白鳥の間者
~族長執務室~
夜まで仕事をしていた龍陽は少しだけ朝寝坊を許してもらい、昼過ぎに起きた。
1人でご飯を食べて、弟と父と合流してシリュウ香作りをし、夕方、父と族長執務室に来た。
龍算と龍空、竜波が待っていたけど、龍空は険しい顔だ。
「族長、若様、ご報告いたします。」
龍算が白鳥の間者2人から聞き出した話を報告してくれた。
「ほぼ族長と若様の推理通りでした。白鳥の侍女はわざと妻のペンダントを脱衣場に落とし、偶然を装ってカッコウの侍女見習いが拾ってペンダントの中身を入れ替えて、ペンダントを探しに戻ってきた白鳥の侍女に戻す作戦だったそうです。
ところが、理由は不明ですが、ペンダントは脱衣場ではなく廊下に落ちており、あの侍女見習いたちがペンダントを見つけて拾ってしまったので、それを目撃したカッコウは白鳥の侍女に相談に行ったそうです。」
「なんでカッコウはその場で取り戻さなかったんだ?」
「侍女見習いのルールでは落とし物は侍女か執事に渡すことになっているので、鹿の侍女に渡されたペンダントを取り返す口実が思い付かなかったと。
怪しまれることは避けたかったようです。」
「で、ペンダントの中身はどこに行ったんだ?」
「白鳥の間者たちは、あの混血獣人の見習いが盗んだと思い込んでいました。
使用人たちの部屋、応接室、朝顔亭の客間を荒らしたのはこいつらです。
見習いがどこかに隠したと思ったそうです。」
「それで昨晩まんまと罠にかかったと。間者たちはペンダントの中身を入れ替えて、白鳥の侍女に何を渡すつもりだったんだ?」
「これです。」
龍算は三角形のケースを父の机の上に置いた。
ペンダントの真ん中にピッタリはまりそうだけど、宝石には見えない。
銀色の金属でできたケースだ。
「中に何か入ってるな。」
父はケースを開けて、中の粉末の匂いを嗅いでいる。
「捕まえた間者たちは中身は知らないそうです。」
「北の貴族に調査させろ。」
父はケースを龍算に渡して命じた。
「で、龍空の妻はどこまで関与してた?」
「ペンダントのすり替え作戦は知りませんでした。ペンダントを失くした、探しにいったら侍女と見習いが盗む場面を目撃したとの白鳥の侍女の話を信じていたそうです。」
龍算は意外な報告をする。
「え!?でもそれならペンダントの中身がないことに気づいたはずだよね!?」
龍陽は思わず問いかけた。
「はい。龍空が鹿の侍女を殺してペンダントを取り返した時に、ペンダントの中身がないことに気づいたそうです。
当初は侍女見習いが盗んだと思ったものの、龍空にそれを否定され、ペンダントを落とした時に外れて無くなったのだと思ったと。」
「え!?ならなんでスミレを殺そうとしたのさ?」
「白鳥族では、あの見習いは人族か象族の間者ではないか?と前から疑われていたそうで、妻は盗人の汚名を着せて始末しようと考えたそうです。」
「ええ!?」
そういえば昨日捕えたカモもそんなことを言ってたけど、とんだ誤解だ。
スミレは人族とは関係ないし、象族の回し者でもない。
「で、妻がペンダントの中身がないことを隠していたのはなんでなんだ?」
父が確信をついた質問をした。
「あのペンダントは妻の実家からの贈り物で、ペンダントの中央が外せる仕組みであることは妻は前から気付いていたそうです。
それにあのペンダントは前にも本家で失くなって、使用人に届けられたことがあったので不審に思ったそうです。」
「あ!龍空が言ってたね。」
龍陽は思い出した。
過去にも妻の宝飾品が失くなる事件を龍空は把握していたのだ。
「ええ。それでペンダントには何かあるのでは?と勘ぐって、龍空に白鳥の侍女を殺させ、ペンダントは実家に送り返して警告したかったと。
白鳥の間者たちがペンダントの中身を探していることも知りませんでした。」
「我妻は利用されただけですよ。」
龍空はそう言うものの、元気がない。
「妻の実家が白鳥の間者と繋がり、悪事を働こうとしたなら、妻は無関係で済むわけないだろ?
北の貴族の調査結果が出るまで、妻は蜻蛉亭から出すな。白鳥の侍女たちもだ。」
「はい、族長」
龍空は渋い顔で応じ、龍算とともに部屋から出て行った。
「龍空はどこまで分かってたの?」
龍陽は竜波に尋ねた。
「白鳥の悪事はもちろん知りませんわ。でも妻が何か隠し事をしようとしていることには気付いて見て見ぬふりをしていたのです。」
「龍空は処罰しないの?」
「しない。妻の悪事に手を貸したわけじゃないからな。無実のスミレには手を出さなかったのはあいつなりの線引きだ。」
父はきっぱり否定した。
「でも妻の悪事を庇ったなら共犯じゃん?」
「妻を守るのは夫の仕事だ。妻の隠し事を暴くことまでは求められない。」
「でも、妻とは離婚?」
「白鳥族と話をつけるが、龍灯に息子が産まれたからなあ。白鳥の子がさらに必要でも龍空の妻である必要はねえし。」
白鳥の妻は、龍灯と龍空の2人で、龍灯の妻は昨年息子を産んだのだ。
龍空夫婦にはまだ子どもはいないけど、龍空の妻の方が若いし、後から嫁いできた。
でも、子どもがいない方が離婚はさせやすい。
「鳥族の妻は減らしたくないですね。次の縁談はお任せ下さい。まだ子のいない龍空にはたくさんありますの。」
竜波はもう離婚させる気満々だ。
実家の不祥事は妻も連帯責任
これが紫竜一族のルールだ。
白鳥族は主要取引先だけど、白鳥の妻は2人しかいないけど、例外はない。
「ねえ?妻が実家を庇わず、ペンダントの中身がないことを知らせてたら、結果は違った?」
「我らの手間はここまでかかりませんでしたね。
でも妻はそんなことしませんわ。実家より夫を選ぶことはありません。」
竜波は断言する。
「なんで?」
「妻は夫が嫌いですから。
それに獣人は同族をかばう生き物です。」
「そっか。」
龍陽がもっと幼いころから繰り返し聞いた教えだ。
夫は妻を守り、経済的に困らせない責任があるけど、妻を信頼してはならないし、妻が紫竜一族を裏切るなら、それに手を貸してはいけない。
「行方不明のペンダントの中身はどこに行ったんだろうな?」
父が問いかける。
「分かりません。若様の言うとおり、何も知らない使用人が持ち去ったとしか思えません。
白鳥の侍女が計画どおりにペンダントを脱衣場に落として行ったなら、ペンダントの中身を抜き取って廊下に落とした別の誰かがいるはずです。」
「そっちにもなにか入っていたのか?」
「間者たちは知らないと。白鳥の侍女は龍空が殺したのでもう確認できません。」
「あんな物盗む?宝石には見えなかったよ。」
龍陽は疑問だ。
「妻の金のネックレスに着いていたので価値があると思い込んだのかもしれません。」
竜波はもう興味がないらしい。
「龍陽、この件の調査はこれで終わりだ。
この先は子どもにはまだ関与させられない。」
「分かりました。」
族長の決定は絶対だ。
龍陽は族長執務室を後にした。




