第一幕 第四場
夕日が沈み、夜になったおっぱい王国。その城下町にある酒場では、馬丁のフェレナンドが二人の若者とテーブルを囲んで酒を飲んでいた。
「そんなわけで姫様大変らしいよ」馬丁のフェレナンドが言った。
「大変なのはこっちもだよ」
そう言ったのは、仕立て屋の男ハンスルだった。
「巨乳姫が結婚するからって、なんでも有名な動物の劇団を呼んで歓迎するらしいぜ。そのせいで仕立て屋の俺は、そいつらの衣装を縫うって毎日てんてこ舞いさ」そこで隣の男に顔を向ける。「お前んところも忙しいんだろプフリーム」
「ああ、まったくその通りだよハンスル」
そう言ってうなずいたのは、靴屋の男プフリームだった。
「靴屋の俺のところにも仕事が入って忙しい。おかげで肩が凝ってしょうがない」
「二人とも忙しいんだな」
フェレナンドはコップに入った酒を一気にあおると、カウンターに向かって叫ぶ。
「すみません。おかわりお願いします!」
「あいよ」カウンターから女性の声が返ってきた。
「それにしてもハンスル」プフリームが言った。「巨乳姫は結婚の何が気に入らないって言うんだ?」
「それはあれだろプフリーム」ハンスルが言った。「私は好きな人と結婚したいの。知らない男の人と結婚するなんて考えられない、ってやつだろ」
「やれやれ」プフリームが嘆かわしげに首を横に振った。「とんだわがままな姫様だ。一国の王女としての自覚がないんじゃないのか」
「そうかもしれないわね」
そう言っていつのまにかテーブルにやってきたのは、バニーガールの格好をした胸の大きな女性だった。
「はいフェレナンド、おかわりおまちどう」テーブルに酒の入ったコップを置いた。
「ありがとさん、マルタ」フェレナンドがバニーガールの女性に礼を言った。
「よおマルタ」
ハンスルの目線はマルタと呼ばれた女の巨乳に釘付けだ。
「あいかわらずいい胸してんね。まるで巨乳姫だ。ねえちょっとだけさわらせてよ」そう言って手を伸ばす。
マルタはハンスルの手を払い落とす。「そんなにさわりたきゃ金払いな」
ハンスルの顔がにやける。「ええ、本当にいいの。いくらだい?」
マルタはにっこりと笑う。「十万グンデル」
「高いよ。そんだけあれば一ヶ月は遊んで暮らせるじゃねえか」
「それじゃあきらめな」
「やれやれハンスル」プフリームが再び嘆かわしげに首を横に振った。「お前の頭の中は女の胸の事でいっぱいだな。見ていて滑稽だよ」
一同がどっと笑った。
そこへエプロン姿の女の子がやってきて、テーブルの上に料理をのせた皿を置く。
「お待たせしました。じゃがいも団子のクヌーデルです」
「ありがとうグレーテル」フェレナンドがエプロン姿の女の子に礼を言った。
「よおグレーテル」ハンスルがグレーテルと呼ばれた女の子に手を伸ばす。「おっぱい——」
マルタがハンスルの手の甲を指でつまみ上げた。
「こんな子供の胸に手を出したら殺すよ」
ハンスルが痛みに呻く。
「ち、違うよマルタ。俺はただ、グレーテルにおっぱい山について教えてやろうとしただけさ」そう言うとマルタの指を振りほどく。
「おっぱい山?」グレーテルが頭の上に疑問符を浮かべた。
「そうそうおっぱい山」ハンスルがうなずく。「お城の裏手に大きな山が二つあるだろ。あれは見た目がおっぱいみたいに見えるから、二つまとめておっぱい山と呼ばれているんだぜ」
グレーテルが感心したかのように言う。「へえ〜知らなかった」
「しかもそのおっぱい山には三大魔法使いのうちの二人が住んでいるんだぜ。いつも雪が降っている山はジメリ山と言って、魔女ホレが住んでいる。そしていつも緑が青々と茂っている山はゼムジ山と言って、魔法使いリンクランクが住んでいるんだ。どうだ勉強になったろ」
「そうだったんだ。だから町の人たちは、あそこに近づくなって言っていたのね」
「そうだよグレーテル」プフリームが言った。「二人の魔法使いが住み着いたせいで、おっぱい山は魔境と化している危険な場所だ。絶対に近づいてはいけないよ」
「うん」グレーテルはうなずいた。「でも近づいちゃダメと言われたら、行きたくなるわ」
「だめよグレーテル」マルタがグレーテルの頭に手を置いた。「本当に危ないんだから」
フェレナンドがくすくすと笑った。
「グレーテルは好奇心が強いんだね。じゃあこういう話は好きかな」そこでしばし間を取ると、声を落とし語り始める。「これはお城の人たちから聞いた話なんだけどね、お城の地下にはとても恐ろしい魔物がいてね、夜な夜な不気味なうめき声をあげているんだとさ」
「何それ!」グレーテルは興味津々といった様子だ。「どうしてお城に魔物がいるの?」
「噂によるとね、王様が地下にとてつもない宝物を隠していてね、それを守るために魔物を飼っているって話なんだよ」
「宝物!」グレーテルの目が輝きだした。「いったい何だろ? 私見てみたい」
「こらこらグレーテル。お宝が見たくてお城に忍び込んで、万が一見つかりでもしたら大変な事になるぞ」
そう言ったハンスルの目は、グレーテル同様輝いていた。
「あきらめな」
「そうだぞグレーテル。それにお城の地下に魔物が住み着いているなんて、ほら話に決まっている」
そう言ったプフリームの目も輝いていた。
「あんまり本気にしちゃダメだぜ」
グレーテルは口を尖らせた。
「なーんだ、つまんないの。ただの作り話か。……でもでも、もし本当にお城の地下に宝物があったら、それはいったい何だろうな?」




