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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第1章 母の種族
10/12

落とし物

~紫竜本家 使用人食堂~


「あ!スミレ何食べてるの?」


スミレが仕事を終えて、食堂でお菓子を食べていると、侍女見習い仲間のテンがやって来た。



「族長の若様からの差入れ」


スミレは最後のレモンクッキーを口に入れてから答えた。


「え!?いいな!どこにあったの!?」


「あっち。でももう無くなったよ。早い者勝ち」


「えー!?」


テンはショックを受けている。



「人族の菓子だからテンの口には合わないかもよ。」


「関係ないよ!お菓子はなんでも美味しいのにー」


ワニの混血獣人であるテンは、ワニと同じく雑食らしい。



「ね~スミレのお菓子残ってないの?何かと交換しようよ~」


「残念。全部食べちゃった。」


いつもならこういうおこぼれをテンに売り付けるけど、若様からの差入れは別だ。



「がーん」


テンは本気で落ち込んでいる。

彼女の食い意地はすごいのだ。



「デートで美味しいもの食べてきたんじゃないの?」


「え?えへへ~まあね。」


テンは照れくさそうに笑う。



テンは彼氏と旅行に行くために2日ほど休みをもらっていたのだ。


同僚の恋話ほど楽しい話題はない。



「あ!テン帰ってきてるじゃん。」


鹿の獣人が近づいてきた。

侍女のリリーだ。

去年までは侍女見習いの同僚だったけど、今年の春に侍女に昇格した。



「ん?スミレ何食べてたの?レモンの匂い?」


リリーが尋ねてきた。


「族長の若様からの差入れ」


「あ~人族の菓子だっけ?混血獣人のあんたは食べられるんだ!?」


「うん。美味しかった。」


「う~ズルい!」


テンはまた悔しがっている。



「テンはデートで何食べてきたの?」


スミレは話題を戻した。


「お!私にも聞かせてよ。」


リリーは興味津々で椅子に座った。



「白猫領に行って~お魚沢山食べてきたんだ~」


「へ~なんで白猫?」


「旅費が安いから!彼がお店に詳しくて~美味しいものしかなかった!」


「あんたは何でも美味しいって食べるくせに。で、彼とはどこまでいったの?」


「旅行しただけだよ。私はまだ身体が大人になってないからね。」


テンは拗ねた顔で答えている。



「え?そうなの?そんなにでかい身体なのに!?」


リリーは驚いている。

テンはリリーより頭1つ分背が高いからだろう。



「悪かったわね。でも先月の健康診断でもうちょっとって言われたの。」


テンは嬉しそうだけど、スミレは落ち込んだ。



スミレも同じ健康診断を受けたけどそんな話はなかった。

スミレは自分の年齢を知らないけど、フクロウの医者は16~17歳くらいと言っていた。

人族の雌ならもう大人になっている年齢らしいけど、スミレは混血獣人なので人族とは成長のスピードが違うそうだ。


それに混血獣人の3人に1人は身体が大人にならず、子どもを作れない身体のまま死ぬらしい。


スミレには恋人はいないし、子どもが欲しいとも思わないけど、一生子どもの身体のままは嫌だなと思う。



「そういうリリーは?もう大人の身体になったんでしょ?彼氏いないの?」


テンとリリーは楽しそうに恋話を続けている。



「彼氏とは別れたの。いい男居たら紹介してよ。稼ぎのいい奴ね。」


「え~?庭師といい仲じゃないの?」


テンは何か知っているらしい。



「ヤダー!違うわよ~栗のお菓子をもらっただけよ。」



リリーは全く嫌そうじゃない。



「知らないの~?男が女に菓子を贈るのは求愛行動なんだよ!?」



「そうなの!?」


スミレは驚いて声が出た。



「え?ヤダー!?何驚いてんの?こんなの常識よ。スミレはお子ちゃますぎ。」


リリーとテンは大笑いだ。



「悪かったわね。」


ほんの数年前まで象の実験動物だったスミレにはそんな常識は分からない。



「あ~可笑しい。

あ!ヤダ!仕事の時間だわ。どっちか手伝ってよ。風呂掃除。」


リリーは時計を見てはっとなっている。



「私は今日まで休みなの。今からご飯だし。」


テンはそう言って食堂のカウンターに逃げていった。



「どこの風呂掃除?」


スミレは仕方なく立ち上がった。


「カゲロウ亭の奥様。かなりましな仕事でしょ?」


リリーはそう言って歩きだしたのでスミレは着いていく。



カゲロウ亭といえば龍空(りゅうくう)

その妻は数年前に嫁いできた白鳥だったはずだ。


雄竜の風呂じゃないだけ残った匂いはましだけど、めんどくさい。

今日はもう仕事は終わりのはずだったのに、勤務時間は残っているので新しい仕事を言い付けられては拒否できない。



スミレは使用人休憩スペースを出て、紫竜一族の滞在スペースに入った。

本家は広く、役割に応じて区分されているのだ。


侍女見習いは単独では一族滞在スペースには入れないルールになっており、必ず侍女か執事に付き従うことになっている。



コツン



「ん?」


廊下を歩いていたスミレの靴に何か当たった?



スミレが足元を見ると、ペンダントが落ちている。

おそらく金かな?

ペンダントトップは繊細な彫刻が施された三角の形をしている。



「リリー待って」


「なに?」


先を歩くリリーは立ち止まって振り返ってくれたので、スミレはペンダントを拾ってリリーに手渡した。



「この重さは金ね。どこかの妻の落とし物かしら?」


リリーはそう言ってポケットに入れた。

ネコババするつもりかもしれないけど、スミレはあえてきかなかった。


侍女見習いのスミレは落とし物を侍女か執事に届けるまでが仕事だ。



掃除場所はそこからすぐ近くの浴室だった。

スミレは上着を脱いで浴室に入り、窓を開けて、風呂の栓を抜いた。

 匂いはましな方だけど、白鳥の抜け羽は抜け毛より掃除がめんどくさそうだ。


リリーは脱衣場の掃除をしている。

侍女になれば楽な仕事の方を選べるので、スミレも早く侍女になりたい。



お湯のなくなった浴槽に入ってスミレがタワシで掃除をしている頃に、脱衣場から話し声が聞こえてきた。



「ちょっと!奥様のペンダントを見なかった?金でできた物よ。」


知らない女の声だ。


「私がここを掃除していますけど、ペンダントはないです。」


スミレには声しか聞こえないけど、おそらく妻の侍女がペンダントを探しに来たようだ。

リリーはやはりネコババするつもりのようですっとぼけている。


スミレは面倒事が嫌なので聞こえないふりをして掃除を続けた。


妻の侍女は浴室には入ってこず、どこか別の場所を探しに出ていったようだ。



それからしばらくしてスミレは浴室の掃除を終え、リリーとともに廊下に出た。



「お疲れ様」


「これで仕事は終わりだよね?」


「ええ。スミレの部屋まで送るわ。」


「食堂でいいよ。夕飯食べるから。」


スミレは断った。

とっととリリーと離れたい。



スミレはめんどうごとは御免だ。

なのに、嫌な臭いが近づいてきた。



数歩先を歩いていたリリーが立ち止まって廊下の端に寄ったので、スミレも端に移動してリリーから数歩離れた場所に立った。



この匂いは雄竜だ。

誰の匂いかまではまだスミレには判別できない。

けど、すぐに分かった。



廊下を曲がって現れたのは龍空と白鳥妻だ。

白鳥の侍女もいる。



「あ!旦那様、奥様!この鹿です!浴室を掃除していた侍女は!」


白鳥の侍女がリリーに気付いて指差したので、先ほど浴室に来たのはこの白鳥侍女だったようだ。



「な、なんでございましょう?

私は浴室でペンダントは見ておりません。」



リリーは弁解を始めたけど、


「スカートの右ポケットだ。妻の匂いがする。」


龍空がリリーを指差した。


驚くべきことにペンダントの匂いが分かるらしい。



「え?これは廊下で拾っ・・・」


リリーは言い終わる前に首が胴体から離れた。

龍空が長い爪で切り裂いたのだ。



スミレは理解が追い付かずにその場で棒立ちになってしまった。


白鳥の侍女が怯えた顔で倒れたリリーの死体に近づき、スカートのポケットからペンダントを取り出した。


白鳥の侍女はそれを妻に届けたが、白鳥妻はペンダントを受けとるなり、白鳥侍女の顔を殴り付けた。


「ぎゃあ!」



「役立たずが!この無能も始末してちょうだい。」



白鳥妻は恐ろしいことを言う。


龍空は無表情で白鳥侍女の首も切り裂いてしまった。



スミレは恐怖で動けない。

死体のそばで腰をぬかしてしまった。



「もういいかい?妻よ、客間に戻ろうか。」


龍空はスミレのことは見逃してくれるようだ。

なのに、


「・・・まだよ。そっちのチビも始末して」


白鳥妻はスミレをチラリと見て恐ろしいことを言い出した。



「わ、私は盗んでません!」



スミレは声を絞り出した。

恐怖で身体は動かないし、雄竜から逃げられるわけもない。



「そのチビは嘘をついてないよ。」


龍空は分かってくれたらしい。

なのに、



「聞こえなかった?始末して。」


白鳥妻はスミレに何の恨みがあるのだろうか!?



「妻の頼みでも、悪さをしてない使用人は勝手に処分できない。本家の使用人は族長の持ち物だ。」


龍空は渋る。


「何!?あなたまで人族びいき?」


この白鳥は知能が低いのだろうか?

龍空はそんなこと一言も言ってないのに。



「種族は関係ないよ。このチビは混血獣人みたいだし。

それとも君が族長に言い訳してくれるのかい?

龍希は妻相手でも容赦ないよ。」


龍空の問いかけに白鳥妻は顔を歪めた。


族長の龍希を恐れぬ妻などいない。



なのに、白鳥妻はまだスミレを怖い顔で睨んでいる。

なんで!?



「え?くさ。

あら?蜻蛉亭の奥様、こんなところでどうされたの?」


スミレの背後から女の声がした。



「あ、朝顔亭の奥様!?」


白鳥妻は驚いている。

スミレも驚いた。


やって来たのは朝顔亭の人族妻だ。

名前は確かユリだった。

何年か前に若様と一緒にスミレを保護してくれた女性だ。



「ペンダントを盗んだ使用人の始末を夫に頼んでおりましたの。

朝顔亭の奥様はどうしてこちらに?」


白鳥妻はスミレから視線を外して作り笑顔で答えている。



「え?盗み?この子が?」


ユリは驚いた顔でスミレを見てきたので、スミレは首を横にふった。



「・・・私はリュウカの部屋にお邪魔した帰りですの。この子は盗みとは無関係ですの?」


ユリはそう言いながら白鳥妻とスミレの間に立った。まるでスミレを庇うかのように。



「盗みを働いた鹿と一緒に居ましたの。」



「一緒に居ただけで無関係ですのね。

よかったわ~この子は何年か前に私と族長の若様が保護した子なの。不始末があったら族長の若様に報告しなきゃいけないわ。」



「・・・そうでしたか。立ち話ははしたないですわね。奥様はまた改めてお会いしましょう。」


白鳥妻は大人しく帰って行った。

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