



「簡単なお題じゃダメなわけね。

でも、あなたの一族が納得できるほどの難題?

取引先になるってそんなに大変なの?」


母も困っている。



「いや、別に反対派のやつらも無理難題を課す気はないんだ。

どちらかというと人族の面子のためだよ。

人族が取引先になれば、取引量に関係なく主要取引先に入るからね。」


「そんなに配慮して下さるのは龍賢(りゅうけん)様ね。」


「・・・ごめん。会議の中身は明かせない。」


父は誤魔化そうとしたけど、顔でバレバレだ。

でも母は龍賢に怒っているわけではなさそうだ。



「相手は豊さん・・・じゃなくて北の貴族の北才さん?」


「ああ。人族は複数の族長がいるらしいけど、今回、取引先に据えるなら豊のところの北の貴族になる。」



「そうねえ。じゃあこんなのはどう?」


意外すぎる母の提案に、龍陽は父と顔を見合わせた。


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