第三幕 第十六場
月が高く昇る頃、おっぱい王国のお城に付設された厩舎から、一頭の馬が出てきた。それは白馬のファラダだった。
ファラダは音を立てぬよう忍び足で近くにある木に歩み寄ると、二本の後ろ足で立ち上がり、小便をし始めた。
「まいったね〜。夜は冷えるな……ん、あれは?」
ファラダから少し離れたお城の陰で、なにやらひそひそ話をする怪しい人影が二つ。それは馬丁のフェレナンドとやせた大臣ミハエルだった。
「なにやってんだあいつら、こんな夜中に」
気になったファラダは、暗闇にまぎれながらそっと二人に近づくと、聞き耳を立てた。
「それにしても王様が身代わりを用意するとは、予想外でしたね」フェレナンドが言った。
「まったく、あの鵞鳥番の女のせいで計画が狂ってしまった」
やせた大臣は腹立たしいといった様子だった。
「せっかく魔法使いリンクランクをそそのかせて、あのいまいましい巨乳姫をさらわせたというのに」
「大丈夫ですよミハエル大臣。我々にはまだ貧乳姫という切り札があります」
「そうだったな。それにしても王様も人が悪い。マレーン姫様を死んだものとし、人知れず地下に監禁していたとは。あんな立派な貧乳はめったにお目にかかれないというのに」
「おそらく王様も巨乳派なのでしょう。だから胸の育たなさそうなマレーン姫様を地下に閉じ込めた」
フェレナンドは顔をしかめる。
「我々貧乳派にしてみれば堪え難い屈辱」
「やはり巨乳派は横暴だ」
やせた大臣は拳を握りしめた。
「ヤツらは自分達巨乳派が絶対的優位な立場にあると思い上がり、我々貧乳派を見下している」
「まったくです。我々貧乳派を甘く見ないでもらいた。我々がその気になれば、その情報網を生かし、地下に貧乳のマレーン様が監禁されている事ぐらいすぐにわかる」
「うむ」やせた大臣はうなずいた。「地下に貧乳のマレーン様がいるとわかった時は、泣いて喜んだものだ。しかしどうやって救出すればいいか、それが難しかったな」
「あれには頭を悩ませましたね。でもまあ巨乳姫がさらわれ混乱する城内に、ガセを掴まされた賊が忍び込み、貧乳姫様を解放する。あのシナリオは面白いほどうまくいきましたね」
「まったくだ。仕立て屋のハンスルに靴屋のプフリームはいい道化だったよ。後は巨乳姫が亡き者になり、貧乳姫様がシュヴァンツ王国の王子と結婚してくれれば万事解決だ。そうなれば、このおっぱい王国は貧乳の王女様がおさめる国となる」
「そうなったら巨乳派の大臣シュルツは泣いて悔しがりますよ」
二人は声をそろえて笑った。
「人間ってのはめんどくせえ生き物だぜ」
ファラダはぼそっとつぶやいた。




