第四幕 第九場
おっぱい王国のお城の玉座の間では、シュヴァンツ王国王子ローラントを待ち構える王様が、その顔に緊張の色を浮かべていた。それは隣に立つ巨乳姫マンスロートに変装した鵞鳥番の娘リーゼルも同じだった。リーゼルは緊張し手を震えさせる。
「大丈夫」王様が言った。「落ち着いてやればいい。私らも協力するから心配するでない」
リーゼルはその言葉を聞いて大きく深呼吸する。
「……はい。わかりました」
しばしの沈黙が訪れた。玉座の間に集う臣下達の間にも緊張が走る。
そしてその時がやってきた。玉座の間の扉が開き、シュヴァンツ王国の王子ローラントが姿を現した。ローラントの両隣には、おっぱい王国の大臣二人が立っている。
「王様」太った大臣シュルツが言った。「シュヴァンツ王国第二王子ローラント様をお連れしました」
「さあローラント様」やせた大臣ミハエルが言った。「前へお進みください」
「二人とも、ここまでの案内ご苦労だった」
ローラントは礼を述べると王様の元へ歩を進める。
玉座の間に集う人々の緊張がより一層高まる。王様とリーゼルは緊張のあまりつばを飲む。
ローラントは、王様の座る玉座からやや離れたところで立ち止まると頭を下げた。
「おっぱい王国国王フリーダー様、そしておっぱい王国王女マンスロート姫様、お初にお目にかかります。わたくしシュヴァンツ王国の第二王子ローラントにてございます。このたびは御二方にお会いできて大変光栄でございます」
そう言うとにっこりと笑いかける。
王様は咳払いをした。
「王子ローラントよ。このたびは長旅ご苦労であった。この私、おっぱい王国国王フリーダーも、そなたにあえてとても嬉しく思っている。そして何よりもここにいる我が娘マンスロートと結婚し、このおっぱい王国に繁栄をもたらす新たな王として祝福したい」
ローラントは再び頭を下げた。
「お褒めのお言葉ありがとうございます、フリーダー様」
王様はリーゼルに顔を向けると静かにうなずいた。
リーゼルは同意のうなずきを返すと、ローラントを見据える。
「初めましてローラント様。わたくし、おっぱい王国王女マンスロートでございます。わたくしも、あなた様にあえて本当に光栄でございます」
「私もあなたにあえて光栄ですわ、ローラント王子様!」
突如として、玉座の間に響いたその大声には怒気が含まれていた。
何事かと、玉座の間にいた人々が声のした方に顔を向ける。すると玉座の間の明け放たれた扉のところに、黒いドレスを着た貧乳姫マレーンが立っていた。その側で二人の大臣があたふたとしている。
「な、な、何をしているマレーン!」王様が焦りだす。「お前は部屋で大人しくしていろといったではないか」
マレーンがにやっと笑う。
「私が大人しくあなたの命令に従うとでも思ったの?」
「いったいキュルトヘンは何をしているのだ」
王様は声を荒らげた。
「キュルトヘンなら私のベッドで寝ていますよ」
「貴様、キュルトヘンに何をした。あやつには——」
「あんな子供に私を押し付けて恥ずかしくないの。私をどうにかしたいのなら、昔みたいに力づくで監禁すればいい」
マレーンは右腕を伸ばし、手のひらを王様に向けた。
「だけど今度は黙って拘束なんかされないわよ。やれるものならやってみなさいよ」
王様は苦りきった表情を見せた。
「何が目的だマレーン」
「私はただシュヴァンツ王国の王子様に挨拶がしたいだけですよ。もし断ったら、このおっぱい王国を滅ぼしてやろうかしら。そしたらいっぱいいっぱい人が死んじゃうよ。それでもいいのかしらお父様?」
ローラントはマレーンを見ると王様に尋ねる。
「フリーダー様。あのお方は?」
王様は嫌々ながら紹介する。
「……私の娘だ。名はマレーン。マンスロートの妹だ」
「マンスロート姫様に妹が」
ローラントは驚いた様子だった。
「初耳でございます」
「よろしくねローラント王子様、いえローラントお義兄様」
マレーンはそう言うとローラントに向かって歩を進める。
「私はおっぱい王国第二王女マレーンです。私は長い間、お父様の命令で外国に留学していたので、あなたが知らないのは無理もありませんわ」
ローラントの目の前で立ち止まると微笑む。
「以後、お見知り置きを」
ローラントがマレーンをじっと見つめる。
「あなたがおっぱい王国の第二王女という話は、本当ですか?」
マレーンはうんざりといった様子でため息をついた。
「ローラント様、お父様と私の話を聞いていましたか。私はまぎれもなく、このおっぱい王国第二王女マレーンですよ」
「そうでしたかマレーン姫。これは大変失礼しました」
ローラントはさみしげな笑みを浮かべる。
「そして先に謝っておきます。ご無礼大変申し訳ない」
「先に謝る?」マレーンは顔をしかめる。「いったいなんの——」
ローラントの平手がマレーンの頬を力強く叩いた。
王様が驚愕し、リーゼルは大きく口を開ける。玉座の間にいた人々はざわつき始めた。
マレーンがローラントをにらみつける。
「何のつもりだ貴様」
「マレーン姫様」
ローラントは哀れみの目でマレーンを見つめる。
「あなたもこのおっぱい王国の王女ならば、自分の国を滅ぼすなどと二度と口にしないでいただきたい。ましてや国を滅ぼし、人が死ぬことを喜ぶような言動、私には見過ごす事ができませんでした」
「あんなの売り言葉に買い言葉だ。いちいち真に受けるな」
ローラントの平手が再びマレーンの頬を力強く叩いた。
マレーンが頬を押さえる。
「貴様またぶったな!」
「よく聞いてくださいマレーン姫様。あなたがたとえ本気で言っていなくとも、それを聞いた臣下や国民はあなたの言葉をどう受け取ると思います。それが嘘だとしても、みなはあなたの言葉に踊らされることになる。もっとご自身の立場を理解し、その発言にお気をつけ下さい」
マレーンは顔を真っ赤にして言い返す。
「この私を馬鹿にするな。そのくらいわかっているわよ。何当たり前の事をカッコつけて言ってるのよ。調子に乗らないでちょうだい。どうせあんたなんか、お姉様の巨乳姫という評判を聞いて結婚しにきたドスケベ野郎のくせに」
玉座の間がどよめき、みながあたふたし始めた。
しかし罵られた当の本人であるローラントは怒ろうともせず、逆に楽しそうに笑っている。
「なにがおかしい貴様!」
マレーンがローラントに問いただす。
「じつはですね、ここに来る途中、今のマレーン姫様と同じ事をとある女性から言われましてね、それを思い出して笑っているのですよ。面白い偶然ですね」
「誰だそいつは?」
「さあ」ローラントは首を横に振る。「名前は聞いていませんし、顔もフードで隠れていたので見ていません。ですがわかっている事が一つだけあります。それはあの女性もあなた様も、マンスロート姫様の事を大切に思っていらっしゃる。そうでしょマレーン姫様?」
マレーンは鼻を鳴らした。
「ふん、そんなのあたり前だ。私にとって大切な人は、愛すべき人はお姉様しかいないのだからな」
「そのようなさみしい事を言わないでくださいマレーン姫様」
ローラントはにっこりと笑いかける。
「この僕を愛してくださってもいいのですよ。僕もあなたを愛しましょう。あなたのお姉様の夫として。この国をおさめる王として。そしてなによりも一人の男として」
マレーンは真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせて声を裏返す。
「な、な、な、何を言っているのよ。だ、誰があんたなんかを愛するもんですか」
突然の事に動揺し、挙動が怪しくなる。
「そんなにお顔を真っ赤にさせるとは、まだ僕の事を怒っているのですね」
ローラントはマレーンの頬に自分の手をあてる。
「まだ痛みますか。もし僕の事が許せないというのならば」
そう言うとマレーンの手を取り自分の頬にあてる。
「僕を二度ぶってください」
「や、や、やめろ」
マレーンはローラントの手を振りほどくと背を向ける。
「だ、だ、誰があんたのことなんか……愛するものか……」
そこで言葉を詰まらせると、勢いよく走り去って行く。
マレーンが玉座の間から出て行くと、リーゼルはその場にへたり込む。
「心臓に悪いわ」
王様は額に浮き出た汗を拭った。
「生きた心地がしなかったわい」
ローラントは二人に向き直ると言った。
「フリーダー様。マンスロート姫様。僕はこれにて部屋にもどって休みたいと思います。後ほどの食事会でまたおあいましょう」
こうして王族達の初顔合わせは、無事に終える事ができた。




