第四幕 第十六場
おっぱい王国の城下町にある酒場では、夜になったということもあり、人々が続々と集まりにぎやかに酒を飲んでいる。そのなかには仕立て屋のハンスルと靴屋のプフリームも混ざっていた。そんな人々の間を縫うようにしてバニーガール姿のマルタとエプロン姿のグレーテルが忙しそうに駆け回っている。
活気に満ちあふれた酒場の二階の廊下には、青い瞳の騎士ゲオルクがとある部屋のドアの前で腕組みをして立っていた。ゲオルクが警固する部屋の中では巨乳姫マンスロートと魔女ホレがイスに座り、互いに向き合っている。
「こうして二人っきりになるのはひさしぶりだね」
ホレが昔を懐かしむように言った。
「ええ、そうですねお母様」
マンスロートも懐かしむように言った。
「また昔見たいにマレーンをも交えて一緒に歌を歌いたいですわ。そのためにもお母様、一緒にお城へ帰りましょ」
「……それは出来ないよマンスロート」
ホレはさみしげな表情を浮かべる。
「だって私は魔女だからね」
「大丈夫ですよお母様。話によるとマレーンだって魔女なのにその存在を認められ、お城にいるじゃないですか。それに私も魔女です。私にも魔法が使えました」
「ああ……そうなのかい」
ホレは哀れみの表情になった。
「お前もまた魔女の血を濃く受け継ぎ、魔女になってしまったんだね」
そこで目に涙を浮かべる。
「許しておくれ。私のせいであんた達に迷惑をかけてしまった。こんな母親でごめんね」
「とんてもありませんお母様。私はお母様の娘でよかったと思っています。それはきっとマレーンだって同じはずですよ。だからお母様が気に病む事はありません」
ホレが微笑む。
「本当にやさしい子に育ってくれたねマンスロート」
「もちろんですよ」
マンスロートも微笑む。
「だってお母様の娘ですから」
「私はあんたの母親で本当によかったよ」
「私もお母様の娘で本当によかった」
二人は照れくさそうに笑い声を漏らした。
「ねえマンスロート」ホレが言った。「本当に明日お城に帰るつもりなのかい?」
「はい。そのつもりです」
「本当にいいんだね?」
「大丈夫ですよお母様。ゲオルクもついていますし、貧乳派が誰なのかわかっています。十分に対処できますわ。後はお父様に事情を話して——」
「そうじゃないよ」
ホレがマンスロートの言葉を遮った。
「お城に帰るってことは、シュヴァンツ王国の王子と結婚するってことなんだよ。それでいいのかい?」
「かまいませんわお母様。私はこの国の王女としてその役目を立派に努めてみせます。せっかく両国で結ばれた和平条約を台無しにするような事はしません」
「いいのかいマンスロート。自分を押し殺して、見ず知らずの男と結婚するのはつらいよ」
「見ず知らずの男ではありませんよ」
マンスロートがすこしばかり顔を赤らめた。
「一度お会いしました。シュヴァンツ王国第二王子ローラント様は、とても誠実で清い心のも持ち主でした。それになりよりとても美しい美青年で、私好みの殿方でしたわ。あの人となら私うまくやっていけると思います。だから私はローラント王子様と結婚します」
ホレは立ち上がるとマンスロートの額に口づけをした。
「そうかい。それなら安心してあんたを祝福できるよ」
マンスロートを抱きしめその頭をなでる。
「楽しみだね。あんたの花嫁姿はきっときれいだろうよ」
「楽しみにしてくださいお母様」
マンスロートはホレの背中に手を回す。
「私きっと幸せになりますから」
二人の感動の会話を、ゲオルクはドアに耳をあて盗み聞きしていた。
「巨乳姫様の会話を盗み聞きするなんて、騎士のする事じゃないわね」
そう言って二階に上がってきたのはマルタだった。
ゲオルクはすぐさま耳を離すと、人差し指を立て口にあてる。
「声が大きいぞ」
「あらやだ、ごめんなさい」
マルタは微笑しながらゲオルクに歩み寄る。
「いったい何のようだマルタ?」
「シュルツ様の使いから連絡があったわ。明日、巨乳姫様がお城に帰還するまでの間、命に代えても守り通せ、だとさ」
「言われなくてもそうするさ」
「それじゃあ巨乳姫様のことは頼んだよ」
「頼む?」
ゲオルクが眉をひそめる。
「ちょっと待て。お前はどうするつもりなんだ?」
「私はちょっとヤボ用があってね、それを片付けてくる」
「それはシュルツ様の命令か?」
「いいえ、私の独断よ」
ゲオルクが眉を吊り上げた。
「そんな勝手なことしていいと思っているのか」
「いいも悪いも、誰かがやらなければならないことなのよ。わかってちょうだい。シュルツ様は行動が遅すぎる。手遅れになる前に私がなんとかするわ。だから巨乳姫様はあんたに任せたわよ」
「いったい何をするつもりだ?」
「心配しないで。この問題であんたの頭を悩ますつもりはない。あんたは巨乳姫様のことだけを考えなさい」
そう言うときびすを返し、一階へと下りていく。
「ったくやれやれ」
ゲオルクは肩をすくめた。
「兎のように大人しくしてればいいのによ」




