竜波の勘
コンコン
「あら、若様?龍算様も?」
竜波は不思議そうな顔で2人とスミレを迎え入れてくれた。
「突然、ごめんね。龍空の妻のことで知りたいことがあるの。」
龍陽はさっそく切り出した。
「ああ、先日のペンダント窃盗ですか?若様にもお手間をおかけしたと聞いております。」
やはり竜波も把握しているようだ。
「それ。盗まれたペンダントに宝石ってついてた?」
「え?宝石ですか?ないですよ。ちょうどここにそのペンダントがあります。」
そう言って竜波は金のネックレスを机の上に出した。
「え?なんでここに?」
「妻が気分が悪いから実家に送ると言ったそうで、私のところに来たのです。
でも、ちょっと気になることがありまして、まだここに置いています。」
竜波は意地の悪い笑みを浮かべた。
「何、気になることって?」
「あの白鳥妻の性格からして、話のネタにしそうなんですよね~手放すなんて普通じゃありえない。
それに龍空の様子もなんか変なのです。」
「龍空が変?」
龍陽は心当たりがない。
先日は普段通りに見えたけど、女の勘はバカにできない。
「竜波、そのペンダント、宝石がついていたと思うか?」
「ん~」
龍算に問われて竜波はペンダントを調べ始めた。
「宝石かは分かりませんけど、たしかにここに何かはまってたのかも・・・でも宝石なら妻が大騒ぎしているはずですわ。」
竜波は龍算と同じ意見だ。
「やっぱり僕が気にしすぎ?でもスミレの部屋や客間が荒らされたのは無関係とは思えないんだよね。」
龍陽は自信がなくなってきた。
「スミレ?」
首をかしげる竜波に龍算がこれまでのことを説明してくれた。
「なるほど。いえ若様の推理はなかなかですわ。気にしすぎで終わらせるのは勿体ない。白鳥妻なんて信用なりませんしね。
去年、龍灯の子を産んでから白鳥族は調子に乗ってますの。」
「とりあえず族長に相談して龍空を絞めあげるか。」
龍算が物騒なことを言い出した。
「え?大丈夫?なんの証拠もないよ!?」
龍陽は不安になったけど、
「若様の推理と、竜波が抱いた違和感は十分な証拠です。族長は動かれますよ。
行きましょう。」
「うん。スミレも連れていく?」
龍陽は父の前にはあまり連れていきたくない。
ほかの使用人と同様に怯えさせてしまう。
「その子は一時保護しましょう。白鳥族の間者が口封じすると困るので。」
竜波はそう言ってハヤブサの侍女にスミレの世話を任せたので、龍陽は龍算、竜波とともに父の執務室に向かった。
~族長執務室~
龍算と竜波の報告を聞いた父は、すぐに執事に命じて、龍空を呼びに行かせた。
「なんでしょう?族長?」
龍空は不機嫌な顔でやって来た。
「お前、妻に人族の侍女見習いがペンダントを拾ったことを教えたか?」
父は単刀直入に尋ねた。
「・・・あ~」
龍空は深いため息をついた。
「答えろ!」
「いいえ。」
そう答えた龍空から悪意は出なかった。
「なら妻はどうやって知ったんだ?」
「さあ。龍景は追及しませんでしたので。」
「お前はなぜきいてない?」
「私の仕事ではありませんので。」
龍空はそう言いながら龍陽をちらりと睨んできた。
「なんだ?若様に!」
龍算が気付いて龍空を怒鳴る。
「いいえ。なんでここに子どもがいるのかな?と。」
「妻の悪事を隠してたの?」
龍陽は腹がたってきた。
「我妻がどんな悪事をしたのですか?ペンダントを盗まれた被害者ですぞ。」
龍空は動じない。
「ペンダントをわざと廊下に落としたのね。で、白鳥族の侍女か間者にでも見張らせてたんでしょ。
だから侍女見習いが拾ったことも、侍女が横領したことも分かって、あんたを連れてペンダントを回収しに行ったのね。」
竜波の指摘に龍空は無表情になった。
「どうなんだ?龍空?」
父が問いかける。
「さあ。私は妻からそんな話は聞いておりません。」
「なら、妻を連れてくるか?俺が直接聞こう。」
「いやいや、族長!?仮に竜波の推測通りとしても、紫竜一族にはなんの迷惑もかけておりませぬ。」
龍空は焦りだした。
「妻が理由もなくそんなことするわけないでしょ?
ペンダントは本当は別の誰かに拾わせるつもりだったんじゃないの?」
竜波は怖い顔で問いかける。
「私には分かりませんよ。妻にききますか?白鳥族がそんな悪事を妻にさせるとは思えませんけど。」
龍空は妻を信頼しているわけではないらしい。
「竜波、そのペンダントに何があるんだ?」
父が問いかける。
「それを調べておりましたが、若様の言うとおり、この真ん中に何かはまっていたのかもしれません。
間者への秘密のメッセージか、暗号かもしれませんね。」
「馬鹿馬鹿しい。私の妻を巻き込む理由がないですよ。」
龍空は否定するが、顔は険しいままだ。
「そう?龍灯様の妻が息子を産んだから、白鳥族は調子に乗ってきてるのよ。
でも龍灯様の妻にはこれ以上悪事はさせられないからね。」
竜波は完全に龍空の妻を疑っている顔だ。
「そこまで言うなら、そのペンダントにはまっていた物は今どこに?
殺した侍女から回収した時にはなかったですよ。断言できます。」
龍空から悪意は出ていない。
「それを探しているのよ。」
竜波は困った顔だ。
「白鳥の侍女だ!」
龍陽はやっと繋がった。
「え?若様?」
「白鳥妻はペンダントを脱衣場で外して白鳥の侍女に渡した。でもスミレが廊下でペンダントを拾った時にはペンダントの中身ははまってなかった。
なら白鳥の侍女が中身を外して持っていったんだ。」
「おお!さすが若様!」
龍算は感心するが、
「ならば私の妻は無関係ですな。侍女の悪事ということだ。」
龍空は嫌な笑みを浮かべて見てきた。
「いや、なら妻はペンダントの中身がないと騒ぐはずだよ。妻も共犯でしょ?」
「妻が共犯なら中身のないペンダントを回収するために私を巻き込むのは不自然ですな。」
「う・・・」
龍陽は反論できない。
「白鳥侍女はペンダントを失くしたと言って風呂場に探しにきたんだろ?
その間に、白鳥の間者がペンダントを拾って中身をすり替えてペンダントを元の姿に戻し、それを侍女が回収する算段だったんじゃないのか?」
「え!?」
なんと父が助け船を出してくれた。
「おお!それなら辻褄が遭います。ペンダントの中身を戻す前に侍女たちがペンダントを隠したから、侍女は焦って妻に相談に行ったんですね!」
「・・・ならばあの見習いチビがペンダントを拾った時に、白鳥の間者が取り返すのでは?
中身を外したまま廊下にペンダントを放置するとは思えませんけど?」
龍空の問いかけに今度は父も黙った。
父の説だと、スミレが拾った時にはペンダントは元の姿に戻っていないとおかしい。
でも中身はなくて、犯人はそれをスミレが盗んだと思って本家のあちこちを捜してる!?
「・・・侍女はわざと廊下にペンダントを落として間者に拾わせるつもりだった。
でもその前に別の誰かが中身だけ抜き出してペンダントを廊下に戻し、それをスミレが見つけたのを白鳥の侍女は見た。
白鳥の侍女が別の誰かが中身だけ抜き出したのを見てなかったなら、スミレたちがペンダントの中身を盗ったと思い込んだ。
それを妻に伝えたから、妻はスミレこそペンダントの中身を持ってると思って龍空に殺せと迫ったとか?」
龍陽は思い付きだけど、辻褄は遭う。
「いや、別の誰かとは誰です?
白鳥の対抗勢力ですか?」
龍空はバカにした笑いだ。
「そうとは限らないわ。もしもペンダントの中身が宝石とかに見せかけられていたら、拾った使用人が宝石だけ抜き取るかもよ。できのいい金のペンダントは足がつきやすいけど、宝石だけなら転売できるもの。」
竜波が助け船を出してくれた。
「何もかも推測ですな。証拠は何もない。」
龍空はそう言うが、
「白鳥の間者は捕まえられるよ。たぶんそいつはまだスミレがペンダントの中身を抜き取ったと勘違いして、スミレの部屋や応接室を探してる。
スミレに囮になってもらおう。」
龍陽はいいことを思い付いた。




