第五幕 第十三場
おっぱい王国のお城の玉座の間では、貧乳姫マレーンとドラゴンへと姿を変えた悪魔との戦いが始まっていた。その様子を二人の大臣が部屋の片隅で震えながら見つめている。
「ブリックレーブリット」マレーンが呪文を唱える。
空間が水を通して見たかのように歪み、やがてその歪みはドラゴンの首筋へと収縮する。そして小さな破裂音とともに、ドラゴンの首筋からわずかな血しぶきがあがった。
マレーンは舌打ちする。
「固い!」
ドラゴンはにやりと口元を歪め、鋭い歯を見せる。
「どうしたその程度か?」
そう言うと大きく口を開けて息を吸い出し始めた。
「まずい!」
マレーンはすぐさま屈み両手を床につけた。
「ブリックレーブリット」
マレーンの目の前に巨大な氷の壁が出来上がると同時に、ドラゴンが彼女に向かって炎を吐いた。ドラゴンの炎はみるみる氷の壁を溶かしていく。
マレーンは再び舌打ちすると自分の靴に手を触れる。
「ブリックレーブリット」
ドラゴンは炎を吐き続け、氷の壁をどんどんと薄くさせていく。
マレーンは氷の壁がなくなると同時に走り出した。
それを追ってドラゴンも炎を追跡させ、マレーンを壁際へと追い込んでいく。
追い込まれ逃げ場を失ったマレーンは、そのまま壁に向かってスピードを緩める事をせず突き進んで行く。そして壁と激突するかと思われたその時だった。マレーンは壁に右足をつけると、次いで左足をつけた。そしてまた右足、左足と続いていく。まるで重力が壁側に移ったかのように壁を駆け上って行く。しかしマレーンの両側頭部で結わえられた黒髪が床へと向かって垂れ下がっている事から、重力が移ったのではない事がわかる。先ほどマレーンが靴に掛けた呪文によって、靴が磁石のように壁に吸い付いていたのだった。
「逃がさぬぞ」
ドラゴンが炎を吐くのを止めると、羽を羽ばたかせ空中に飛び上がる。
マレーンは壁を登りきると、天地を逆さにしたかのように天井を走リ始めた。両側頭部で結わえた髪を床へと垂らしながら、ずり落ちてくるドレスのスカートの裾を押さえ走り続ける。
天井へと飛んで来たドラゴンが、再び炎を吐こうと大きく息を吸う。
マレーンは天井に吊り下げられていたシャンデリアに駆け寄ると、その根元を掴んだ。
「ブリックレーブリット」
シャンデリアが自身を吊り下げる鎖をひきちぎり、まるで矢のごとくドラゴンへと一直線に飛んで行く。そして轟音とともにドラゴンを床へと叩き付け、砂塵を巻き上げた。
「今のは面白かったよ」
ドラゴンが平然とした態度で起き上がる。
「もっと楽しませてくれ」
マレーンは苦笑いする。
「こいつはまずいわね。ちょっとばかし強すぎないあのドラゴン」




