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第2話 ロック部(上)

  チャイムが鳴り、授業が終わった。


  1 年 3 組の教室で、小林陽は机の上を片付け、数席離れた京極真のところへまっすぐ歩み寄って声をかけた。


  「真、俺と一緒にロック部を見学に行かないか?」


  「お前が部活に入ることを勧めてくれたじゃん。」


  京極真は笑って首を振って言った。


  「悪いけど、お前一人で行ってくれ。」


  「この後生徒会の会議に出席しなきゃいけないんだ。」


  「そうか、じゃあいいや。」


  小林陽は納得した。


  なにしろ京極真は優等生だし、この様子だと何か役職に立候補するつもりなのだろう。


  その後小林陽は鞄を手に取って教室の外へ向かいながら言った。


  「じゃあ、用事が済んだら帰り道で会おう。バイバイ。」


  京極真は言った。


  「ああ~」


  その後小林陽は廊下を歩きながら、窓の外のグラウンドを眺めた。


  そこには、ランニングやバスケットボール、サッカーといった課外活動に打ち込む、青春の熱気に満ちた男子生徒たちがいっぱいいた。


  小林陽はふと疑問に思ってつぶやいた。


  「まずい、ロック部がどこにあるのか知らなかった。真に聞き忘れちまった。」


  「めんどくさい。」


  小林陽は、このフロアの生徒は全員同じ学年の新入生ばかりだから、入学初日の今、ロック部の部室がどこにあるのか知っているはずがないとわかっていた。


  だが、京極真なら絶対に知っている。なにしろ彼はこの学校のことを詳しく調べ上げていたのだから。


  スマホで京極真に連絡してロック部の場所を聞くこともできたが、できるだけ他人に迷惑をかけたくはなかった。


  なにしろ入学初日だし、このために時間を割く必要もない。明日でもいいだろう。


  小林陽は考えた。


  「もう、家に帰ろうかな。」


  だが、小林陽のその願いは叶わなかった。なぜなら、彼の目の前を一人の教師が歩いてきたのだ。


  言うまでもなく、教師の大半は部室の場所を把握している。だから先生に尋ねれば、確実に答えが得られるに違いなかった。


  そこで小林陽は丁寧に教師に声をかけた。


  「先生、こんにちは。ロック部の部室がどこにあるかご存じですか?」


  その言葉を聞いた若い教師は、どこか思い出すような表情を浮かべて言った。


  「あら、ロック部ですか?」


  教師は目の前の小林陽が着ている制服とネクタイを見て、彼が新入生だと把握すると、続けて言った。


  「記憶に間違いがなければ、旧校舎の3 階にあります。正門から入って、本館の右手にある少し古びたレンガ色の建物ですよ。」


  「どうもありがとうございます。では失礼します、先生。」


  教師は頷き、もう一言付け加えた。


  「3 階の廊下の突き当たりが、ロック部の部室です。」


  「わかりました。ありがとうございます。」


  その後小林陽は教師とすれ違い、階段を下りようとした。すると教師が最後にもう一言声をかけてきた。


  「あと、その教室のドアには音楽室と書かれていますよ。」


  小林陽は手を振って応えると、旧校舎へと歩き出した。




  午後の陽射しがこの古いビルに斜めに差し込み、物寂しく淡々とした雰囲気で、まるで誰もいないかのようだった。


  小林陽は3 階へ上がると、部屋の中から誰かの声がかすかに聞こえてきた。


  「蒼、へへ、俺と一緒にゲーム部に入ろうよ、文芸部なんか行くな。」


  「嫌だ。」


  「俺が何でお前とこの学校に来たか忘れちまったの?」


  「お前が頼んだからじゃないの?」


  「あれ?じゃあ俺たちが一生ゲームをするって約束したこと忘れた?」


  「おいおいおい、一生バンドを組むってのはあったけど、一生ゲームをするってのは全然ないだろ。」


  小林陽は「音楽室」と名付けられているが、実はロック部の生徒活動室であるこの部屋を見つめ、戸の向こうから聞こえる声を聴いていた。


  小林陽は少し考えた後、丁寧に戸をノックして言った。


  「失礼します。」


  戸を開けた。


  「新入生です、こちらを見学に来ました。」


  小林陽の目に映ったのは、広い音楽室に僅か二人だけがいる光景だった。


  一人は頭にバンダナを巻いており、もう一人は黒いショートカットで、二人はお互いにふざけあっていた。


  小林陽は二人のネクタイを一目見て、自分と同じ新入生だと分かり、尋ねた。


  「失礼ですが、どちらさまですか?」


  二人は誰かが来たのを見て、すぐにまともな態度を装った。


  「あらー、見学に来たの?」


  「偶然だな、俺たちもだよ。」


  頭にバンダナを巻いた活発そうな少年が言い、すぐにコッコッと咳をしてから紹介した。


  「こんにちは、千島響合ちしま きょうがだ。」


  もう一人の黒いショートカットの少年が自然に話をつないで言った。


  「鈴木蒼すずき そうだ。」


  小林陽は二人が自己紹介したのを見て、利口に素直に口を開いた。


  「小林陽で、1 年 3 組です。よろしくお願いします。」


  千島響合と鈴木蒼が頷いた後、小林陽はこの音楽室のレイアウトを眺めた。


  広大で空々しい空間には、古びた雰囲気が漂い渡っており、隅には重なり積まれた机と椅子が幾つかあり、一列の本棚もあったが、本棚はまったく空っぽだった。


  小林陽は疑問に思い、尋ねた。


  「ここに君たち二人しかいないの?他の部員は?部長はどこにいるの?」


  千島響合は即座に答えた。


  「知らないよ。」


  小林陽は不思議そうに言った。


  「ここはロック部の部活室じゃないの?」


  隣の鈴木蒼はそれを聞くと、逆にこう言った。


  「あれ?ゲーム部じゃないの?」


  小林陽は鈴木蒼のその言葉を聞くと、ついツッコんだ。


  「高校にゲーム部なんてあるわけないだろ。」


  「何より、俺たちの進学率がめちゃくちゃ高い学校だぜ。」


  そして小林陽は続けて尋ねた。


  「では一体どういうことなの?俺はさっき先生に聞いたんだけど、ここはロック部の部活室だって。なんで君たちはゲーム部だと思ってるの?」


  同じように少し疑問に思っていた鈴木蒼は千島響合の方を向いて言った。


  「響合、説明してくれ。」


  千島響合はスマートフォンを取り出して言った。


  「ネットでこの高校にゲーム部があるって見たから、俺は君と一緒にこの高校に来たんだよ。」


  千島響合はスマホの画面をスライドさせて補足した。


  「当初詳しく中身を開かなかったけど、確かにこの情報はあったんだ。絶対間違いない。」


  千島響合はネットでさっと目を通した資料を見せるようにスマホを差し出した。


  スマホの画面には、あるネットユーザーが投稿したスレッドが表示されており、タイトルには「私立桜上男子高等学校には確かにゲーム部がある、そして…」と記載されていた。


  三人は皆スマホの画面に近づいて覗き込み、その後小林陽と鈴木蒼がじっくり確認すると、このスレッドの下部に表示されている所属カテゴリーが「ゲーム怪談掲示板」だと見つけた。


  二人は顔を見合わせた。


  そして千島響合も所属カテゴリーを目にした途端、すぐさまスマホをズボンのポケットに突っ込み、気まずそうな笑いを浮かべて言った。


  「あらあら、確かにゲーム部はないみたいだけど、情報を見間違えたわけじゃないんだ。」


  言い終わると、千島響合は頷きながら続けた。


  「これは確かにゲーム部があるって正しい情報なんだ。」


  小林陽は続けてツッコんだ。


  「だけど、現実の正しい情報じゃないだろ。」


  千島響合の幼なじみである鈴木蒼は、本当はゲーム部に入りたいと思っていた。


  なにしろ鈴木蒼は、千島響合が絶対に自分が文芸部に入るのを止めるとわかっていた。


  だが今の状況を前に、彼は千島響合に肘を突き入れて言った。


  「お前がこんなに頼りないやつだってわかってたわ。」


  自分が間違っていたことを百も承知の千島響合は、この一撃をくらっても全然気にしていなかった。


  それからハハハと笑い、急いで話題を転換して言った。


  「さて、ここで問題だ。ここがロック部の部活室なのか?」


  三人は今、この空っぽで少し古びた教室、ぴったりと閉まった窓、字が書けるほど埃まみれになったガラスを見て、明らかに長い間誰も来ていないことがわかった。


  鈴木蒼はそれを見て言った。


  「すっかり廃れてしまってるみたいだな。」


  言葉が終わると、千島響合は頭の中で瞬時に思考を巡らせ、探偵のような推理めいた表情を浮かべて言った。


  「さっき先生からここがロック部の部活室だと聞いた情報と、この廃れかかってるであろう部室の状況を合わせて考えると。」


  千島響合は顎に手を当て、答えを導き出したように言った。


  「俺の長年の推理ゲームの経験から言うと、ロック部は廃部になってるんだと思う。」


  この戯言の極みのような発言を聞いて、小林陽も大いに同意した。


  なにしろ、ロック部がこの教室ではなく、別の部屋にあるのではないか、という可能性も残ってはいたからだ。


  だが小林陽は、そんなことは絶対にありえないと思っていた。


  彼は中学時代に道がわからずクラスを間違えるという過ちを、もう二度と犯すつもりはなかった。


  今が新入生だからといって、例外ではない。


  もう立派な高校生なのだから、そこまでバカなまねをするはずがない。


  だから、ロック部が廃部になっているという推測が極めて正しいと、納得できたのだ。


  さて、ロック部に入れないなら家に帰ろう、と小林陽は考え、目の前の二人に口を開いた。


  「さっき先生から、ここが本当にロック部の部活室だと聞いてきた。だが、今見たところ、どうやら本当に廃部になっているようだ。じゃあ、失礼する。」


  こうして小林陽が立ち去ろうとしたその時、向かいにいた千島響合は、小林陽のこの断定的な言葉を聞いた。


  頭の中にひらめきが走ったらしく、彼は目をパッと輝かせて言った。


  「へえ、つまり俺がゲーム部の部長になれるってことだな。」


  隣の鈴木蒼は千島響合のその言葉を聞くと、彼に寄り添って言った。


  「俺の知る限り、部活を立ち上げるには4 人必要だ。俺たち二人だけじゃ、部長になんてなれないぞ!」


  「そんなわけないだろ。」


  千島響合はそう言い、目線で小林陽の方を示しながら言った。


  「ここにもう一人いるじゃん。」


  「合わせて三人だ。あと一人見つければ、部活を立ち上げられるんだよ!」


  小林陽は、こっそり内緒で話しているつもりが、実際には大声でわめいているのと何も変わらない二人を見て、呆れた様子になった。


  その内容が丸聞こえだった小林陽は、思わず言った。


  「あの、俺はゲーム部に入るなんて一言も言ってないぞ。勝手に人数に入れないでくれ。」


  この言葉を言い終わり、小林陽が立ち去ろうとしたその瞬間、目の前の千島響合が突然彼の足元に飛び込み、太ももにしがみついて叫んだ。


  「やめて、やめて、お願いだ!俺たちの部活の一員になってくれ!」


  この光景を見た小林陽は、心の中で猛烈にツッコんだ。


  「はあ?こんなやり方、どこにこんな厚かましい奴がいるんだ!まったく対処できないぞ!」


  小林陽は頭を働かせ、ちょうどいい理由を思いついて言った。


  「だって俺は元々ロック部に入りたくて、音楽をやりに来たんだぞ。」


  それから小林陽は少し考え、一線を残すように補足した。


  「ゲーム部って言われても、まあ別に入ってもいいけど、さすがにまずいんじゃないのか?」


  「こんな進学率の高い学校が、ゲーム関連の部活を認めるわけないだろ。」


  だが千島響合はまだしっかりと太ももにしがみついたまま言った。


  「じゃあゲーム部をロック部として立ち上げればいいんだよ!別に活動内容なんて...」


  千島響合はにっこり笑い、ずる賢い目つきで小林陽を見て言った。


  「俺たちだって楽器は弾けるんだぜ?ロック部として音楽活動をしつつ、たまにゲームをするくらい別に問題ないだろ?」


  この話を聞いて小林陽は少し興味を惹かれた。


  なにしろこのやり方は確かに筋が通っていたし、何よりもともとの彼の目的はロック部に入ることだったからだ。


  「俺はドラム担当だ。向こうの蒼、つまり鈴木蒼はベース担当だ。」


  相手がこうして紹介したのを見て、小林陽も口を開いた。


  「ああ、俺はまあギタリストだな。」


  向かいの千島響合は目を輝かせ、興奮した様子で言った。


  「ちょうどお前、音楽に興味あるんだろ?俺たちも音楽はできるんだ。だからロック部を立ち上げて、たまにゲームをするくらい、めちゃくちゃいいことじゃん。」


  「それにお前、そもそもロック部に入るつもりだったんだから、もうすでに俺たちの一員なんだよ!」


  「ロック部......」


  小林陽はつぶやき、自分の足元にしがみついている千島響合を見た。


  何も部活に入らなければ、家に帰って弟の悠のあの顔を見ることになる、なんだかそれが怖いな、と小林陽は考えた。


  それに目の前のこいつらはゲームが大好きなようで、自分も別に嫌いじゃなかった。そこで小林陽は言った。


  「わかった、ロック部に入る。だから先に足から手を離してくれ。」


  太ももにしがみついていた千島響合はすぐさま手を離し、満面の笑みで言った。


  「よかった!これであと一人足りないだけになった。」


  彼は振り向いて鈴木蒼に言った。


  「蒼、どう思う?早くもう一人見つけてくれよ!」


  鈴木蒼はこのバカな幼なじみを見て、ロック部の立ち上げを止められないと悟ったようで、呆れた様子で言った。


  「先に先生に状況を説明して、部活の設立申請をしなきゃダメだろ。」


  千島響合は納得したように言った。


  「わかった、じゃあ蒼の言う通りに、俺たち三人で行こう。」


  この言葉を聞いた小林陽は、京極真の会議はまだそんなに早く終わらないだろうと考え、当然のように彼らについて行くことにした。


  とはいえ、無理やり引っ張られて先生のところに行くことになったのだが。

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