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第四幕 第六場

 おっぱい王国の城下町にある酒場は、夕方からの営業なので昼過ぎの今現在は開店しておらず、普段なら店の中には誰もいな。しかしこの店の看板娘であるマルタがカウンターに座っている。その格好はバニーガール姿ではなく、ごく普通の町娘の格好だ。


 そしてその隣に座る長い外套を着た太った男。それはおっぱい王国の大臣シュルツだった。


「依然として巨乳姫様は見つからない」太った大臣が言った。「そちらはどうだ?」


 マルタが答える。

「それとなく酒場やってくる人間に聞き込みをしていますが、なんら手がかりはありません。丸二日も行方不明でその手がかりすらないというのならば、やはり何者かに誘拐されたと見て行動した方がよいのではありませんか、シュルツ様」


 太った大臣は気難しげな表情で唸る。

「やはり貧乳派の仕業か」


「おそらくそうではないかと。巨乳姫様がシュヴァンツ王国の王子と結婚し、この国のお妃になるのを妬んでの誘拐でしょう。貧乳派のヤツらめ。そんなことすれば結婚がご破談になり、シュヴァンツ王国と戦争になりかねないというのに、どういうつもりなのでしょうね?」


「じつはなマルタ。つい先日、亡くなられていたと思われてたおっぱい王国第二王女のマレーン姫様が見つかった。どうやらマレーン姫様は長年の間、地下に監禁されていたらしい」


「なんですって!」

 マルタが驚き顔を太った大臣に向ける。

「マレーン姫様が生きていた。いったいどういう事なの? 王様はどうして地下に監禁なんかしていたの?」


 太った大臣は首を横に振った。

「王様がどうしてそのような事をしたのかわからん。真意を問いただしても答えてはくれなかった。だがそんなことは些細な問題にすぎん」


「シュルツ様、それはどういう意味でしょうか?」


「見つかったマレーン姫様は貧乳なのだよ。それも恐ろしいほどの貧乳だ。しかも自ら貧乳姫と名乗っている」


「ひ、貧乳!」

 マルタは自分の大きな胸に手を当てた。

「私たち巨乳派が忌むべき存在である貧乳なのですね」


「ああ、そうだ。我々巨乳派にとって、貧乳姫マレーン様は存在はやっかいだ」


 マルタははっとした表情になる。

「シュルツ様。巨乳姫様が失踪してすぐの貧乳姫の出現。あまりにもタイミングがよすぎませんか」


「まさか貧乳派のヤツらめ。いなくなった巨乳姫様の代わりに、貧乳であるマレーン姫様を結婚させるつもりなのか。そうなってしまえば、このおっぱい王国は貧乳姫がおさめるみすぼらしい国となってしまう」


「貧乳派のヤツらめ。汚い事を思いついたものだわ」


「これは由々しき事態だよマルタ。早く巨乳姫様を見つけ出さねば」


「でもシュルツ様。今は王様の命令で、鵞鳥番のリーゼルを巨乳姫様の身代わりとして変装させているですよね。それならば貧乳派の思い通りにはいかないのでは?」


「ヤツらのことだ。鵞鳥番リーゼルの変装をバラしかねない」


「ありえそうな話ですね。そうなる前に、なんとか対策を練らないと……」


 束の間、重い沈黙が訪れる。


「……そういえばシュルツ様」

 マルタが口を開いた。

「前回報告しました、ティーア劇団の座長クレープスについてですけど、昨夜もまたこの店を訪れとんでもない事をしゃべりました」


「それはなにかね?」


「あの男、おっぱい王国で今でも巨乳派と貧乳派が争っている事を知っていました。それどころか、巨乳派のリーダーがシュルツ様だと言う事も知っていました」


 太った大臣の顔がみるみる険しくなる。

「やっかいヤツだな」


「はい。ですがあの男、貧乳派のリーダーがミハエル大臣だということを教えてくれました」


「なんだと!」

 太った大臣は思わず声を荒らげた。

「あのミハエルが貧乳派のリーダーだったのか。あのガリガリめ、どおりで貧乳姫を引っ捕らえようとした時、私を止めたわけだ」


「シュルツ様。私はクレープスのことを貧乳派の工作員だと思っていたのですが、自ら貧乳派のリーダーを暴露するとはいったいどういう魂胆なのでしょうか」


「マルタよ。お前の話では、ティーア劇団が演劇の最中にシュヴァンツ王国の王子もろとも、おっぱい王国の王族達を暗殺しようとしているとの事だったな」


 マルタはうなずく。「はい。その通りです」


「もしそうなれば、王子を殺された事を理由に難癖をつけてシュヴァンツ王国が攻め込んで来るのは目に見えている。いくら貧乳派といえども国を危険にさらすようなマネはしない」


「それではあの男は何者なんでしょうか」


「君の報告を受けて、クレープスの素性を洗ったよ。そしたら驚くべき事がわかった。あの男旅芸人のように国から国へと渡り歩いているが、その出身国はシュヴァンツ王国なのだよ」


「あいつ!」

 マルタがくやしげな表情になる。

「貧乳派の工作員ではなく、シュヴァンツ王国の工作員だったのね。やっぱり昨日、無理矢理にでも毒入りビールを飲ませて殺すんだった」


「シュヴァンツ王国は第二王子ローラントを生け贄に、この国に戦争を仕掛けようとしている。これは非常にまずい状況にある。巨乳派と貧乳派とシュヴァンツ王国の三つ巴の戦いだよ」


 マルタが苦笑する。

「これじゃあまるで、昔の争いを再現しているみたいじゃない。そういえばあのクレープスの演劇もこの争いをやるんだったわ。なんていう偶然、いやわざとか」


「だが昔のように巨乳派と貧乳派が手を取り合う事はない」

 太った大臣が立ち上がった。

「そろそろシュヴァンツの王子が城に来る頃だ。私は城にもどり対策を練る。マルタよ、私からの命令があるまでは勝手な行動は慎むように」

 そう告げると酒場から出て行った。


 一人酒場に残されたマルタはつぶやいた。

「それは約束できないわ、シュルツ様」

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