蟒蛇の街
ゲロイン
僕たちが辿りついた街はこの周辺の地域ではもっとも豊富な水を湛えた水源を持つ集落である。
だが、僕が生まれ育った集落とは比べ物にならない程の規模を持つここを集落というのには抵抗がある。
ここの長もまたそれを思ったのか、この集落は『蟒蛇の街』と呼ばれる事が多い。
蟒蛇とは大きな蛇のことを指す言葉らしい。
どうして蛇が街の名前なのか分からなかったのだが、どうやら蟒蛇とは大酒飲みのことを指す言葉でもあるらしい。
それが分かった途端にこの街にぴったりの名前だと誰もが納得するはずだ。
なにせ、ここは酒が豊富な場所だからだ。
「うっぷ……」
レインが顔色を青くし気持ち悪そうにしている。
この街の入り口は特に空気が悪いから慣れないと仕方がないかもしれない。
「お願いだから吐かないでね」
「……優しさが欲しい。アルコールの臭いとプラスαが私を虐める……」
「吐いたらゲロの臭いが混じるから慣れない人には地獄だよね」
「言わないでください……、意識から外そうとしてたのに……」
そう、この街はアルコールの臭気が凄いのだ。
入り口付近はその臭いに当てられて吐く者が多い。まさに地獄絵図だ。
こうして街に入るための手続きの待機列で既に吐いてる者が多い。
話は変わるが豊富な水、とは言え限りのある資源である。
それを誤魔化す為の政策が水に酒を混ぜる、と言うものである。
酒を生産し、水に混ぜることで大元の水の消費を抑えようというものだ。
酒の製造というのは無から有を生み出すわけではない。
酒の元はとある果物なのだが、水が豊富なここであればその果物には事欠かない。
この街は蟒蛇の様にじっくりと獲物を待ち続けている。
それは金を落とす旅人であり、糧となる来訪者のことだ。
「お、やってるやってる」
僕がゴーグル越しに視線を向ける先では土煙が上がっている。
水を求めてやってきた生き物を狙う狩人。
そいつが酒の原料となる果物の持ち主だ。
「うげー、気持ち悪い時にグロとかほんと最悪です……」
「まあさわやかなものではないね」
狩人こと、ヴァンピーアプラント。
奴らは生き物の血を吸って成長する植物だ。
狩人であり植物たる彼等は水の貴重さを知っている。だからこそ、有限な水を出来るだけ消費せずに、外部からやってくる者を襲い水を吸い尽くすのだ。
吸血樹の犠牲者となった哀れなロックリザードは余すところなく糧になるのであろう。
弱肉強食。
食物連鎖。
そんな自然の理を眺めていた間に僕らの順番が回ってくる。
「次の者!」
蟒蛇の大きな顎が開かれている様にも見えるその門。
僕とレインは手続きを終えると足を進めたのだった。
――蟒蛇飲まれないようにしないとね。
「おええぇぇぇぇ」
そんな僕の考えを、レインの決壊した声が押し流していったのだった。




