第五幕 第十四場
おっぱい王国のお城の前にたどり着いた三人。それは巨乳姫マンスロートに魔女ホレ、そして青い瞳の騎士で巨乳派の工作員であるゲオルクだった。三人はお城から逃げ出して行く兵士に戸惑った様子だった。
「おい貴様ら!」ゲオルクが大声をあげた。「どこへ行く!」
兵士達はその問いに答えず、走り去って行く。
ゲオルクは舌打ちする。
「なにがどうなっていやがる!」
大きな爆発音とともに、お城の上階にある壁が吹き飛んだ。破片があたりに散っていく。
マンスロートが悲鳴をあげる。
「いったいお城でなにが起こっているの?」
ホレが顔をしかめる。
「何やらよくない予感がするよ」
再び爆発音とともに、お城の上階の壁が吹き飛んだ。
「いったい何なのよ」
マンスロートがお城を見上げ、吹き飛んだ壁を凝視する。
「……あそこは玉座の間。いったい玉座の間で何が起こっているのよ?」
不気味な雄叫びがあたりに響き、三人に緊張が走った。
「巨乳姫!」
そう叫んで、お城の中から三人のもとへ駆け寄ってきたのは、赤い瞳の騎士ベンヤミンだった。
「まさかお戻りになられていたのですね」
「ベンヤミン」
マンスロートが言った。
「いったいお城で何がおこっているのですか?」
「悪魔が城に侵入したため、城内で戦闘が起こっております。そのため城内は大変危険ですので、今すぐにここから避難してください」
またしても大きな爆発音がおこり、屋根の一部が吹き飛ぶ。
「巨乳姫様」
ゲオルクが言った。
「ベンヤミンの言う通りここから避難しましょう」
「その必要はないわ」
ホレが言った。
「私が悪魔退治してあげましょう。すぐに終わらせるわ」
ベンヤミンの目付きが鋭くなる。
「ゲオルク。こちらのご夫人は?」
「ベンヤミン聞いて驚くなよ。このおかたは——」
「ゲオルクさん」
ホレがゲオルクの言葉を遮った。
「私はただの一般市民。そうしてくださらない。あまりことを荒らげたくないの」
「わかりました。あなたがそれでいいと言うならば、そうしましょう」
「さてと行きますか」
ホレが城へと歩き出す。
「お待ちください」
ベンヤミンが剣を抜き、ホレの進路を塞いだ。
「城内は危険です。中へは入らないでいただきたい」
「おいベンヤミン」
ゲオルクは剣を抜き構える。
「無礼な事をするな。今すぐ剣を下ろせ」
「ちょっと二人とも止めてちょうだい」
マンスロートが仲裁に入る。
「そう簡単に城内に怪しい人間を入れてはいけない」
ホレがベンヤミンに微笑む。
「とても優秀な騎士さんだね。だけどここは通してもらうよ」
そこでマンスロートに顔を向ける。「ねえマンスロート姫様。あなたからこの騎士さんに、私を通すよう命令してもらえるかしら」
「わかりました」
マンスロートはうなずくとベンヤミンに顔を向ける。
「ベンヤミン、この人を通してあげて」
「……わかりました巨乳姫」
ベンヤミンは剣を下げるとホレに言う。
「だがご夫人よ、先ほども言いましたが城内は大変危険です。私も別任務のためあなたを護衛できません」
「かまわないわよ騎士さん」
「別任務?」
ゲオルクがいぶかしげな顔をベンヤミンに向けた。
「こんな時にお前は何をやっているのだ。そんなこと後回しにして悪魔討伐を優先しろ」
「残念ながらそうもいかないんだな」
ベンヤミンは肩をすくめる。
「なにせミハエル大臣直々の命令なんでね」
「ミハエル大臣直々の命令だと」
ゲオルクがますますいぶかしがる。
「何の任務だ?」
「こういうことさ」
言い終えた瞬間、ベンヤミンは駆け出しマンスロートの心臓めがけて剣を突き出す。
マンスロートは突然の出来事に身動きできずにいる。そしてその剣の切っ先が間近に迫ったその時、襲いかかる剣が甲高い金属音とともに跳ね上げられた。
「何!」
ベンヤミンが驚き横を向くと、そこには自分の剣を跳ね上げたであろうゲオルクが、剣を高く掲げる姿があった。
「てめえ何しやがる!」
ゲオルクは剣をベンヤミンに向かって振り下ろす。
ベンヤミンはそれを後ろに飛び退き避けた。
ゲオルクは怯えるマンスロートを庇うようにしてその前に立つと、ベンヤミンを鋭くにらみつけた。
「どういうことだこれは。貴様、巨乳姫様を殺すつもりか!」
「そうだよ。殺すつもりなんだよ」
ベンヤミンは冷淡な口調で言った。
「それが俺に与えられた任務だからね」
「なんだと!」
ゲオルクが怒鳴った。
「貴様はこの国に仕える騎士のくせに巨乳姫様を殺すだと。ふざけんじゃねえ!」
「俺が仕えるのは貧乳姫様が治めるおっぱい王国さ」
ベンヤミンは剣を構える。
「だからね、そこにいる忌々しい巨乳姫に生きててもらっては困るんだよ」
ゲオルクがはっとした表情になる。
「まさか貴様、貧乳派の人間か!」
「今ごろ気づいたかゲオルク。そうだよ、俺は貧乳派の人間さ」
「そんなベンヤミン」
マンスロートは唖然とする。
「あなたが貧乳派の工作員だったなんて」
「ご安心ください巨乳姫様」
ゲオルクが言った。
「あなた様の身の安全は、巨乳派の騎士であるこのゲオルクが絶対に守り通してみせます」
「やっぱりね」
ベンヤミンはゲオルクを蔑むような目付きで見る。
「ゲオルク、お前は巨乳派だったんだね。気持ち悪い」
「貧乳派にそんなこと言われたくないね」
ゲオルクはつばを吐き捨てた。
「なあベンヤミン。ちょうどいい機会だ。このおっぱい王国最強の騎士は誰なのかはっきりさせようじゃないか」
「おもしろいじゃないか。どうせ勝つのは俺だけど——」
「ブリックレーブリット」
ホレが唐突に呪文を唱えた。
ベンヤミンの背後の地面から植物の芽が顔をだすと、それは一瞬で巨大なツルとなり、後ろからベンヤミンを羽交い締めするかのようにして巻き付いた。ベンヤミンは両手両足を広げるような形で拘束されてしまう。
「な、なんだこれは!」
突然の出来事に驚いた様子だった。
ゲオルクはホレに顔を向けた。
「ホレ殿。せっかくの一騎打ちだったのに邪魔しな——」
「たわけが!」ホレが怒鳴った。「だまらっしゃい!」
ゲオルクは不満げな表情を浮かべながらも口を閉じた。
マンスロートがベンヤミンのもとに歩み寄る。
「ベンヤミン。あなたは貧乳派の人間でこの私を亡き者にしようとしていたのですね。これは反逆罪ですよ」
「黙れこの脂肪細胞のグロテクスな固まりめ!」
ベンヤミンがマンスロートにつばを吐いた。
「マンスロート」
ホレが怒りの声をあげた。
「この無礼者を殺っておしまい」
マンスロートはつばを拭う。
「はい、お母様」
そう言うと右足を後ろへと高くあげた。
「このバカチンが!」叫び声とともにベンヤミンの股間を思いっきり蹴り上げた。
その瞬間、男としてのベンヤミンは死んだ。ベンヤミンは白目を剥いて口から泡を吐く。
「お見事です巨乳姫様」
ゲオルクが賞賛の拍手を送る。
「ねえゲオルク」
マンスロートがゲオルクに向き直る。
「後ろ向いてもらってもいいかな」
「へ? どうしてですか?」
「いいから早く」
マンスロートは微笑むと、甘えた声で言う。
「これは命令なんだぞ」
「わかりました」
ゲオルクはマンスロートに背中を向けた。
マンスロートは後ろからゲオルクに抱きつき、その大きな胸を彼の背中に押し付けた。
「ひ、姫様!」
ゲオルクは声を裏返した。
「お、大きな、胸が、あ、あたっており、ますよ」
「まさかあなたが巨乳派の人間だとは思わなかった。だからこうして抱きつかせてちょうだい」
「なんとありがたいことでしょう。巨乳派の人間としてこれほど名誉な事はありません」
マンスロートは力強くゲオルクを抱きすくめた。
「どいつもこいつも、巨乳派だとか貧乳派だとかくだらない理由で国を混乱させて許せない」
そう言うと雄叫びをあげ、ゲオルクを勢いよく持ち上げる。そしてそのままのけぞり、ゲオルクの頭を地面へと叩き付けた。彼はその衝撃で気絶してしまう。
「私のかわいい従者キュルトヘン直伝の護身術よ」
マンスロートは立ち上がり、蔑んだ表情でゲオルクを見下ろす。
「そのまま永眠してろ。この変態め」
そう言うとつばを吐き捨てた。




