荒らされた部屋
~使用人 控え室~
翌日、スミレは昨日の疲れが取れないまま、仕事をしていた。
恐怖で昨晩はろくに眠れなかったけど、仕事を休んで部屋に1人でいるのも嫌だったので、重い身体を引きずって仕事に出てきたのだ。
今日も、掃除、洗濯、ゴミ捨てなどなど仕事は沢山ある。
今は使用人控え室の掃除をしている。
「そっちの袋にゴミまとめて。」
指示を出してくるのはワシの侍女だ。
だけど、クチバシの形が変なので、たぶん混血獣人なんだろう。
ワシはぶっきらぼうだけど、指示は分かりやすいし、ワシ自身も手際よく作業しているので、彼女は出世しそうだ。
「このゴミはあっちのゴミ捨て場に捨ててきて。そしたら今日の仕事は終わりよ。」
控え室の掃除が終わり、スミレは命じられたゴミ捨てをして、ワシの侍女と別れた。
疲れた。
食欲もなく、眠気がすごい。
今日は部屋に戻ってすぐ寝よう。
スミレは自室に向かった。
ここのすごいところは、使用人に個室が与えられているところだ。
見習いのスミレすら、初日から個室がもらえた。
狭いと文句を言う同僚はいるけど、スミレには十分すぎる。
ドタドタ
誰かが廊下を走っている。
また事件?
それとも行儀の悪い使用人?
どちらにせよ、スミレはもう関わりたくない。
眠い
「あ!スミレいた!」
なんと走ってきたのは侍女見習いのテンだった。
今日は侍女見習いの制服を着ている。
「なに?私の仕事は終わったの。」
スミレはうんざりした。
「族長の執事が呼んでるよ!大変なの!」
テンはそう言うなり、スミレを抱き抱えて走り出した。
「え!?ちょっ!?」
スミレは事情が分からないけど、族長執事の呼び出しなら自分で行くのに!?
なんで抱えられて運ばれているの?
しかもテンが向かっているのは、使用人の部屋がある方向だ。
族長の執事たちがいるエリアとは全く違う。
「執事様!連れてきました!」
テンに運ばれた先には、昨日スミレを送ってくれた族長のヒョウの執事が居た。
なんでここに?
だってここは、スミレの自室の前だ。
「ああ。ご苦労。ここはお前の部屋で間違いないか?」
ヒョウの執事はスミレに尋ねてきた。
「は、はい。」
スミレは、なんでこんな質問をされるのか分からないけど素直に答えた。
「朝、部屋の鍵は閉めたか?」
「は、はい。」
「鍵が壊されて、部屋の中が荒らされているようだ。部屋から失くなったものがないか確認しなさい。」
「え!?」
執事の言葉に驚いて、スミレが自分の部屋の扉を開けると、確かに鍵が壊されている。
朝、部屋を出る時には壊れていなかった。
それに部屋の中はひどい有り様だ。
備え付けの棚はすべて引き出しが外されて床に捨てられ、ベッドはシーツがはぎ取られて、枕は切り裂かれて中身がはみ出している。
「な、なにこれ!?」
スミレは呆然としながらも自分の荷物を確認した。
自分の荷物なんてほとんどない。
服は貸与された侍女見習いの制服と、自分で買った寝間着一つだけ。
身体が大きくなったので先月買い換えた下着は棚の引き出しに入れていたので、床に散乱している。
棚に入れていたわずかな化粧品も床に落とされていたけど、全部ある。
机の上には溶けかけのロウソクとマッチ箱もある。
若様にもらったレモンの飴の残りも机に置いたままだ。
あとはゴミ捨て場から拾ってきた汚れた本が2冊。これは失くなっても困らないけど、残っていた。
スミレの部屋に金目の物なんて皆無なのに。
若様のお菓子が狙われた訳でもなかったようだ。
なのに、なんで泥棒はスミレの部屋に?
それともいやがらせ?
スミレは部屋を調べ終わると、まだ部屋の前の廊下にいる執事に報告に行った。
スミレの両隣と、向かいの3部屋でも同じように住人が部屋の中を調べている。
扉の鍵が壊されているので、スミレ含め6部屋が被害を受けたらしい。
「他の使用人も呼んでこい!全員、自分の部屋を調べるように!最優先だ!」
執事は大きな声で指示を出している。
「スミレ、何もとられてなかった?」
テンが近づいてきた。
「うん。盗られる物持ってないもの。テンは大丈夫だったの?」
テンの部屋はスミレの部屋からさほど離れていないはずだ。
「私は大丈夫。鍵壊されてなかったし。中も朝と同じだった。」
「そっか。」
「顔色ひどいよ。医務室行く?」
「眠いだけ。でも今夜はどこで寝よう?」
スミレは途方にくれたけど、その後すぐに執事は空き部屋を新しい部屋として与えてくれた。
荒らされた部屋はこの後調べるらしい。
新しい部屋も前の部屋と全く同じで、スミレはわずかな荷物を持って新しい部屋に移動した。
鍵をかけるだけでは不安だったので、ゴミ捨て場から木の棒を拾ってきて、引戸のつっかえ棒にした。
気休めだけど、寝不足と疲労により、スミレはベッドに入るなり、寝入ってしまった。
~族長執務室~
「朝顔亭の客間も荒らされた?」
龍希は執事の疾風からの報告にまゆをひそめた。
一昨日、使用人の自室6部屋が荒らされる事件があったそうで、疾風に対応を任せていた。
昨日は一族滞在スペースの応接室が一つ荒らされる被害があり、さすがに見逃せないと思って補佐官に調べさせたが、今日は朝顔亭の客間とは・・・同一犯か?
「はい。本日の朝、朝顔亭のご家族は屋敷に戻られましたので、使用人に客間の掃除を命じました。
ところが、侍女たちが清掃に行くと客間の中が荒らされていたそうです。」
龍景は溜まっていた仕事をようやく終わらせ、妻子を連れて朝顔亭に帰ったところだった。
「盗み目的か?」
「今のところ盗まれた物はありません。応接室や客間で壊された物はあるものの、失くなった物はありません。
使用人からも部屋から失くなった物はないとの報告を受けております。」
「じゃあ何が目的だ?」
龍希は意味が分からない。
使用人部屋の事件程度ならまだしも一族滞在スペースでのトラブルとなれば、本家を管轄する族長として動かざるをえない。
「今日は補佐官は誰が来てる?」
「龍算様は1日勤務、龍緑様と龍灯様は取引に来られます。」
「じゃあ龍算に任すか。あと、龍陽も勉強のために手伝わせろ。」
「畏まりました。伝えてきます。」
疾風は執務室から出ていった。
~応接室~
龍陽は父の命令で、龍算とともに荒らされた応接室の調査に来た。
テーブルクロスははぎ取られて床に落ち、椅子はカバーが取り外されて床に倒されている。
ソファーに置かれたクッションは切られて中身が出ている。
でも壁に飾られた絵画も、棚に飾られた壺や装飾品は手付かずだ。
「何が目的だ?」
龍算も首をかしげている。
「匂い残ってない?」
龍陽は龍算ほど鼻がよくない。
「ん~あ!こっちのソファーは龍空の匂いですね。」
「龍空?ああ、ここ、数日前に龍空夫婦から話を聞いた部屋だからだ。」
龍陽は思い出した。
「え?・・・ああ、白鳥妻のペンダントが盗まれた件ですか?」
龍算は把握しているらしい。
「そう。結局、なんで廊下に落ちてたのかは分からず仕舞いだけどね。妻の話に不審はところはなかったの。」
「そうですか。応接室が荒らされた事件とは関係なさそうですね。朝顔亭の客間も見に行きましょう。」
「うん。」
~朝顔亭の客間~
「うわあ。」
朝顔亭の客間にやって来た龍陽は呆れた。
こちらもソファーに置かれたクッションが切り裂かれて中身が出ており、クッションカバーはグシャグシャにされて床に落ちている。
棚の引き出しはすべて外されて床に落ち、中身も床に散乱している。
「使用人の部屋もこんな荒らされ方だったそうです。引き出しが残らずひっくり返されていたと。」
龍算が教えてくれた。
「応接室の棚は荒らされてなかったのにね。
うーん?犯人は別なのかな?」
「・・・クッションを切り裂いたり、引き出しを外して中身を床に散乱させたり、誰が何のために?」
「狙われた客間は朝顔亭だけなら、龍景かユリに恨みでもあるのかな?」
「いや、しかし、二人がこの部屋に滞在していた間には異変はなかったそうです。帰宅した後に部屋を荒らしても2人には関係ないのでは?」
龍算の指摘するとおりだ。
「確かにね。じゃあ、使用人同士の恨み?お掃除を大変にさせてやろう的な?」
「まあ、ありえない話ではないですが、そうすると、応接室と客間はどこでもよかったということですか?
いや、それとも掃除担当が狙われた?」
「あ!部屋を荒らされた使用人たちがいるんだよね?もしかして応接室やこの客間の掃除担当だったりして!?」
「さすが若様!使用人のことは疾風が調べていますので、聞きましょう。」
龍算はワシの執事に命じて、疾風を呼びに行かせた。




