法螺吹きコンビ
半年放置してたのか……(困惑)
法螺吹き少女と出会って一夜明かした。
戦利品を相棒に積みこみ、更に少女をも乗せる。
僕も法螺吹きになった。
大言壮語を吐き出す稀代の大法螺吹きだ。
ビッグになりたい僕には丁度いい大きさである。
なにせ、僕には実力も、運も、実績も、何もかもが小さすぎてゴミ屑の様だからだ。
今はそれでいい。
ここからジョブチェンジをする可能性も無くはない。
僕は意識を後ろに向ける。
僕のお腹に腕を回してしっかりと掴んでいる少女。
自称当代雨を降らせる者。
誰もが笑い飛ばすであろう存在。
僕も散々笑い飛ばしたうえでその存在を信じた。
いや、僕は人生をこの雨を降らせる者を名乗る少女に賭けしたのだ。
「そう言えば、なんですけど……」
「なにー?」
「私たち、お互いのことを全然知らないんですけど……」
雨を降らせる者が今さらそんなことを言ってきた。
そりゃそうだ。
僕は彼女が何者なのかを訊ねて、彼女は役職を答えただけにすぎない。
僕も同じく彼女に水の幻を追う愚者という役職を仄めかしたに過ぎない。
身体だけの関係ならぬ、お互いの利益だけの関係でいいのかと思っていたらそうではなかったようだ。
こやつ、どうやらすこし間が抜けてるようだ。
「すみません、ナンパな人とはお付き合いしてはダメと旅の途中であった女の人に言われたので……」
「いやいや!! そんな意図はこれっぽっちもないんですけど!? むしろ逆にこれから旅の同行者になるのに名前も知らないほうがおかしいと思いません?! しかも私が振られるパターンなんですけど!?」
一息で言い切る彼女は突っ込みの素養もあるようだ。
なるほど、適度にボケててツッコミも出来ると言うのなら旅の同行者としてはもう文句はない。
とは言え、だ。
僕と彼女は信頼関係の上に成り立っている間柄ではない。
僕が一方的に彼女に賭けて、彼女は僕を利用しているだけに過ぎない。
名前を教える、と言うことは慣れ合いになり、その慣れ合いがいつしか身を蝕む毒になることもないわけではない。
それでも、呼び方を決めないとお互いに面倒なのには違いない。
「じゃあ僕の事は愚か者って呼んでくれればいいよ」
それは僕らしい僕の偽名。
本当の名前よりもしっくり馴染んだ偽名は僕という存在を体現している。
「愚か者……本名ですか?」
「なわけないじゃん。誰が好きこのんで子供にばかみたいな名前をつけるのさ」
「あー、大変動以前の時代にはあったみたいですけどね。キラキラネームとかDQNネームっていうらしいですよ」
「……マジか」
「マジです」
それは愚かとかじゃなくてもはや屑なんじゃないですかねえ……。
大変動、まだこの大地が雨を忘れていない豊かな時代。
水が豊富だと大地には緑が芽吹くのは水源の近くを見ていれば分かるが、水が多過ぎたら人間の頭には花畑が現れるのだろうか?
雨を降らせて世界は本当に大丈夫なのだろうか。
僕のやる気が萎えたのを感じ取ったのか、少女は慌てて言い募る。
「いや、でも、その変な名前をつけるのは一部の頭が湧いてる人間だけなので全員が全員そんな変な名前じゃないんですよ!!」
「……大変動以前の時代の人間の頭がお花畑だった話は横に置いて、だ。僕は君をなんて呼べばいい?」
僕は少女に問いを投げかける。
僕は自分の名を偽った。
それは慣れ合いを防ぐための自衛であり、不便さを解消するものでもある。
そして、お互いの認識を利益だけの関係とする誓いでもある。
互いに利用し、互いに利用されよう。
利用価値がなくなった時、僕らはお互いに関係を切る間柄なのだと。
それは彼女も分かっているだろう。
だからこそ、僕は自らを愚か者だと言った。
信頼関係を築くことを恐れる僕は本当に愚か者だから。
「なら、レインと読んでください」
「それは本名?」
「いいえ、偽名です」
「なるほど、凄い安直な偽名だね」
「貴方ほど酷くはないですよ!!」
僕らは名前すら法螺を吹く。
なるほど、僕たちはいい法螺吹きコンビになれそうだ。
僕は幻の水が見せる虚構の世界を眺めながらそう思った。




