第四幕 第四場
おっぱい王国の城下町の大通りを進む馬車の列に、それを挟み込むようにして追随する馬に乗った騎士達。それはシュヴァンツ王国からやってきた一団で、その先頭を走る豪華な装飾を施された馬車の中に、シュヴァンツ王国第二王子のローラントが乗っていた。
おっぱい王国の人々はそれを見ようと大通りの端を陣取り、たくさんの人だかりをつくっている。その人だかりに混ざるようにして立っている二人の男女、それはフード付きのローブを羽織った巨乳姫マンスロートに、手首を鎖の錠で拘束された仕立て屋ハンスルだった。
マンスロートはフードを目深にかぶり、馬車が来るのを今か今かと待ち構えている。
「こんなところで何するんですか?」ハンスルが訊いた。
「ローラント王子を見るために決まっているでしょ」
「そんなのお城に戻ってから見ればいいじゃないですか。どうして野次馬みたいなマネして、こんな所で待つんですか」
「うるさいわね。静かにしなさいよ。それに——」
人々の歓声があがり、マンスロートの言葉をかき消した。
二人が大通りに目を向けると、こちらにやってくる馬車の一団が見えてきた。その先頭にはひときわ目立つ豪華な馬車が、後続を牽引するかのようにゆっくりと走っている。馬車は屋根付きで、そのドアは閉ざされており、窓にはカーテンがかかっていた。
「あれじゃあ、中の様子がわからないじゃないか」
ハンスルが不満げに言った。
「残念ですけど姫様、王子様を見る事はできませんぜ」
「予想通りよ。だからあんたをここに連れてきたの」
「へ?」
馬車の一団が二人の前へとやってくる。
「それじゃあがんばってね。ハンスルさん」
マンスロートはハンスルの背中を力強く押し、大通りへと突き飛ばした。
突き飛ばされたハンスルは、手首を背中で拘束されていたためバランスを取る事が出来ず、大通りの真ん中へと転んでしまう。
そこへやってくる馬車の一団。ハンスルに進路を妨害されたため先頭の馬車が止まると、後続の馬車も次々と止まる。
「貴様何のつもりだ!」
先頭馬車の御者が怒鳴った。
「この馬車の中にシュヴァンツ王国の王子が乗っていると知っての行動か! だとしたら貴様ただではすまんぞ!」
「ち、違うんだ。俺はそんなつもりはない」ハンスルが必死に弁解する。
集まっていた人々がざわめき始めた。
馬車の列に付き添う護衛の騎士達が馬を下り、ハンスルのもとに集まりだす。騎士達は剣を抜き、その切っ先をハンスルに突きつける。
「貴様なにゆえ、我らの行く手を阻んだ!」騎士の一人が言った。
「つまらぬ理由なら切り捨てるぞ」別の騎士が言った。
「待て!」
そう叫んで、先頭の馬車から一人の青年が飛び降りた。その青年の顔立ちは眉目秀麗で、金髪の髪は太陽の光を受けきらきらと輝いている。青年は王族然とした絹ずくめの格好で、頭には王冠をかぶり、その背中にはマントを装着している。
突然の美青年の登場に、大通りの端に集っていた女性達から黄色い声があがった。
「その者に危害を加える事はこの僕が許さん」
美青年がそう言ってハンスルに歩み寄る。
騎士達がみなひざまずいた。
「かしこまりました。シュヴァンツ王国王子ローラント様」
美青年の正体が知れた瞬間、人々の間から感嘆の声と、女性達のよりいっそう大きな黄色い声があがった。
美青年のシュヴァンツ王国王子ローラントはハンスルのもとにかがみ込む。
「私の臣下達があなたを驚かせてしまった。大変もうしわけない。シュヴァンツ王国王子として謝ります」
ハンスルは慌てふためく。
「こ、こちらこそ申しわけ、な、ないです」
「おやおや、どうしたのですかそれは」
ローラントはハンスルの鎖で拘束された両手首を見つめる。
「いったい誰がこんな酷いマネを」
ハンスルはマンスロートを横目で見る。マンスロートはこちらを鋭くにらみつけていた。
「こ、これはですね、そ、その、あの王子様、えーとですね」
ハンスルの顔には汗が浮かぶ。
「なるほど。理由がしゃべれないほど事情が込み入っているのですね。ならばあえてその理由は問いただしません」
ローラントはそう言うと立ち上がる。
「誰か私に剣を」
騎士の一人がローラントに剣を差し出した。
ローラントは剣を受け取るとハンスルに言った。
「後ろを向いてください。その鎖を断ち切ります」
「え、ええ!」ハンスルは躊躇する。「そんなことして、もし手元が狂いでもしたら」
ローラントはハンスルを安心させようと笑顔を見せる。
「大丈夫です。僕を信じてください」
その笑顔にほだされたハンスルは。言われた通りローラントに背中を向けた。
ローラントは剣を掲げた。
「動かないでくださいよ」そう言うと剣を振り下ろす。
振り下ろされた剣はハンスルの両手首のわずかな隙間を通って、鎖の錠を断ち切った。
ハンスルは両手首を顔の高さに掲げると、驚いた表情で言った。
「すげえ。すごすぎる。この鎖を剣でいとも簡単に断ち切るなんて、天才だこの人は」
集った人々から拍手と歓声が沸き起こった。
ハンスルはローラントに向き直ると深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。ローラント王子様」




