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第6話 楽器(上)

  数週間後。


  小林陽は久しぶりに京極真と一緒に家へ帰った。


  道中、京極真はまだご機嫌な小林陽を見て、幼稚園、小学校、中学校と小林陽が何もすることなく過ごしていた姿を思い出した。


  だが、実は何もすることないと言い切るわけでもなかった。


  主に小林陽はやるべきことを全部ちゃんとやり遂げていたからだ。


  そして、大半の時間はぼんやりと過ごしていた。


  「あら、部活では結構楽しく過ごしてるみたいだな。」


  「もちろんだよ。」


  小林陽は答えた。


  何しろこの数週間、ゲームをしたり、おしゃべりをしたり、漫画や小説を読んだりして過ごしてきたからだ。


  さらに、毎日部室に着くと必ず最新のお菓子、飲み物、それにゲームや小説などがそろっていて、もう最高だった。


  本当に金持ちのお坊ちゃん、夜限に感謝しなきゃいけない。


  だが京極真は、小林陽たちが完全にゲームに没頭していることなど知らなかった。


  そして、これが音楽活動をするはずのロック部だということも、他の人たちは恐らくすっかり忘れてしまっていた。


  生徒会役員としての京極真は、小林陽のこの様子を見て、本当に部活が好きなのだと思い込み、情報を漏らすように言った。


  「そういえば、4 月末に各部活の活動状況の点検があるんだ。」


  「部活が正常に行われているか確認するんだよ。」


  「しかも先生が担当するんだぜ。」


  「はっ!?」


  小林陽は呆然とした。


  その後、京極真は続けて言った。


  「ちょっとは気をつけろ。先生が来た時に、ちゃんと部活を行えば大丈夫だ。」


  「そうでないと、数日間部活禁止の反省処分になるかもしれない。」


  「悪質な場合には、部廃止になる可能性もあるんだ。」


  小林陽はこれを聞いて、この数週間の部室がまったく音楽の練習をする場所とは思えず、まるでゲーム部の部室のようだったことを思い出した。


  しかも、ロック部の部室には今、楽器を置くスペースすら十分にないらしい。


  小林陽は真剣な表情になって答えた。


  「絶対に気をつけるよ。」


  これを見て、京極真はまだ何か言おうとしたが、目が通りがかった新しくオープンしたケーキ屋に漂い、突然目を輝かせた。


  小林陽はこの様子を見て何が起こるかわかり、笑って言った。


  「情報を教えてくれたお礼に、おごるよ。」


  「誠にありがとう。」


  二人はそのまま店内に入った。


  


  


  


  


  ロック部の活動室の外。


  「夜限、お前はなんであの時マクドナルドに一人でいたんだ?しかも何も注文しないで。」


  「蒼、神様である俺がそうなったのは、たぶんこの世界に来たばかりだからだよ。」


  小林陽は部屋の中から聞こえる二人のおしゃべりを聞き、中二病なセリフは聞き流しながら、夜限が何も注文しなかったのは、たぶんマクドナルドに着いたばかりだったからだろうと心の中で推測した。


  そして小林陽はそのまま扉を開けて中に入ると、みんながパソコンの前に座っているのを見た。


  響合は小林陽が来たのを見ると、すぐに叫んだ。


  「陽ちゃん、お前だけが来てないぞ!早くログインしろ、今回は昇格戦だ!」


  普通なら小林陽はすぐに応じるところだったが、今は大事なことを発表しなければならないので、そんなことは忘れていなかった。


  そこで響合の隣まで歩いていき、みんなに真剣な表情で言った。


  「今は手元のゲームと漫画を置いてくれ。話し合うことがあるんだ。」


  夜限と鈴木蒼は素直に手元の漫画を置いた。


  響合も小林陽のあまりに真剣な表情を見て、パソコンの画面に表示されていたゲームの待機画面を閉じた。


  みんなは夜限が用意してくれたもう一つの大きなテーブルの方へ移動し、座った。


  小林陽は、少し散らかったボードゲームや様々なカードが置かれたこの大きなテーブルを見て、指をさして言った。


  「このテーブルは、もうここに置いておけないんだ。」


  「え、なんで!?」


  響合が叫んだ。


  鈴木蒼も当然のように疑問に思って言った。


  「何かあったのか?」


  夜限も尋ねた。


  「問題を起こしてる奴を、神の力で消し去ってやろうか?」


  小林陽はみんなの様子を見て、思わずツッコんだ。


  「楽器をここに置くためだろ?」


  「俺たちはロック部だぞ?音楽をやる部活なんだよ。みんな忘れちゃったのか?」


  三人は顔を見合わせてぽかんとした。


  どうやらすっかり忘れていたらしい。


  だが響合はそれを聞いて、すぐに反応して言った。


  「で、それがどうした?」


  「信頼できる情報筋によると、4 月末に部活の活動状況点検があるんだ。」


  「俺たちはロック部だから、当然音楽の練習をしなきゃいけない。だから楽器が必要なんだ。」


  「だから、楽器を置く場所を確保しなきゃならないんだよ。」


  鈴木蒼は小林陽の言葉を聞いて、納得した様子で言った。


  「なるほど。確かこの学校には、毎年部活の活動状況を点検する規定があったな。」


  小林陽はさらに補足した。


  「しかも先生が来るんだぜ。」


  夜限は事情を理解して言った。


  「そんなの簡単だよ。心配する必要なんてない。」


  「明日楽器を運んできて、ここに置けばいいだけだから。」


  小林陽は大いに同意した。


  「確かにそうだな。」


  「じゃあ話し合いは終わりだ。」


  「ゲームをしに行こう。」


  みんなは頷くと、立ち上がってパソコンの方へ向かおうとした。


  だが鈴木蒼は何か違和感を覚えて振り返ると、響合がまだぽかんと座ったままだった。


  小林陽と夜限も振り返って、怪訝そうに響合を見た。


  すると逆に響合が真剣な表情になって言った。


  「会議は終わってない。」


  三人は顔を見合わせると、再び座り直した。


  鈴木蒼は幼馴染の響合を見て、疑問そうに尋ねた。


  「お前、また何をたくらんでるんだ?」


  響合は申し訳なさそうに言った。


  「みんな、すまない。俺、楽器を持ってないんだ。」


  ???


  「高校に入る前に、ゲーム部に入ると思ってたから、ドラムはもう使わないだろうと思って、新春に売っちゃったんだ。」


  「え、なんでだよ?あの中古のドラム、ずっとお前と一緒だったじゃん。」


  鈴木蒼の問いかけに、響合は誇らしげに叫んだ。


  「そりゃあ新しく出たゲームが何本かあって、限定版のフィギュアもあったから、絶対に手に入れなきゃいけなかっただろ!」


  「本当にバカだな!」


  「いてて~」


  響合は久しぶりに鈴木蒼に頭に手刀を食らわせ、痛がって叫んだ。


  小林陽はこれを聞いて、案の定ツッコんだ。


  「響合に対する俺の認識通りだよ。」


  「話し合いを持ちかける前から、一番心配だったのはこいつだったんだ。」


  この状況を見て、お坊ちゃんらしく夜限が当然のように言った。


  「じゃあ新しく買えばいいだけだよ。」


  「全然心配する必要ないじゃん。」


  鈴木蒼はそれを聞いて、ほっとした様子で言った。


  「確かにそうだな。じゃあ問題ないな。」


  「響合、新しいのを買えばいいんだ。」


  小林陽は補足した。


  「明日はちょうど週末だ。俺たちがついていって見てやるよ。」


  すると響合はまた申し訳なさそうに、頭を机につけて言った。


  「みんな、本当にすまない。俺の小遣いはほとんど底をついちゃったんだ。」


  ???


  鈴木蒼が叫んだ。


  「お前はロック部の部長だろ!何をやってるんだよ!」


  「いてて~」


  今度は響合は腹に鈴木蒼の肘を食らった。


  小林陽はそれを見て、仕方なく言った。


  「そうなると、4 月末ってのは、実質来週のことだよな。」


  「楽器を用意できずに部活ができないと、最悪の場合、部が廃止になる可能性があるらしいぜ。」


  響合はこの極めて深刻な知らせを聞くと、頭を上げてみんなを見つめ、急に真剣で断固とした表情で言った。


  「こんなこと、絶対に許さない!」


  夜限はその様子を見て言った。


  「俺が一台あげてもいいよ。大したことじゃないんだから。」


  「本当に?」


  「本物だよ!」


  「それは本当にありがたい......」


  響合が言い終わらないうちに、また鈴木蒼に頭に手刀を食らわされた。


  鈴木蒼は響合のことをよく知っていたから、彼の様子を見て続けて言った。


  「お前、きっと何か解決策を持ってるだろ?まだ慌てた様子が全然見えないじゃん。」


  「あらあ、その通りだよ。」


  響合は頭を撫でながら言った。


  「隠しても仕方ないから言うけど、元々大会にエントリーしようと思ってたんだ。」


  「どうやったらみんなが嫌でも参加してくれるかなって考えてたところだったよ。」


  「そこにちょうど楽器の問題が来たんだ。」


  「まさに渡りに船だぜ!」


  小林陽は響合の悪戯っぽい笑顔を見て、推測して言った。


  「まさかゲームの大会とか?」


  「正解!当たったけど、賞品はないよ。」


  隣の夜限は興奮して、尋ねた。


  「どんなゲーム?まさか俺たちがやってる、5 対 5のカウンターストライクみたいなシューティングゲーム?」


  響合は説明して言った。


  「その通り。」


  「元々はそうだったんだ。だって大会は5 月初めから始まるからね。」


  鈴木蒼は不安になって言った。


  「だけど部活の点検は4 月末だぞ。」


  「間に合わないだろ。」


  余裕ぶった響合の様子を見て、小林陽はツッコんだ。


  「だからBプランがあるんだろ?」


  「正解!」


  響合はさっき夜限が渡してくれたオレンジジュースを一口飲んで言った。


  「ちょうど週末にもう一つ、民間のゲーム大会があるんだ。」


  「やるのは『PUBG』っていう百人サバイバルゲームだぜ。」


  「しかも日曜日だよ。」


  鈴木蒼はゲーム名と開催日を聞いて、ほっとした様子で言った。


  「それなら大丈夫だ。俺もやったことあるから、足を引っ張ったりしないよ。」


  小林陽は軽度のゲーム好きとして当然やったことがあった。


  そして、笑いながらパソコンの方へ歩いていく夜限の姿を何気なく見て、響合に尋ねた。


  「時間はちょっとギリギリだけど、賞金はいくらなんだ?」


  響合は大笑いして、4 本の指を立てて言った。


  「40 万円だ!しかも楽器の商品券だぜ!」


  「え、そんなに?」


  驚いた鈴木蒼が尋ねた。


  「それは何位までもらえるんだ?」


  響合は白い目で見て言った。


  「当然 1 位だろ!」


  「え!1 位なんて取れるのかよ!」


  鈴木蒼の不安に対し、響合は彼の肩を叩いて言った。


  「安心しろ。」


  「俺たちが出れば、他の参加者にとっては次元の違う戦いだぜ!」


  「それに俺みたいなトップクラスのゲーマーがいるんだ。」


  「1 位なんて朝飯前だよ!」


  小林陽はツッコんだ。


  「どっちかというと、三人の上手い奴が一人の初心者を引っ張ってる感じだよな。」


  響合はそれを聞いて、すぐに不服そうに言った。


  「おいおいおい、俺がどれだけ......」


  「はいはい、もういいよ。」


  その声を聞いて、みんなは振り返った。


  夜限がとっくにパソコンの前で手を振って言っていた。


  「ゲームのダウンロードは終わってるよ。一緒に練習しよう!」


  「こういうタイプのゲームはまだやったことないんだ。」


  響合はそれを見て急いで駆け寄り、興奮して言った。


  「ありがとう!絶対優勝するぜ!」


  鈴木蒼は、待ちきれないほど興奮している響合を呆れたように見ると、小林陽の方をちらっと見てついてくるように合図し、肩を竦めて歩いていった。


  小林陽も歩いていきながら、同じように興奮して座り込んだ夜限を見て、心の中でつぶやいた。


  「優勝か。」


  「あいつがいるなら、確かにあり得るかもしれない。」


  


  


  


  


  


  土曜日。


  小林陽は向かいの通りにいる三人を見つけると、手を振って合図した。


  だが三人は逆に怪しんでいたので、小林陽は仕方なく向かい側まで歩いていき、ツッコんだ。


  「楽器を見に行くんだろ?俺の方で待ち合わせるはずだったじゃん。」


  そして疑問に思って言った。


  「まさか先に大会会場を見に行くのか?」


  「えっ!?」


  響合が叫んだ。


  「そうだったのか!確かに先に楽器を見ておかなきゃな。だって40 万円の賞金でどのドラムを買うか、悩みどころだからな。」


  鈴木蒼は呆れたように響合を見て言った。


  「俺はお前が大会会場を先に見て、場所を確認してくると思ってたぜ。」


  「そうでないと、大会の進行に遅れたら大変だからな。」


  響合はそれを聞いて、逆に笑って言った。


  「違うよ。俺がお前たちを呼んだのは、新しくオープンしたゲームセンターに遊びに行くためだぜ。」


  「大会のことは当日になってから確認すればいいだろ。」


  何も考えてないような響合の表情を見て、小林陽と鈴木蒼は同時に顔を覆った。


  一方、夜限は何か考えているようだった。


  言おうとしたことはあったが、結局は向かいの通りを指さして言った。


  「じゃあ俺たちは今から向かい側に行くのか?」


  言うまでもなく、そうだ。


  「はあ、また少し余計に歩かなきゃいけないのか。」


  小林陽はため息をつくと、みんなと一緒に向かいの通りへ歩いていった。


  大会もまだ始まってないのに、もう優勝を決め込んでいるこの四人。


  もし誰かが知ったら、ただの夢想家だと思うだろうな。


  


  


  


  ゲーム大会のスポンサーである楽器ブランドの店の前に着くと、四人は足を踏み入れた。


  目移りするほど並んだ様々な楽器を見て、鈴木蒼は思わず感嘆して言った。


  「そういえば、俺たちがロック部として、まともに関連する部活をするのはこれが初めてだな。」


  「あらあ、何言ってんだよ。俺たちはずっと関連する部活をやってるじゃん。」


  響合の言葉に、小林陽は無情にツッコんだ。


  「ゲームのキル音も音楽だって言うなら、確かにそうだけどな。」


  夜限はみんなの様子を見てにこにこしながら、提案して言った。


  「一緒に響合が必要な楽器を見に行こうよ。どれを買うか、みんなで決めようじゃないか。」


  みんなは頷くと、ドラムコーナーへと向かった。


  ......


  ドラムコーナーは半透明のガラスで囲まれており、黒いジャズドラムと赤いロックドラムが整然と並んでいた。


  暖黄色のライトがドラムセットに照らされ、ドラムヘッドはマットな光沢を放ち、シンバルの縁は銀色に輝き、ドラムスティックは箱の中にきれいに収められていた。


  響合はそれらを見つめ、空気に漂う新しい革と金属の匂いを吸い込むと、心の中にいつもと違う感覚が湧き上がって言った。


  「みんな、ドラムを手に入れたら、すぐにバンドを組んでライブをやろうぜ!」


  ちょうど40 万円のセットになっているYAMAHA DTX8K-Xのドラムがあったので、響合の音楽への情熱がかき立てられたのは明らかだった。


  鈴木蒼はそれを見て言った。


  「そう言われても、結局埃をかぶる気しかしないんだが。」


  ドラムのことを少し知っていた小林陽は、傍でツッコんで言った。


  「お前、普段の手入れがあまりいらないドラムを買うべきじゃないのか?」


  「あらあ、そう言われれば、確かにそうだな。」


  響合はまだ心惹かれている様子だったが、言葉を変えて言った。


  「でももう決めた。みんなの楽器を見に行こう。」


  この言葉を聞いて、鈴木蒼だけが少し意外そうな表情を浮かべた。


  幼い頃からずっと一緒だった響合のことを知っている彼からすれば、どう考えてもドラムコーナーでもっと長く見て回るはずだったからだ。


  だが、様々な楽器やスピーカーを見つめる夜限の表情に目をやると、鈴木蒼は納得した。


  どう見ても、楽器の初心者が初めてこういう楽器店に入った時のような、好奇心に満ちた目だったからだ。


  一方、隣にいた小林陽は、いつも通りの何とも思わないような表情だった。


  夜限は響合の言葉を聞いて、興奮して言った。


  「それなら全部の楽器コーナーを回ろうよ!そういえば、こういうところに来るのは初めてなんだ。」


  みんなは夜限の発言を聞いて、心の中で同じことを思った。


  「じゃあ普段はどんな楽器屋に行ってるんだよ!」


  この楽器店は実は中小規模で、それほど大きくはない。


  みんなが夜限をお金持ちの御曹司だと思っている以上、こんな質素なところに来るのが初めてだというのも、不思議ではなかった。


  夜限の言葉を聞いて、小林陽は言った。


  「じゃあまずシンセサイザーとキーボードのコーナーに行こう。」


  鈴木蒼と響合は当然のように同意した。


  これは夜限のことを気遣ってのことだとわかっていたからだ。


  そしてみんなはそちらへ向かった。


  鍵盤楽器コーナーをぶらぶらした後、ベースコーナー、ギターコーナー、そして各種スピーカーやアクセサリー、エフェクターなどの場所を全部回った。


  途中、こんな言葉が飛び交った。


  「わあ、全部初めて見るものばっかりだ!」


  「このベースエフェクターのブランド、新製品出してたんだ。」


  「そういえば、ギター弦を何パックか買って帰ろうかな。」


  ......


  こんなやり取りをしながら、四人は楽器店を出ると、午後の日差しを浴びて、響合が言った。


  「TD-1DMKの7 万円のドラムでいいや。」


  「だって大会の賞金はみんなのものだからな!」


  みんなはそれを聞いて少し意外そうだった。


  その後、小林陽が笑って言った。


  「どっちかというと、40 万円の楽器を買って中古で売り払って、それから並の値段のドラムを買った方がいいんじゃないか?」


  鈴木蒼が補足した。


  「そして余った分は部費にして、みんなで使えばいい。」


  響合は彼らを見て嬉しそうに笑って言った。


  「お前たち、本当に......」


  「じゃあやっぱり40 万円のフルセットのドラムを買うぜ!」


  「いてて~」


  「成長したと思ったのに。」


  鈴木蒼に軽く頭に手刀を食らわせた響合は、そう言われて頭を撫でていた。


  この光景を見て、夜限も笑って言った。


  「じゃあ俺たちは今からどこに行くの?」


  我に返った響合はすぐに言った。


  「決まってるだろ、新しくオープンしたゲームセンターだぜ!」


  夜限は興奮して言った。


  「行こう!ちょうど俺も行ったことない場所だ!」


  言いかけた鈴木蒼は言葉を飲み込んだ。それに気づいた小林陽は鈴木蒼の考えを察して、言った。


  「大会会場を見に行かなくていいのか?」


  響合は言った。


  「大丈夫だよ。あそこはよく行くから、もう完璧に把握してる。心配するな!」


  響合の言葉を聞いて、鈴木蒼はほっとした様子だった。


  小林陽も答えた。


  「それならいい。じゃあゲームセンターに行こう。」


  その後、みんなは新しくオープンしたゲームセンターへと向かった。


  


  


  


  ゲームセンターに、四人は足を踏み入れた。


  小林陽は疑問に思って尋ねた。


  「そういえば、お前はどうしていつも新しくオープンしたゲームセンターのことを知ってるんだ?」


  響合はにやにや笑って言った。


  「俺の情報網を甘く見るなよ!」


  「ゲームに関する最新情報なら、俺が一番最初に知るんだから。」


  「そうか~」


  と小林陽が答えると、隣の鈴木蒼がツッコミ役になって言った。


  「たいていの場合、彼の情報はあてにならないんだ。ゲームの大会で、場所を間違えたり、開催日を勘違いしたりしたこともあるぞ。」


  「あらあ、そんなことないじゃん!ネットの奴らが勝手に嘘の情報を流すからだよ。マジでゲームフォーラムの害悪だぜ。」


  響合の言い逃れを聞いて、小林陽はひどい目に遭ってきたような鈴木蒼の表情を見て、鈴木蒼と一緒に呆れて頷いた。


  ゲームセンターの受付から声が聞こえた。


  「両替できました。」


  そして三人は、夜限が受付で両替してきたゲームコインを受け取った。


  「あっ!」


  響合が驚いて声を上げた。手に持ったかごいっぱいのコインを見て、隣の二人も同じようにかごいっぱい持っているのを確認した。


  「足りないのか?じゃあまた受付で両替してくるよ。」


  夜限の言葉を聞いて、三人は同時に勢いよく頭を振って拒否した。


  「いらない、いらない、本当にいらない!」


  三人は顔を見合わせると、頭を寄せ合ってしょうがなさそうに囁いた。


  「あいつがお坊ちゃんだってのを忘れてた。生活常識が普通の人と違うんだよ!」


  夜限がお坊ちゃんでも、みんなは割り勘でやると決めていた。


  小林陽は手に持ったかごいっぱいのコインを見てため息をついた。


  「帰りにギター弦を買おうと思ってたのに、もう無理だな。」


  一方の響合は、気にせずみんなに興奮して言った。


  「よしよし、思いっきり遊ぼうぜ!」


  響合は真っ先に音ゲーの方へ走っていった。


  夜限もそれに続きながら、呟いた。


  「こういうところに来るのも久しぶりだな。」


  そして振り返って、ぼんやりしている鈴木蒼と小林陽に手を振ってついてくるように合図した。


  二人は顔を見合わせると、後を追いかけた。


  


  


  


  


  夕暮れ時。


  「あらあ、つい取りすぎちゃった。」


  三人は、夜限の手に持たれた、腰の高さまで積み上げられた何袋ものぬいぐるみを見て、あっけにとられた。


  「家に持って帰るのもちょっとな。どうしようか、みんな。」


  みんなが動かないのを見て、夜限は疑問そうに言った。


  「何かいい案ない?このまま持ってると歩きにくいし。」


  一番先に我に返った小林陽は、隣のまだ閉まっていない店を指さして提案した。


  「隣のリサイクルショップに持っていって、引き取ってもらえばいいよ。」


  鈴木蒼は合点がいった様子で言った。


  「だから夜限がさっき、ビニール袋や手提げ袋をくれるところがあるか聞いてたんだな。」


  そして心の中で思った。


  ゲームセンターなら普通にあるし、店員に頼めばいいのに。


  夜限が景品でも買って、恥ずかしくて頼めないのかと思ってたのに……


  一方の響合は、それを見て憧れの眼差しを浮かべると、すぐに夜限の太ももにしがみついて言った。


  「お願いだ!絶対に俺を弟子にしてくれ、師匠!」


  「え?」


  「いてて~」


  響合はまた頭に手刀を食らわされると、鈴木蒼が言った。


  「そうなら、リサイクルショップに行って、このぬいぐるみを全部引き取ってもらおう。」


  「うん~」


  夜限は答えると、持っているたくさんのぬいぐるみの袋を少し持ち上げて、続けて言った。


  「この中に好きなぬいぐるみがあったら持っていっていいよ。全部リサイクルに出しちゃったら、今日の楽しい思い出の記念にもならないし。」


  夜限の言葉を聞いて、三人は顔を見合わせて笑い、言った。


  「夜限、ありがとう~~~」


  そして三人はお互いに夜限のぬいぐるみを持ち合って、一緒にリサイクルショップの中へ入っていった。


  


  


  


  しばらくして。


  デザートショップの前。


  小林陽はアイスクリームを食べながら、遊びに来たのに余った手元のお金を見下ろし、心の中でつぶやいた。


  「帰りにギター弦を買えるかもしれない。」


  声が響いた。


  「ねえ、みんなこっち向いて!」


  今度は逆に鈴木蒼がカメラを持って後ろの三人に合図して言った。


  「手に持ってるぬいぐるみを持って、みんなで写真を撮ろう!」


  みんなが頷くと、響合は手に持ったモジャモジャの子ライオンのぬいぐるみを高く掲げて言った。


  「どうしてカメラなんか持ってきたんだよ、蒼。普段のお前じゃないじゃん。」


  夜限はドット絵風の雲のぬいぐるみを持って、にっこり笑いながら推測した。


  「今日はいいことがあるってわかってたんだろうね?」


  鈴木蒼は黒い猫のぬいぐるみを肩に乗せると、カメラをみんなと自分に向けて構え、ただ言った。


  「準備はいいか?撮るぞ。」


  小林陽はお金をズボンのポケットにしまうと、だらんと寝そべったガチョウのぬいぐるみを頭に乗せて笑った。


  「準備オッケー。」


  鈴木蒼は笑って答えた。


  「よし。」


  夕暮れの黄金色の陽射しが降り注ぐ中、そよ風が四つのふわふわの綿のぬいぐるみをそっとなでた。


  まるで心が宿ったかのように、レンズの前でそれぞれの柔らかな笑顔を浮かべているように見えた。


  「さん、に、いち~」


  響合が突然横槍を入れて笑った。


  「今日は何を遊んだんだ!」


  みんなは顔を見合わせてくすくす笑い、声を揃えて叫んだ。


  「ゲーム!!!!」


  


  「カシャッ」


  シャッター音が乾いて響き、一瞬の光景が写真に永久に刻まれた。

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