第三幕 第十三場
おっぱい王国のお城のとある一室では、巨乳姫マンスロートに変装した鵞鳥番のリーゼルが、夕日で赤く染まる風景を窓から眺めていた。
「お姉様」
そう言って部屋のドアを荒々しく開けたのは、黒いドレスを着た少女だった。少女は長い黒髪を両側頭部で束ねている。フリルを贅沢にあしらった黒いドレスの胸元には、わずかな盛り上がりしか見受けられない。
「えっ?」
リーゼルは黒尽くめ少女を見つめる。
「……誰?」
「お待ちください」
そう言ってやってきた男の子は従者のキュルトヘンだ。
「僕の話を聞いてください」
キュルトヘンが話しかけている相手は黒尽くめの少女だ。
「うるさいわね」
黒尽くめの少女はキュルトヘンを邪険に扱う。
「あんたはついてこなくていいって言っているのに、どうしてついて来るのよ」
「お願いですから僕の話を聞いてください、マレーン姫様」
その言葉を聞いたリーゼルは驚きに声をあげる。
「ええ! あなたマレーン姫様なの!」
黒尽くめの貧乳姫マレーンはため息をついた。
「お姉様ったら、まだ私の事を思い出してくださってないのですね」
心配そうにリーゼルの額に目を向ける。
「頭のお怪我は大丈夫ですか。まだ痛みますか?」
「え、ええ……」リーゼルは額を押さえる。「もう大丈夫よ。それよりもその格好」
「ああ、これですか」
マレーンはドレスのスカートの端を軽くつまみ上げると、その場で回ってみせた。
「どうですお姉様。似合ってますか?」
「ええ、とてもよく似合っていますわマレーン姫様……っじゃなくて、マレーンよく似合っているわ。とてもかわいいわよ」
マレーンはにっこりと笑った。
「ありがとうございますお姉様」
そう言い終えると笑顔がさみしげなものへと変わる。
「……あのお姉様。話を聞きました。なんでもご結婚なさるとか」
リーゼルは目だけ動かしキュルトヘンを見る。キュルトヘンは小さくうなずいた。
「その通りよマレーン」リーゼルはうなずいた。「私マンスロートはシュヴァンツ王国第二王子のローラント様と婚姻を結ぶ事になりました」
マレーンがリーゼルの腕にすがりつく。
「お姉様はそれでいいのですか? 身も知らぬ男と結婚させられるのですよ。それで本当に幸せになれるのですか?」
その言葉を聞いたキュルトヘンが、渋い顔をしてうつむく。
リーゼルはマレーンの肩に手を置くと微笑んだ。
「心配しないでマレーン。私はこのおっぱい王国のために、この国の王女としてその役目を立派に務めてみせるわ。だからそんな悲しい顔しないで」
マレーンは自分の肩に置かれたリーゼルの手を静かに払いのけると、部屋にあるベッドに腰を下ろした。
「お姉様は何も……わかっていない」そう言うとうなだれる。
「マレーン……」
リーゼルもベッドに歩み寄り、マレーンの隣に腰掛けた。
マレーンがリーゼルの手を取る。
「お姉様よく聞いて。お父様はこの国のことしか考えられない人よ。そのためならお姉様の気持ちなんてどうだっていいのよ。この結婚もシュヴァンツ王国と和平を結ぶための政略結婚。お姉様はそのために利用されているだけなのよ」
「マレーン。お父様のことは悪く言わないで」
「お姉様。あいつは自分達の体裁のためだけに、この私を七年もの間、地下に閉じ込めたのよ。その間、あいつは一度たりとも私に会いにきてくれなかった。そんな最低のヤツよ」
「マレーン。いったい何があったの。どうしてあなたは地下に閉じ込められていたの?」
「そ、それは」マレーンは口ごもる。「……言えません」
「どうしても?」
マレーンはうなずくと、リーゼルの偽乳に頭をもたれさせる。
「お姉様には何も知らないで、幸せでいてほしいから言えない。だからこそお姉様、こんな政略結婚なんてやめて自分の好きなように生きてください。国に縛られず、自分の幸せだけを考えて」
リーゼルがマレーンの肩に手を回す。
「ありがとう。私の事を思ってくれているのね」
マレーンはリーゼルにもたれるようにして崩れ落ち、その膝の上に頭を乗せた。
「私にはもう愛せる人はお姉様しかいないの。お母様は死んでしまった。お父様を愛する事は出来ない。だから、私からお姉様を奪おうとしているシュヴァンツ王国の王子が許せない」
「そんなさみしい事を言わないで。あなたにもきっと私以外に愛せる人が見つかるわ」
「そんなの見つかりっこないわよ。だって私は……だからお姉様……」むせび泣き始める。
リーゼルがマレーンの頭をやさしくなでながら、歌を歌い始めた。
「私はかごの中の小鳥 いつか自由になる事を夢見て歌うの
青空が夕焼けへと移り変わり 闇へと変貌していく
私は眠りに落ち 空を羽ばたく夢を見るの
でも夢から覚めれば 私はいまだかごの中
ピイチク ピイチク 私はなんてかわいそうな小鳥なんでしょう」
キュルトヘンが静かに二人を見守っていた。その表情はどこか憂いている様子だった。
「私はかごの中の小鳥」歌が続けられる。「そんな私のかごの扉を開けるのはいったい誰?
優しい顔で私に微笑み 羽ばたけとささやく
私は翼を広げ かごを飛び出し羽ばたくの
夢にまで見た瞬間 私はいまやかごの外
ピイチク ピイチク 私はなんて幸せな小鳥なんでしょう」
リーゼルが歌い終えるとマレーンは寝息を立てていた。
「おやすみなさいマレーン」




