第三幕 第十四場
夜の帳が下り、おっぱい山の麓に広がる森は暗闇に包まれていた。そんな暗闇の森の中で、たき火を囲んで座る二人の男女の姿があった。それは仕立て屋のハンスルに肌着姿の巨乳姫マンスロートだった。
マンスロートの手首には依然として鎖の錠がはめられており、伸びる鎖の先は頭上にある木の枝に結ばれていた。そのためマンスロートは洞窟にいたとき同様、腕を掲げるようにして拘束されている。
「どうして巨乳姫様とあろう方が、あんな洞窟に監禁されていたんだ?」
ハンスルが訊いた。
マンスロートは腕を引っ張り、木の枝を揺らす。その度に大きな胸が揺れた。
「そんな事よりも、この鎖を早く外しなさい」
「話してくれたら外してやるぜ」
「卑怯者め!」マンスロートはハンスルを罵る。「人が気絶している間に、こんなところに縛り付けるなんて最低だわ」
「ぐだぐだ文句言ってないでしゃべってくださいよ、巨乳姫様」
「巨乳姫と呼ばないで。私の名前はマンスロートです」
「はいはいわかりました、マンスロート姫様」
ハンスルが棒読み口調で言った。
「俺の名前はハンスルです。あなたが捕まっていた理由を教えてくれませんか?」
「しゃべったら本当に外してくれるの」
マンスロートが再び木の枝を揺らし、胸を揺らす。
「お約束しますよ姫様」
「……わかった話すわよ。話せばいいんでしょ」
マンスロートは不承不承といった様子で語り始める。
「私がシュヴァンツ王国の王子と結婚するの知ってる?」
「ああ、知ってるよ」
「私ね、その結婚が嫌で嫌で逃げ出したいと自分の部屋で嘆いていたら、あの醜い小人が現れてさらわれてしまったのよ。そして気づいたらあの洞窟の中に監禁されてた。ただそれだけの事よ」
言い終えると、マンスロートは木の枝と胸を揺らした。
「さあ、これを外してちょうだい。今すぐ」
「悪いがそいつはできない」
「はあ!」マンスロートが苛立った声をあげた。「ふざけないでよ。約束を守りなさいよ」
「お前こそ守れよこの国を」
「言っている意味がわからないわよ」
「一国の王女としての立場を理解しろってことだよ」
「ますます意味がわかならいわ」
マンスロートは枝と胸を激しく揺らす。
「早く外してよ」
「困ったお姫様だ」
ハンスルは立ち上がるとマンスロートに歩み寄った。
「おっぱい王国の王女のくせに、シュヴァンツ王国の王子と結婚する事が不満だなんて言いやがって。あげくの果てには逃げ出したいだと。ふざけやがって」
蔑んだ目でマンスロートを見下ろす。
「好きでもない人と結婚するのは嫌に決まっているでしょ。あなただってそうでしょ?」
「ああ、そうだ。好きでもないヤツと一緒になるなんて考えられねえよ」
「だったらどうして文句を言うのよ」
「俺とあんたじゃあ、立場が違うからだよ。俺は庶民であんたはお姫様だ。あんたら王族が毎日うまいもん食って贅沢できるのは誰のおかげだ」
ハンスルはそこで一呼吸間を置いた。
「俺たち庶民が毎日汗水流して働いて税を納めてるからだろ。でもまあ、そのことについて文句を言うつもりはない。それはあんたらの特権だからな」
「だったら文句を言わないでよ!」マンスロートが怒鳴った。
ハンスルが怒鳴り返す。
「だったら不満を言わずにシュヴァンツ王国の王子とおとなしく結婚しな! それはあんたら王族の義務なんだよ。てめえはこの結婚の意味がわかってんのか。長年争いの火種を抱えていた両国が和平を結ぶってことだ。それはつまり、この国から一つの戦争の脅威が消え、平和が強固になるってことなんだよ」
マンスロートは反論せず、黙ってうつむいた。
「もしあんたが逃げ出したらどうなる」ハンスルの説教は続く。「相手国のシュヴァンツ王国は戦争を仕掛けるだろうさ。恥をかかされたと言ってね。そうなったらたくさんの人が死ぬ。あんたの身勝手な行動でな」
マンスロートは声を震わせて言った。
「……私だって好きで王族に生まれたんじゃない」
「同情はしねえぞ。俺だって好きで庶民に生まれたわけじゃねえからな」
マンスロートの頬に一筋の涙が流れる。
「そんなの理不尽よ」
「理不尽だろうがそれがお前の運命だ」
ハンスルは懐から細長い針金を取り出すと、マンスロートの手首に掛かった鎖の錠の鍵穴をいじり始めた。
「あきらめて受け入れな」
ハンスルはマンスロートの手首から鎖の錠を外すと、自分が羽織っていたフード付きのローブを脱いで、マンスロートの背中に掛けてあげた。
「でもまあ、そんなに逃げ出したいというんなら、俺が連れ出してやるよ。姫様が何者かに誘拐されたとなれば、シュヴァンツ王国も文句は言えまい」
ハンスルはやさしく微笑む。
「ハンスルさん!」
マンスロートは立ち上がると、ハンスルにがばっと抱きついた。
ハンスルは照れ笑いをする。
「俺みたいな男には惚れるなよ。もっとちゃんとした——」
マンスロートは雄叫びとともにハンスルを勢いよく持ち上げると、そのままのけぞりハンスルの頭を地面へと叩き付けた。ハンスルはその衝撃で気絶してしまう。
マンスロートは立ち上がり、蔑んだ表情でハンスルを見下ろした。
「賊の分際で調子こいて説教してんじゃねーよ。クズが」
ハンスルに向かってつばを吐き捨てた。




