第五幕 第三場
おっぱい王国のお城の玉座の間では、険しい表情の王様が二人の大臣とともに、集った兵士達に事情を説明し終えたところだった。
「諸君らもわかったことだろう」王様が言った。「今このおっぱい王国は危機に瀕している」
兵士達の顔には緊張の色が浮かんでいる。
「マンスロートは未だ帰らない。さらに悪魔が今日の昼にこの城を襲撃し、このおっぱい王国を滅ぼさんと企んでいる。これはなんとしても食い止めなければならない」
王様が握り拳を胸の高さに掲げる。
「この非常事態をシュヴァンツ王国側に知られてはならぬ。知られてしまえば、この結婚が破談する事も考えられるからだ。幸いな事に今日の昼、シュヴァンツ王国の人間達はローラント王子歓迎のための演劇鑑賞のため、この城を離れる。その間に諸君らには悪魔を討ち取っててほしい」
「しかし王様」兵士の一人が言った。「我々の力で悪魔が倒せるでしょうか?」
「心配しなくてもいいわよ」
そう言ってキュルトヘンを引き連れて玉座の間に現れたのは貧乳姫マレーンだった。後ろには巨乳姫マンスロートに扮した鵞鳥番のリーゼルが続く。
兵士達が道をあけ、マレーン達は王様のもとへと歩を進める。
「お父様」マレーンが言った。「私が悪魔討伐の先陣を切ります。それでいいですね?」
「マレーンよ。なにもお前自ら戦わなくてもよいではないか」
「だったらお父様」
マレーンが兵士達を手で指し示す。
「この兵士達で悪魔が倒せるとでもお思いですか? 私の力が必要でしょ」
強調するかのように声を強める。
「この私の力が」
マレーンが魔女だと知らない皆は、不思議そうに話を聞いている。
王様はためらう。
「だがしかしそんな事をすれば——」
「お父様」
マレーンが王様の言葉を遮った。
「王族の体裁よりもお国の事をお考えください」
「違うそうじゃない」
王様は首を横に振った。
「万が一お前に怪我でもあったらと思うと、私は心配で心配で」
マレーンは顔をしかめた。
「今さら父親面してそんなセリフ吐かないでよね。私の事なんて全然心配してないくせにさ。私の事をずっと閉じ込めてたくせに反吐がでる」
「マレーンよ。私はいつでもお前の事を心配しているのだよ。この言葉は嘘ではない。今さら信じてくれと言っても無理なのはわかる。けれどわかってほしい」
マレーンは舌打ちする。
「とにかく、この力を使いますよ。それでいいですね?」
「やむをえん。頼んだぞマレーンよ」
王様はそう言うと二人の大臣に顔を向ける。
「シュルツ大臣、ミハエル大臣。私ら王族がシュヴァンツ王国の者達と劇場に行っている間、留守を任せたぞ。必ずやマレーンとともに悪魔を討ち取ってくれ、頼んだぞ」
二人の大臣は頭を下げると声をそろえて言った。
「お任せください。王様」
貧乳派のリーダーであるやせた大臣は顔を上げると、巨乳派のリーダーである太った大臣に手を差し出した。
「シュルツ大臣。この国のためにもお互い協力してがんばりましょう」
太った大臣は手を取った。
「もちろんですとも。ミハエル大臣」
二人とも笑みを繕い、偽りの握手を交わした。
「それでは皆の者」王様が言った。「どこから悪魔が現れてもいいように配置についてくれ」
兵士達は返事をすると、ぞろぞろと玉座の間から出て行く。
「それではマンスロートよ」
王様がリーゼルに言った。
「劇場に向かう準備をしなければ。私についてくるのだ」
「わかりましたお父様」
リーゼルはそう言うと王様とともに、玉座の間の扉へと向かう。
その後を追ってキュルトヘンも続くが、太った大臣に呼び止められた。
「なんでしょう」キュルトヘンが振り返る。「シュルツ大臣?」
「キュルトヘン隠密の話だ」
太った大臣が声を潜めた。
「じつはティーア劇団がシュヴァンツ王国側の工作員であり、今回の演劇の最中にシュヴァンツ王国の第二王子もろとも、我が国の王族を暗殺しようとしているとたれ込みがあった。おそらく目的は第二王子の死を理由に、我が国に攻め入るため。そのためにシュヴァンツ王国は第二王子を捨て駒にするつもりらしい」
「なんだって!」
キュルトヘンが目を丸くした。
「そんなまさか!」
「声がでかいぞキュルトヘン」
太った大臣は人差し指を口にあてる。
「私はこの情報の真偽を確かめるため、劇場に偵察を送ったが帰ってはこなかった。これはすなわちティーア劇団がまぎれもないシュヴァンツ側の工作員だという証拠である」
「どうしてそんな大事な事を皆に黙っていたんですか?」
「考えたくもないが、偵察の兵士が帰ってこないという事はおそらく情報がもれたのだろう。つまり我々の中に裏切り者がいる。だからこそ信頼できるお前に頼みたい」
太った大臣はキュルトヘンの肩に手を置く。
「巨乳姫様の従者としてお前も劇場に行くのだろ。ならば劇場に着きしだい理由を付けてマンスロート姫様のもとを離れ、ティーア劇団を探るのだ。頼んだぞ」
キュルトヘンはうなずく。
「おまかせくださいシュルツ大臣」
二人のやりとりを遠目で見ていたのはやせた大臣だった。
「なにをこそこそと。巨乳派のリーダーであるシュルツは何を企んでいる? ヤツに先を越される前になんとかせねば」
やせた大臣は、皆の背中をさみしげに見つめていたマレーンに歩み寄る。
「貧乳姫様」
マレーンがやせた大臣に顔を向ける。
「なんのようかしら? ミハエル大臣」
「もしも悪魔討伐後もマンスロート姫が帰ってこない場合には、その時はこの国のためにもシュヴァンツ王国王子ローラント様と結婚していただけますね?」
しばしの間があった。
「わかったわ」
マレーンは複雑そうな表情でそう答えた。
やせた大臣は満足げな笑みを浮かべた。
「さすがです貧乳姫様」




