第四幕 第十二場
おっぱい王国の城下町にある酒場を尋ねる二人の男と一人の女。それは靴屋のプフリームに青い瞳の騎士ゲオルク、そして魔女ホレだった。
「お客さんまだ準備中だよ」
そう言ってカウンターに座っていた女が入り口に顔を向けた。それは町娘の格好をした酒場の看板娘マルタだった。
「日が暮れてから来てちょうだい」
「やあマルタさん」
プフリームが愛想良く笑った。
「ちょっとだけここで休憩させてもらってもいいかな?」
「なに勝手な事を言ってるんだよ。まだ開店してないのよ」
「無茶を言って誠に申し訳ない」
そう言ってゲオルクがマルタに向かって歩き出す。
「ご迷惑はかけないし、後でお金も払おう」
マルタの目の前で立ち止まると顔を近づけた。
「どうかここで、しばらくの間休ませてもらえないだろうか?」
マルタはきびしい顔つきでゲオルクを見つめると、小声で言った。
「ちょっとあんた、こんな時にいったいどこで油を売っていたのさ? それでも巨乳派の騎士なの」
「すまない」ゲオルクも小声で答える。「込み入った事情があってだな、帰って来るのが遅くなってしまった。後でシュルツ様にも謝らなければ」
マルタは小さなため息をついた。
「そんで、巨乳姫様は見つかったの?」
「いやまだだ」
ゲオルクはそこで言葉を切ると、入り口に立つホレを顎で示した。
「だがあのご夫人が巨乳姫様捜索に力を貸してくださる。だからここを使わせてくれ」
「こんな酒場でやらなくても、お城の空いている部屋でも使えばいいじゃない」
「貧乳派のヤツらが妨害するかもしれん。ここが一番だ」
「ったく、わかったよ」
マルタがホレを一瞥する。
「そんであのご夫人は何者なんだい?」
「魔女だ」
マルタが思わず吹き出した。
「あんた頭がおかしくなったのかい?」
「冗談ではないぞマルタ。わざわざおっぱい山のジメリ山からお連れしたのだ」
「どうして魔女が巨乳姫様の捜索を手伝うのさ。うさんくさい。あんた騙されていない?」
「安心しろ。その時はすぐさま切り捨てる」
「……わかったよ」
そう言うとマルタは立ち上がる。
「好きにしな。ただし店が開店するまでの間だけだからね。飲み物ぐらいサービスしてやるよ」
カウンター奥へと消えていく。
ゲオルクは入り口に立つ二人に向き直る。
「話はつきました。さあさあ座りましょう」
プフリームにゲオルクにホレ、三人はテーブルについた。そこへマルタがジョッキに入った飲み物をテーブルの上に置くと、きびすを返す。
「ちょっと待ちなお嬢ちゃん」
ホレがマルタを呼び止めた。
マルタが振り返る。
「なにかしら?」
「この店にはコンパスはあるかい?」
「コンパス?」マルタは肩をすくめる。「そんなもんうちにはないよ」
「そうかい。それじゃあ針と糸でいいよ。貸してくれないかしら?」
「悪いけどそれもないね」
「あ、ホレおばさん」
プフリームが懐から針と糸を取り出し、テーブルの上に置いた。
「よかったら使ってくださいよ」
「おやおや気が利く男だね」
ホレは針と糸を手にする。
「どこかのお嬢ちゃんとは大違いだ」
「さすがプフリーム」
ゲオルクが誇らしげに言った。
「俺が見込んだ男だけあるな」
「大げさだなみんな」
プフリームは照れながら頭をかいた。
「靴屋だから、たまたま持ち歩いていただけだよ」
マルタがむっとした表情でテーブルに座る三人を見据える。
ホレは糸を適当な長さに切ると、それを針にくくりつけた。
「ブリックレーブリット」
その瞬間、針は天井を目指して飛んでいく。糸がぴんと張り、針を空中で静止させた。
「……魔法だ」
マルタが目を見開いた。
「……本当に魔女だわ」
「お嬢ちゃん、このことは内緒にしておいてよ」
ホレはマルタに微笑む。
「さてさて始めようか。マンスロートを指し示せ、ブリックレーブリット」
天井を指し示していた針がゆっくりと動きだし、店の入り口を指し示したところでぴたっと動きを止めた。
すると新たな来客者が現れた。それは仕立て屋のハンスルにローブを羽織った巨乳姫マンスロートだった。マンスロートはフードを目深にかぶり顔を隠している。
「よおマルタ」
ハンスルが言った。
「すまないけど連れが気分が悪いって言うもんだからさ、ここでしばらくの間休ませてくれない?」
「いつからここは休憩所になったのさ」
マルタが不機嫌そうに言った。
「いいじゃないかマルタ」
ハンスルはテーブルに座る三人を手で示す。
「ほらすでに休んでいる人だって……」
テーブルに座るゲオルクに気がつき、悲鳴を上げる。
「ど、どうしてこんなところに、ってあれ?」
次いでプフリームに気がつく。
「プフリームなにやってんだよこんなところで。しかもそいつと一緒に。どうなってんだ?」
「やれやれうるさい人だね」
そう言ってホレが入り口に立つ二人に顔を向けた。
「……お母様?」
マンスロートはホレを見て驚愕する。
「信じられないまさかお母様なの?」
ホレは立ち上がるとマンスロートをまじまじと見つめる。
「まさかあんた」
「お母様私です」
マンスロートはフードを外すと叫んだ。
「あなたの娘マンスロートです!」
ホレは立ち上がるとにっこりと笑いかける。
「大きくなったねマンスロート」
マンスロートはホレに抱きつき、ホレはマンスロートの頭をやさしくなでた。




