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第5話 ロック部(終)

  チャイムが鳴り響く。


  長久夜限は机の上を片付けると、音楽教室へと向かいながら、ぶつぶつと独り言をこぼしていた。


  「やっぱりどの世界に行っても、教育も授業も全部同じなんだな......」


  「つまんねえ!」


  言い終わるか終わらないかのうちに、背後から声がかかった。


  「夜限、さっき何をぶつぶつ言ってたの?」


  長久夜限が振り返ると、そこには小林陽が立っていた。


  小林陽がすぐそばまで歩いてくると、長久夜限は自然な調子で口を開いた。


  「もちろん授業のことだよ。どの授業も似たり寄ったりで、まったく面白みがないんだ。」


  「つまらないの?」


  小林陽が怪訝そうに問うと、長久夜限は頷いて答えた。


  「そうだよ。」


  さっきの数学の授業のことを思い出して、小林陽は提案するように言った。


  「道理でつまらないと思うわけだ。まあ、授業中に何か暇つぶしを見つけてもいいんだぜ。俺はだいたい、つまらない授業のときは寝るか、小説を読んでるよ。」


  「え?」


  長久夜限は少し意外そうな表情を浮かべた。


  というのも、小林陽がそんなことをするタイプには見えなかったからだ。


  彼は続けて言った。


  「そんなことしてもいいのか?正直、こんなことするのは響合くんくらいだと思ってたよ。」


  確かにな、と思い当たった小林陽は、補足するように続けた。


  「いや、これには前提があるんだ。授業の内容を全部理解して覚えちゃってるなら、別にこうしてもいいって話だよ。」


  「そうなのか。じゃあわかった。」


  長久夜限が真剣に考え込み、納得したような表情を見て、小林陽はふと不安になった。


  そういえば長久夜限の成績がどうなのか、まだ知らなかったのだ。


  一応念のため、口を開いた。


  「あの、まさか本気にしちゃってないよね?さっきのは冗談だから、マジにしないでくれ。」


  「大丈夫、わかってるよ。だって俺は神様だからね。」


  長久夜限は誇らしげにそう言った。


  それを見た小林陽は、急いでフォローするように言い足した。


  「たまにどうでもいい授業の内容のときは、まあ、本当に寝ても別に大丈夫だよ。先生に見つからなければの話だけど。」


  そして小林陽は、長久夜限の中二病の思考に合わせるように、照れくささをこらえて言った。


  「だけど、あんまりやりすぎない方がいいと個人的には思うよ。だって神様だって、授業のルールはちゃんと守らなきゃいけないでしょ?」


  それを聞いた長久夜限は、何かを閃いたようににっこり笑って答えた。


  「わかった。」


  ......


  二人はこのようにおしゃべりしながら、音楽室、つまりロック部の活動室まで歩いてきた。


  扉を開けると。


  机の上には幾つか飲み物が置かれており、隣の本棚には漫画や小説が並んでいた。


  響合は机の上でノートパソコンのゲームをしており、その隣の鈴木蒼は文芸書をめくっていた。


  長久夜限の目に飛び込んできたのはこの光景で、そして彼は小林陽を一目見て、目に疑問の色を浮かべた。


  響合と鈴木蒼は物音に気づき、振り返って二人の到着に気づいた。


  響合は一気に長久夜限のそばに駆け寄って言った。


  「ロック部へようこそ!」


  小林陽は傍で説明しながらツッコんで言った。


  「実はゲーム部の方が正しいんだよ。」


  長久夜限は口を開いて言った。


  「これは俺の想像していたのとちょっと違うな。」


  鈴木蒼は響合を一目見て言った。


  「このバカが君に言ってなかったのか?俺たちの部活の内容は実はゲームなんだよ。」


  すると響合は殴られるのを恐れたらしく、すぐに長久夜限をノートパソコンの前に押し出して言った。


  「あらあ、そんなことないじゃん。」


  「俺たちは音楽の練習が終わって、今はリラックスタイムなだけだぜ。」


  小林陽がツッコんだ。


  「そんな言い方はどこから来たんだ?音楽の練習なんて一度もしてないんだろ?」


  小林陽はツッコみながら周りを見回した。


  音楽室には楽器が一つもなく、彼が初日に持ってきたギターさえ、ロック部としての音楽活動をする人が誰もいないことに気づいた後、持ってくるのをやめてしまった。


  もちろん、それは小林陽がみんなとゲームをしたり小説を読んだりしてだんだん夢中になってしまったせいでもあったけれど。


  鈴木蒼は少し不安そうに言った。


  「まさか退部しようと思ってるのか?」


  その言葉を聞いた響合は、慌てて叫んだ。


  「あらあ、だめだよ!」


  そして申し訳なさそうに続けた。


  「事前に言ってなかったのは本当にすまない。だけど、俺たちのリラックスタイムを試してみてくれよ。」


  長久夜限の太ももにしがみついて言った。


  「お願いだ、退部しないでくれ!!!」


  この見覚えのある光景を見て、小林陽は今更ゲームの時間を諦めたくなかった。


  家に帰ってゲームをしても弟の悠に文句を言われるのは嫌だったから、小林陽は傍で言った。


  「俺たちだって音楽の練習もできるんだ。君が......」


  だが言い終わらないうちに、長久夜限の視線はずっとあのパソコンから離れていなかった。


  画面にはさっき響合がプレイしていた5 対 5のシューティングゲームが映っており、キャラクターは今リスポーン地点にいた。


  長久夜限はすばやくパソコンを操作し、目をキラキラと輝かせて言った。


  「へえ、なんか面白そうだな。こういうタイプのゲームはやったことないんだ。」


  長久夜限が夢中になってゲームをプレイしているのを見て、三人は顔を見合わせ、心の中で同じことを思った。


  「まあ、説得する必要もなさそうだ。男がゲームを好きじゃないわけないだろ!」


  この光景を見て、みんなはほっと胸をなでおろした。


  響合もいつもの様子に戻り、立ち上がって長久夜限の操作を見ながら、先生ぶった口調で言った。


  「その操作は間違ってるぜ。マウスを動かして照準を敵の体に合わせるんだ。」


  一方、小林陽も様々なジャンルのゲームをやり込んでおり、シューティングゲームも得意だった。


  彼も傍に寄って、長久夜限のあまりにも初心者丸出しの操作を見ながら言った。


  「敵を見つけたら体を撃つんじゃなくて、頭を撃つんだ。しかも一発ずつ丁寧に。」


  「そうすれば、敵より早くキルできるぜ。」


  傍にいた鈴木蒼は、二人がアドバイスしたのを見て、当然のように一言付け加えた。


  「アイテムを上手く使えばいい。スモークグレネードやフラッシュバンみたいなのは、上手く使えば銃撃戦やポイントの攻防で優位に立てるぜ。」


  そして隣の響合に向かって言った。


  「それと、お前みたいなゲーム下手が、夜限にあれこれ指図するんじゃない。」


  響合はすぐに不服そうに言い返した。


  「何言ってんだよ!俺はシューティングゲームの天才だぜ!」


  みんなはそれを完全に無視したが、長久夜限だけはプレイしながら興奮した様子で言った。


  「こういうジャンルは全然やったことないんだ。ちょっと感覚を掴ませてくれ。」


  「だって神様が負けるわけないだろ!」


  みんなはその中二病っぽい発言を聞き流し、長久夜限の操作するキャラクターがまたやられるのを見て、顔を見合わせた。


  心の中で全員が同じことを思った。


  「この子、ゲームに関しては本当に初心者なんだな!」


  それから数局プレイした。


  長久夜限がまた敵を全滅させるのを見て、小林陽は気づいた。


  「やばい、やばい、こいつの上達スピード、ヤバすぎる!」


  さっきの言葉を撤回する。長久夜限のゲームの才能は半端じゃない。


  たった数局で、最初は何もわからない初心者だったのに、みんなが少しずつ教えているうちに、いつの間にかシューティングゲームの天才になっていた。


  あっという間にみんなを追い抜いていた。


  鈴木蒼は、その恐るべきアイテムの使い方で上げた戦果を見て言った。


  「夜限、すごいな。上達が早い。」


  人を見つけるとすぐヘッドショットでキルするその銃さばきを見て、小林陽はツッコんだ。


  「なんか、バカを演じて虎を食うって感じだな。」


  一方、隣の響合はにこにこしながら言った。


  「うん、なかなかやるじゃん。」


  ゲームが終わり、ノートパソコンの画面に大きく「勝利」の文字が表示され、5 体のキャラクターがリザルトアクションをする中、長久夜限がMVPを獲得した!


  思いっきり遊んで満足した長久夜限は、みんなを見て言った。


  「みんなでこのゲームやろうよ!すごく面白い!」


  だが三人は顔を見合わせた。ここにはパソコンが一台しかないからだ。


  鈴木蒼はそれを見て、本を一冊手に取って言った。


  「大丈夫だ、俺は本を読むから。」


  小林陽は漫画を手に取って言った。


  「俺は漫画を読むから、君が遊べばいいよ。」


  響合は携帯ゲーム機を手に取って言った。


  「俺はこれでいいや。」


  言い終わると、響合は補足した。


  「一人で遊んでていいんだよ。悪いと思わなくていい。このノートパソコンは毎日一人ずつ交代で使ってるんだ。だから今日は君の番だぜ。」


  それを聞いて、長久夜限は何かを理解したように頷き、笑って言った。


  「じゃあみんなで一緒に遊べばいいんだよ。プレイしてる人のキャラが死んだら、次の人に交代すれば。」


  「いいかな?」


  みんなは長久夜限のあまりにも純粋で優しい表情を見て、顔を見合わせた。


  心を動かされたように、声を揃えて言った。


  「いいよ!!!」


  響合は嬉しそうに言った。


  「これは君が言ったんだぞ。」


  鈴木蒼は悪戯っぽく笑って言った。


  「俺はなるべく早く次の人に交代させてやるよ。」


  シューティングゲームの腕前も悪くない小林陽も、当然のように悪戯っぽく笑って言った。


  「俺の番になったら、次の人に回せるといいな。」


  長久夜限は嬉しそうに頷いた。


  「うんうん、わかった。じゃあ俺から始めるね。」


  ......


  そして、部活の時間が終わる頃。


  日差しがこの音楽室にまばらに差し込み、ロック部からは本をめくる音も、携帯ゲーム機のボタンを叩く音も聞こえなくなっていた。


  ただ三人がぽかんと顔を見合わせ、最後に視線が集まったのは、夜限がパソコンを閉じ、扇風機の回転が止まった瞬間だった。


  長久夜限は申し訳なさそうな顔で言った。


  「あらあ、ごめんね。手を抜いたつもりだったんだけど、神様はどんなに手を抜いても、絶対に勝ってしまうんだよ!」


  三人はさっきの感動を思い出し、心の中で叫んだ。


  「こいつがゲームの天才だったのを忘れてた!」


  


  


  


  


  


  翌日。


  小林陽がロック部の活動室へ向かう途中、鈴木蒼と響合に出会った。


  「よう」と声をかけ合って挨拶を済ませると、三人はおしゃべりしながらロック部まで歩いてきた。


  扉を開けると。


  ロック部の光景が、一瞬にして三人の目に飛び込んできた。


  響合、鈴木蒼、小林陽――驚き、戸惑い、そして疑問。


  元々古びてがらんとしていた音楽室が、一気に目移りするほど賑やかになっていた。


  本棚の横には、ゲームソフトやトレーディングカード、ボードゲーム、ゲーム機などがたくさん追加されていた。


  反対側には真っ白な新品の本棚が一つ増えており、中には文芸書のシリーズや漫画の全巻セットなどがぎっしりと並んでいた。


  さらに大型の冷蔵庫まであり、冷蔵庫の横には棚が置かれて、その上にもありとあらゆる種類のお菓子が山積みになっていた。


  そして何より重要なのは、4つの机を合わせた大きなテーブルの上に、新品のパソコンが4 台も揃っていたことだった。


  昨日まで使っていた、少し古びたノートパソコンは、今や長久夜限の手に持たれていた。


  長久夜限は三人が来たのを見ると、響合に向かって疑問そうに尋ねた。


  「響合、これ、どこに置けばいい?」


  この光景を見て、響合の目はギラギラと輝いた。


  古びたノートパソコンなんて目に入らない様子で、周りの新しいものたちを見て興奮した様子で叫んだ。


  「わあ、こんなにたくさんのもの、どこから来たんだ!」


  すぐさま新しいゲーム機たちのところに駆け寄り、あれこれ触りながら答えた。


  「空いてるところならどこでも、適当に置いといてくれ!」


  鈴木蒼は、一冊のライトノベルに目を留めると、指をさして言った。


  「夜限だ。あの小説、昨日俺が彼に話したやつだ。まさか今日になって手に入るとは思わなかった。」


  小林陽は一歩下がって、ドアに書かれた「音楽室」の文字を確認し、道を間違えていないことを確かめた。


  そして一新された活動室を見て、普通の高校にこんな待遇はありえないと悟った。


  長久夜限は、どうやらお金持ちの御曹司らしい。


  小林陽は感謝の気持ちを込めて言った。


  「夜限、本当にありがとう。すごく手間をかけさせてしまったな。」


  他の二人も同じことに気づいたらしく、次々と口を開いた。


  「本当にありがとう。」


  すると長久夜限は言った。


  「え、そんなに感謝しなくていいよ。こんなもの、君たちが思ってるほど手間じゃないんだから。」


  「これらは全部異次元空間から運んできたんだ。だって俺は神様だって言っただろ!」


  「このくらい、朝飯前だよ~」


  三人は顔を見合わせて気まずく笑い、心の中で揺るぎない認識を抱いた。


  ――この子、中二病の御曹司に決まってる。


  小林陽はさらに心の中でツッコんだ。


  「ドラえもんの四次元ポケットかよ!あまりにも物が多すぎるだろ!」


  長久夜限はみんなが笑っているのを見ると、四台のパソコンを指さして笑いながら続けた。


  「さあ、みんなでゲームをやろう!」


  「おう!!!」


  三人は答えて席に着くと、長久夜限は冷蔵庫のところへ行って飲み物を取ってきた。


  オレンジジュースを二本、鈴木蒼と響合に一本ずつ渡し、コーラを一本小林陽に渡した。


  そして長久夜限は、ペットボトルの水を手に持った。


  それを見て、何かを思いついた響合はすぐにスマホを取り出し、冷えたオレンジジュースを高く掲げて言った。


  「ロック部の...」


  「あ、違う、ゲーム部の誕生を祝して。」


  「改めて、長久夜限の入部を祝して。」


  「みんなで乾杯!」


  小林陽はこの時、いつもとは違う気持ちになっていた。


  カメラの前で初めて心から笑顔を見せ、進んで写真に収まろうとした。


  「いち、に、さん——」


  ロック部のみんなが声を揃えて叫んだ。


  「乾杯!!!!」


  シャッター音が響き、一瞬の光景が写真に刻まれた。


  男子高校生たちの、ゲームと不思議がいっぱいの日常が、ここに幕を開けたのだった!

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