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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
11/12

白鳥妻の話

「大丈夫?

私のこと覚えてる?スミレよね!?」


ユリは床に膝をついてスミレに問いかけてきたので、スミレは小さく頷いた。



「怖かったわよね?怪我はしてない?」


「だ、大丈夫です、奥様」


スミレはやっと声が出た。



「立てる?」


「は、はい。」


ユリは手を差し出したけど、スミレは自分で立ち上がった。

うかつに妻に触れると、夫竜が怖い。



「何があったの?」


ユリが問いかけてきたけど、


「お、奥様!畏れながらこちらで立ち話は・・・」


妻付のフクロウ侍女が制止する。



「え?ん~じゃあ客間でゆっくり聞くわ。スミレついてきてね。」


ユリはそう言って歩きだしたので、スミレは後ろをついていった。



妻の命令には逆らえないし、あの白鳥妻たちはまだ近くにいるかもしれない。

今はユリのそばが安全だ。




~朝顔亭の客間~


「シューセ、スミレと私に温かい紅茶持ってきて」


「畏まりました、奥様」


客間に戻るなり、フクロウ侍女はユリに命じられて、部屋の隅で紅茶の支度をし始めた。


やはり妻付の侍女はすごい。

スミレなんかを妻が客間に招き入れたことも、紅茶を用意させることも内心不満に違いないのに、侍女は顔にすら出さない。


先ほど廊下で苦言を呈したのは妻を見世物にさせないためだろう。

 騒ぎで使用人が集まってくる音がしていた。



バタバタ



フクロウ侍女がユリとスミレの前に紅茶をおいていると、外から足音が聞こえてきた。



ガラリ



「ユリ!?大丈夫か?」


駆け込んできたのは龍景だ。

それよりも、なぜか族長の若様が一緒だ。



「スミレ!?なんでここにいるの?」


若様は驚いた顔で尋ねてきたので、スミレはペンダントを拾った後の出来事を話した。



「龍空のやつ!俺の妻の前に死体を晒しやがって!」


龍景はそこに怒っている。



「スミレは災難だったわねえ。白鳥妻と何かあったの?」


ユリはまだスミレを心配してくれている。



「いいえ。お顔を見るのも初めてです。」



スミレは全く心当たりがない。

妻は本家の使用人には無関心なものなのに、なんで!?



「ん~じゃあ狙いはスミレじゃなかったのかしら?」



「え?ユリ?どういう意味?」


若様と龍景は首をかしげているけど、スミレはユリに期待した。


スミレと同じ違和感を持ってくれたのかもしれない。



「おかしいと思わない?白鳥妻はいつペンダントを落としたのかしら?」



「え?風呂に入る前じゃないの?風呂の前の廊下に落ちてたんだろ?」


龍景は分かっていない。



「それなら、お風呂に入る前に気付くでしょ?白鳥だってペンダントをつけたままお風呂には入らないわよ。」


「あ!そうか。なら風呂から出たあとか?」


「どう思う?シューセ?お風呂の後にもペンダントはつけないわよね。侍女が廊下に落としたのかしら?」


「ありえません。奥様の宝飾品は脱衣場でケースに入れるはずです。廊下に落とすなんて考えられません。」


フクロウの侍女はきっぱり否定した。



「やっぱりそうよね。白鳥の侍女は脱衣場を探しに来たらしいから、妻はお風呂に入る前に脱衣場でペンダントを外したのよ。きっと。」


「え?どういうこと?ユリは何を言おうとしてるの?」



「妻か侍女がわざと廊下にペンダントを落としていったんじゃないかな~」



「なんで!?」


若様と龍景は驚いているけど、スミレも理由は分からない。



「私には白鳥の考えなんて分かんないわ。ただ、妻も無関係とは思えない。ネコババしようとした鹿は自業自得だけど、白鳥の侍女にスミレまで殺す必要はなくない!?

口封じっぽいな~」


「え?なんの口封じ?」


「ペンダントが脱衣場じゃなくて廊下に落ちてたこと。」



「ん~でも廊下に落としたら誰が拾うか分からないよ。なんの意味があるの?」


若様は不思議そうだ。



「それは龍空の妻にきけばよいです。族長に報告に行ってくる。ユリはここに居てくれ。」


龍景が立ち上がった。



「スミレは?もう解放していい?」


若様が尋ねる。


「いえ、連れていきます。龍空か白鳥妻が探しているかもしれませんので。」


「じゃあ僕も一緒に行くよ。スミレ、ついておいで。」


「はい、若様」


スミレは若様と一緒に族長の元についていった。




~族長執務室~


龍陽が龍景と父の執務室に来ると、なんと龍空が居た。



「ああ。やっぱりそのチビを連れて来たな。ご苦労、龍景」


龍空はスミレに用があるらしい。

龍景が連れてくると分かって待っていた!?



「スミレは盗みには関与してないよ。」


龍陽はスミレを背中に庇いながら反論した。



「ならばそのチビの弁解を聞きましょう。」


龍空は意外にも冷静だ。



「スミレ、もう一度話できる?」


龍陽が促すと、スミレは怯えた顔をしながらもペンダントを拾った後の出来事を聞かせてくれた。



「廊下に落ちてた?」


龍空も違和感を抱いたらしい。


「族長、おかしいと思われませんか?脱衣場ではなく廊下に落ちてたなんて。侍女の失態とは思えません。」


龍景が父にユリの疑念を伝えている。



「・・・廊下に落ちてただけで妻を疑うのはなぁ。どう思う?龍空?」


父は乗り気ではないようだ。



「・・・妻を疑われるのは心外ですが、ペンダントを落とした侍女は先ほど殺してしまったのでね。

それに妻の宝飾品がなくなるのは今回だけではないのですよ。」


龍空は意外なことを言い出した。



「ならやっぱり侍女の不手際か?」


「妻はそう思って侍女に当たり散らしていると思っていたのですが、侍女がわざと失くしていたのか?」



「妻はなんでスミレまで殺そうとしたの?」


龍陽は龍空に尋ねた。



「さてねえ。たぶん人族の見た目だから、かと。」



「口封じじゃないのか?ペンダントが廊下に落ちていたことを隠したかった。」

龍景はそう言うが、


「それなら、妻が私を連れてペンダントを探しに行ったのは不自然じゃないか?」


龍空が否定した。



「う・・・確かにな。なら犯人は侍女か?」


「分かんないよ。妻はわざと落としたけど、予想外に鹿の使用人がペンダントを盗んだから、取り返しに行ったのかもよ。」


納得しかけた龍景に、龍陽は思い付いたことを言ってみた。



「・・・は~やれやれ。侍女が死んだなら、龍空の妻に話を聞くしかないな。龍景、龍陽行ってこい。」



父が折れた。妻に疑念は持ってくれたようだ。

龍空は嫌そうだけど、反論する気もないらしい。



「スミレはもう帰していいよね?無関係だもん。」


龍陽は父に尋ねた。


「ん?ああ。まだ見習いだな。疾風、連れていけ。」


「スミレ、もうゆっくり休んでいいからね。」


疾風が送ってくれるなら安心だ。

龍陽はスミレを見送って、龍空、龍景とともに白鳥妻に会いに行った。




~応接室~


龍空は客間に龍陽たちが入るのを嫌がったので、近くの応接室で妻から話を聞くことにした。


間もなく、龍空が白鳥妻と犬の侍女を連れてきた。

侍女は紫竜一族が与えている侍女だ。



「なんですか?こんな時間に?」


妻は不愉快そうだ。



「申し訳ございません、奥様。

先ほど、本家の使用人が奥様の宝飾品を盗んだとお聞きしまして。

本家の事件は族長の管轄になりますので、聞き取りを命じられたのです。」


龍景は営業スマイルで妻に説明している。



「それならもう夫が始末をつけてくれましたので、結構ですわ。詳しいことは夫が知っておりますし。」


妻は嫌そうだ。

それが怪しく見えるのは、龍陽だけ?



「では龍空殿がご存じないことだけ手短に。ペンダントが無くなったのはどこですか?」


龍景は気にせず質問を始めた。


「私はお風呂に入る前に外して侍女に渡しましたの。」


妻は嫌そうながらも答えた。

悪意は出ていない。



「それはペンダントを探しに風呂場に戻ってきた侍女ですか?」


「そうです。」


「ペンダントは風呂場ではなく廊下に落ちていたそうなのですが、お心当たりは?」


「どういう意味です?私は侍女に渡しましたの。」


「侍女はペンダントをケースに仕舞いませんでしたか?」


「そこまで見てません。廊下に落ちていたなら、仕舞わなかったんでしょうね。」


「いつペンダントがないことにお気づきに?」


「入浴を終えて客間に戻って・・・30分も経っていないころかしら?

その侍女がペンダントがないと言い出しましたの。」


「侍女が?」


龍景は驚いているけど、龍陽も予想外だ。


侍女がわざと廊下に落とした訳じゃないのか?



「ええ。もうよろしくて?」


「えーと」


龍景はもう質問が出てこないようだ。

妻から悪意は一度もでていない。



「僕からもいいですか?」


龍陽は尋ねてみた。


「なんでございましょう?若様?」


妻は警戒した顔になる。



「なんで侍女見習いまで殺そうとしたの?」



「イヤですわ。誤解なさらないで下さい。

あの見習いがペンダントを拾ったので盗人の仲間だと思ったのです。」



意外なことに妻から悪意は出なかった。



「そうなの?あの子は違うよ。落とし物を侍女に渡しただけだよ。」



「若様と朝顔亭の奥様が盗みと無関係と仰るなら、私は反抗するつもりはございません。」


妻からはやはり悪意は出ない。



もうスミレを殺す気はないようだし、人族の見た目だから殺そうとした訳でもないらしい。



龍陽が目配せすると、龍景は聞き取りを終わらせた。


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