第五幕 第七場
おっぱい王国にある劇場の暗い床下をはって進むのは、仕立て屋のハンスルに靴屋のプフリームだった。
ハンスルが得意げに鼻をならす。
「俺たちにかかれば劇場に忍び込むなんて朝飯前だぜ」
「おいハンスル」プフリームが言った。「そろそろじゃないか?」
「おうそうだな」
ハンスルはそう言うと頭上にある床板を探り始めた。
「……あった」
ハンスルが床板のふたをどけると床下に明かりが差し込む。
「ビンゴ」
ハンスルはゆっくりと顔を覗かせあたりを見回す。そこは小道具などが置かれた部屋で、人影は見当たらない。
「よし誰もいない」
ハンスルは床下から這い上がる。
「楽勝じゃない」プフリームも床下から這い上がった。
二人は無事侵入できた喜びで、お互いの手のひらを叩き合わせ、大きな音を立てた。
音が部屋に響くと、それに反応するかのようにうめき声が聞こえ始める。
二人はぎょっとし顔を見合わせた。
「なんか聞こえてこねえか?」ハンスルが言った。
「ああ、たしかに聞こえる」
プフリームが部屋の片隅にある大きな道具箱に目を向ける。
「あそこから聞こえてこないか」
そう言って道具箱を指差す。
ハンスルが耳をすます。
「……たしかに向こうから聞こえてくるな」
二人は警戒しながら道具箱に近づく。そして道具箱の陰に、裸で縄に縛られ猿ぐつわをかまされている人物を発見して驚愕する。
「おいおい」
ハンスルが目を丸くする。
「なんて恥ずかしい格好で縛られているんだよお前」
「なんていやらしいんだ」
プフリームが生唾を飲む。
「卑猥すぎる」
そこに縛られていたのは筋肉隆々の肉体を持ついかつい男だった。
「っていうかこいつ誰だ?」ハンスルがプフリームに顔を向ける。
「さあ」プフリームは肩をすくめた。「今まで一度も見た事がない。誰なのかさっぱりだ」
男はもがきながらうめき声を漏らし、二人に何かを必死に訴えている様子だった。
「さてさてどうするかな」
ハンスルが気だるそうな表情を浮かべた。
「こいが女だったらすぐにでも助けるんだけど、こいつ男だしな。なんもいいことなさそうだし無視するか」
「やめなよハンスル。かわいそうじゃないか」
プフリームはそう言うと男の猿ぐつわを外した。
男は咳き込むと言った。
「……あんたら巨乳派の工作員で、劇場に忍び込んで帰ってこなかった俺を心配して助けにきたんだろ。ありがとう助かった。礼を言うよ」
「巨乳派?」ハンスルが首を傾げる。
「工作員?」プフリームも首を傾げた。
男は戸惑う。
「あんたら巨乳派のリーダーであるシュルツ大臣の命令で、俺を助けにきてくれたんだろ?」
そこではっとした表情になる。
「まさかお前ら貧乳派の人間か!」
「巨乳派?」
ハンスルが思案げに唸る。
「貧乳派?」
両手を胸の高さに掲げると、もみしだくような動作をしてみせる。
「巨乳姫と貧乳姫。どちらの胸ももんだけど、やっぱり胸は大きい方がいいな。ってことは俺は巨乳派ということなんだろうか」
「おお同士よ!」男が叫んだ。「やはり巨乳派の同士ではないか。驚かさないでくれよ」
「同士?」プフリームが言った。「なんだそれ?」
男がプフリームに顔を向ける。
「何を言っているんだ。同じ志を持つ仲間のことじゃないか」
プフリームは気難しそうな表情になる。
「……同士ね。まあそんなことは置いといて、どうしてあんたは捕まっているんだ?」
「シュルツ様からくわしい内容を聞かされていないようだな」男は言った。「だがそれもいたしかたない。それほど慎重に秘密主義を貫き通さなければ、貧乳派に情報が漏れてしまう」
「答えになってないぞ」ハンスルが言った。「どうして捕まってたんだ?」
「じつはある任務でこの劇場に忍び込んだら、罠にはまって捕まってしまったんだ」
「ある任務ってなんだよ?」ハンスルが訊いた。
「シュルツ様から聞かされていないんだろ。だったらしゃべるわけにはいかない。すまないがわかっておくれ。同じ同士でも、任務については他言無用の極秘なのだ」
プフリームがあきらめのため息をつく。
「よくわかんないけど、この劇場に忍び込んで捕まったんだろ」
そこでハンスルに顔に向ける。
「おいハンスル。もしかしたら先に忍び込んだマルタも捕まったんじゃねえのか?」
「あ!」ハンスルが言った。「もしかしたらマルタも捕まったかもしれねえな。ということは裸で縛られているのか」顔がにやけだす。「そいつは早く助けにいかなくちゃ」
唐突に三人がいる部屋のドアが乱暴に開かれた。
「やれやれ」
そう言って入ってきたのは兎だった。
「何やら話し声が聞こえたかと思ったら、また賊ですか。これで三度目ですよ」
うんざりといった様子でため息をつく。
「大人しくお縄についてくれませんか。もしも抵抗するのならば痛い目にあいますよ」
縛られている男を指差す。
「そこにいるあわれな男のようにね」
「おい兎」プフリームが言った。「三度目って言ったな。もしかしたバニーガール姿の女が忍び込んでこなかったか?」
「おやおや、あの女の仲間でしたか」兎が言った。「あの女なら捕らえそこねましたよ。まさか胸の谷間に隠していたナイフで、罠の縄を切って逃げだすとは思いませんでしたよ」
「ちくしょう」ハンスルが舌打ちする。「せっかく裸が拝めると思ったのに残念だ」
「さてさて」兎が不気味に笑い出す。「おしゃべりはここまでだ」
兎が飛び跳ね始め、ハンスルとプフリームの二人は身構える。




