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第3話 ロック部(中)

  職員室。


  三人は目の前の若い教師を見つめた。机のネームプレートには、「星合ほしあい 洵星弦しゅんせいげん」の名前が記されていた。


  千島響合は真っ先に星合先生に声をかけた。


  「先生、こんにちは。私たちはロック部の設立を申請したいです。」


  先生は少し考え込んだ後、目の前の三人を見て言った。


  「君たちは新入生だね。申請自体は可能だけど、学校の決まりに従ってもらう必要があるよ。」


  「それに、部活を設立するには4 人必要なんだ。」


  星合先生は机の上の一枚の紙を手に取って言った。


  「あと、できるだけ来週中に手続きを済ませてほしい。そうでないと色々と手間がかかってしまうから。まずはこの部活申請書を持っていって。」


  千島響合は素直にこの部活申請書を受け取った。


  隣で小林陽は星合先生を見て、どこか見覚えがあると感じていた。


  なぜならこの先生は、さっき廊下でロック部の場所を教えてくれた先生だったからだ。


  そして星合先生も明らかに小林陽に気づいており、彼に向かって言った。


  「すみませんでしたね。私は新任の教師なのですが、前年度の生徒が卒業して、ロック部に入部する人が誰もいなくなって、廃部になっていたんです。」


  「だからちょうど、生徒の中からまたロック部の申請に来てくれる人がいるのではないかと思って、この申請書を事前に用意しておいたんですよ。」


  この言葉を聞き終わると、隣の千島響合と鈴木蒼は小林陽の方を見て、考え込むような表情を浮かべた。


  明らかに、小林陽が音楽室がロック部だという情報を聞いたのが、この星合先生だったとわかったのだ。


  小林陽は二人を無視し、丁寧に星合先生に言った。


  「ありがとうございます、先生。」


  そして小林陽は星合先生の机の上に積まれた、まだ整理されていない大量の書類を目にした。


  その大半は英語の書類だった。


  星合先生が忙しい最中だとわかった。新任の教師なのだから、やるべきことが山積みなのは当然だ。


  そこで小林陽は続けて言った。


  「では私たちはこれで失礼します。お忙しいところ邪魔しません。」


  星合先生は眼鏡を押し上げ、笑って言った。


  「うん、じゃあみんな、気をつけて帰ってね。」


  三人は先生に失礼して、部屋を出た。


  


  


  廊下。


  小林陽は言った。


  「お前たち、気づいたか?」


  千島響合は「わかったわかった」という表情を浮かべて言った。


  「ああ、星合先生、めちゃくちゃ若いよな!」


  鈴木蒼も同調して返した。


  「それに肌がすごく白くて女の子みたいだし、すごく優しい先生だよね。」


  はあ?と小林陽は呆れてツッコんだ。


  「お前たち、そこが注目点なのか?」


  「先生の机の上に、文献みたいな英語の書類が山積みになってるのに気づかなかったのか?」


  二人は疑問そうに小林陽を見て、千島響合が言った。


  「だから、それのどこがおかしいの?」


  確かに少しおかしいと言おうとした小林陽だったが、ふと気づいた。


  もしかしたら星合先生は英語の教員なのかもしれないし、英語の書類を見ているのは別に正常なことで、特におかしい点なんてないのだと。


  そこで彼は言った。


  「まあ、別にない。本題に入ろう。」


  千島響合はロック部の本題だと理解し、小林陽に尋ねた。


  「わかった。じゃあ、4 人目をどうやって見つける?」


  名目上の部長であるこいつが自分に聞いてくるのを見て、小林陽は頭の中でよくある部活の勧誘方法を考え、提案した。


  「宣伝ポスターを描いて、学校の募集用掲示板に貼ってみたらどうだ?ちょうど今日入学したばかりだし、今週中にこの件をやり終えればいい。」


  「きっと誰か入ってくれるはずだ。」


  この言葉を聞いた千島響合は、すでに部長然とした態度で言った。


  「うん、この提案はいいな。採用しよう。蒼、どう思う?」


  鈴木蒼も大いに賛同して言った。


  「異議なし。」


  そして千島響合はすっかり自分を部長だと思い込み、号令をかけるように言った。


  「ちょうどいい、じゃあ今夜家に帰ったら、それぞれ宣伝ポスターを一枚ずつ描いてこい。明日放課後に部室で話し合おう。」


  自分の提案がこのまま採用され、彼らからは一切別の案が出てこないのを見て、小林陽は思わずツッコんだ。


  「お前たち、4 人目のメンバーをどう募集するか、そもそも何も考えてなかったのか?」


  千島響合は気まずそうにコホコホと咳払いをした。


  隣の鈴木蒼も、その後わざとらしく窓の外の空を見てから口を開いた。


  「あらあら、もう結構な時間だな。帰ろうぜ。」


  この二人の様子を見て、小林陽はもう仕方なく流れに従うことにした。


  


  


  


  校門前。


  どうやら千島響合はこんなに早く帰りたくないらしく、小林陽に提案してきた。


  「なあ、一緒にゲームでもしに行かないか?仲を深めるためにさ。」


  「ゲームか......」


  小林陽はそうつぶやいた。確かに少し興味はあった。


  なにしろ外でゲームをするのは久しぶりで、普段は家に引きこもってばかりだったからだ。


  だが、前に京極真と帰り道で待ち合わせをしていたので、この誘いは断らなければならない。


  小林陽がどんな理由で断ろうか考えていたその時、ズボンのポケットのスマホが一回鳴った。


  彼はとっさに「ちょっと待って」と言った。


  そしてポケットからスマホを取り出し、メッセージを開くと、京極真からのものだった。


  メッセージには「すぐには終わらないから、先に帰ってて」と書かれていた。


  「あいつ、どうして俺の用事が終わったのを先に知ってるんだ?」


  心の中でそう思いながら、小林陽は京極真のことを知っているからこそ推測した。


  「たぶん、ロック部が廃部になってることを知ってるんだろうな。」


  そこで小林陽は仕方なくさっと文字を打ち込み、「OK」と返信を送った。


  そしてスマホをポケットに戻し、雑談している千島響合と鈴木蒼の合間に口を開いた。


  「わかった、ちょうど入学初日で俺も特にやることないし、行ってみても別にいいや。」


  心の中ではついでにこんな考えが浮かんでいた。


  「まあ、ロック部のメンバー同士の仲を深めることにもなるだろ。」


  「なにしろ千島響合のあの入部させようとする様子を見る限り、もう逃れられそうにないしな。」


  「それに、自分でいい高校生になるって言ったことは絶対に守らなきゃ。ちゃんと高校生活を楽しまなきゃ。」


  「まあ、楽しむってよりは、過ごすって言った方が正しいだろうけど。」


  向かいの千島響合は、新しくできた仲間のこの一言を聞いて、満面の笑みで言った。


  「じゃあ新しくオープンしたゲームセンターに行こうぜ!」


  言い終わると、小林陽と千島響合は一緒に歩き出した。


  だが、どうやら様子がおかしい。二人は足を止め、後ろに取り残された鈴木蒼の方を振り返った。


  小林陽は疑問に思い、隣にいる鈴木蒼の幼なじみである千島響合も明らかに同じく疑問に思っていた。


  その場に立ち止まったままの鈴木蒼が口を開いた。


  「俺、ゲームセンターに行くって言った覚えないんだが?」


  「は?ないの?最初から黙って了承してると思っただろ?」


  鈴木蒼は千島響合の言葉に返した。


  「それはお前が勝手にそう思い込んでただけだろ!」


  「どうせ俺は家に帰る。昨日新しく作った曲の練習をするから、お前の相手はしない。」


  この言葉を聞いて、千島響合は明らかに大いに不満そうな様子になった。


  そして千島響合は、さっき音楽室で小林陽の太ももにしがみついたのと全く同じように、これから帰ろうとする鈴木蒼の太ももにしがみつき、悲しそうに叫んだ。


  「蒼、行かないでくれ!お前がいなくなって、俺と陽だけになったら、どうすんだよ!お前それで我慢できるのか!?」


  この言葉を聞いて、隣にいる小林陽は心の中で猛烈にツッコんだ。


  「なんでこいつ俺の名前を出すんだよ、それに人にお願いするときいつも太ももにしがみつくのか、まったく耐えられないぞ!」


  鈴木蒼は、小林陽のように千島響合のこの手の態度に耐えられないなんてことはなかった。


  彼の幼なじみとして、鈴木蒼はこの性格を百も承知だった。


  そしてすぐさま言った。


  「離せ、俺は帰る。」


  「行かない!」


  「離せ!」


  「嫌だ!」


  「離せ!」


  「嫌だ!!!」


  言い合いが終わった後。


  鈴木蒼はそのまま千島響合の頭に手刀を食らわせようとした。


  だが、一髪の差でその手が振り下ろされる直前、千島響合は思い切って叫んだ。


  「ゲームセンターの代、俺がおごる!」


  鈴木蒼の手刀は、千島響合の頭まであと一寸のところで、ぴたりと止まった。


  鈴木蒼は普段の態度に戻り、笑って言った。


  「じゃあ、行こう。」


  鈴木蒼は千島響合を起こしてやり、二人で小林陽のところへ歩いてきた。


  千島響合はさっきの一件なんて全然気にしていない様子で、どうやらすっかり慣れているらしかった。


  そして小林陽ににっこり笑いかけて言った。


  「陽、行こうぜ。俺が道案内する。」


  このすっかり仲直りした二人を見ながら、小林陽は歩きつつぶつぶつとつぶやいた。


  「これからのロック部生活って、ずっとこんな感じなのか?」


  


  


  


  


  「ただいま。」


  小林陽は嬉しそうに言い、玄関で靴を脱いだ。


  弟の悠は最後のおかずを手に持ったまま、顔を覗かせて小林陽を見て言った。


  「お疲れさま。」


  後はもう、夕食を食べるだけのことだった。


  夕食の間は、無口で静まり返っていた。


  弟の悠は、小林陽が食事を終えるのを待っていたが、ついに聞いてきた。


  「こんなに帰りが遅い上に、ずっと笑ってるけど、何かいいことがあったの?」


  「ようやく我慢できなくなったか。」


  小林陽は笑って言った。


  「友達と遊びに行ってたから、遅くなったんだ。」


  「真くんと?」


  「違う。部活のメンバーだよ。」


  「え、部活!?」


  弟の悠は非常に驚いていた。まさか入学初日に兄が部活に入るとは、思ってもみなかったのだ。


  「早すぎるだろ。」


  まあ、悠の注目点は、小林陽が高校生活を充実させて「いい高校生になる」という目標の進みがあまりにも早く、まるで一足飛びに成し遂げたように見えたことにあったようだ。


  部活に入ったという事自体には、悠はあまり気にしていなかった。


  なにしろ兄がいずれ部活に入るだろうと、よくわかっていたからだ。


  だが、問題は入学初日だということだった。


  たいていの高校生が、入学初日に部活に入るなんてことはありえないだろう。


  何も詳しく知らない上に、部活の宣伝ポスターすら貼られていないのに、こんなことがあるわけがない。


  小林陽は立ち上がり、ただ笑って言った。


  「よし、そろそろ部活の課題をやらなきゃ。」


  言い終わると、小林陽は自分の部屋へと歩いていった。


  「何の部活?」


  「音楽系の部活だ。まあ軽音部みたいなものだけど、部活名はロック部っていうんだ。」


  小林陽は言い終わるとすぐに部屋のドアを閉めた。


  「ロック部、確かに兄に合ってるかもな」


  小林悠は食卓に一人残ってぶつぶつとつぶやいた。


  「だって兄、ギターの演奏すごく上手いんだもん」



  部屋に戻った小林陽は、全身がなんとなく心地よかった。


  もちろん、皿洗いという家事を弟の悠に丸投げしたからこんなに気分がいいわけではない。


  そうではなく、小林陽が人と一緒に二人で音ゲーをプレイし、二人とも最高難易度で最高ランク、パーフェクトスコアを達成したのだ。


  こんなことがあったら、気分が高揚しないわけがないだろう!


  この一件で小林陽は、ゲームが大好きな千島響合が、必ずしもゲームが上手いわけではないということを知った。


  彼はプレイ中に、大笑いさせられるようなドジを何度も踏んでいたのだ。


  逆に、あまりゲームを好んで遊んでいるように見えなかった鈴木蒼はゲームの達人で、しかも実力はほぼ小林陽と同レベルだった。


  「よし、じゃあポスターを描こう」


  今機嫌のいい小林陽は、なんとしてもロック部の新規勧誘をうまく進めなければならなかった。


  せっかくこんな悪くない感じのロック部が、なくなってしまうなんてあってはならないのだ。

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