第三幕 第十一場
おっぱい山の年中緑に覆われているゼムジ山。そのゼムジ山にある洞窟の奥では、赤い瞳の騎士ベンヤミンとピエロの格好をした悪魔の小人がにらみ合っていた。
ベンヤミンは剣を構えながら、ゆっくりと後ずさっていく。
悪魔の小人は涼しい顔でベンヤミンを壁際へとじりじり追い詰める。
ベンヤミンが壁を背負う頃、悪魔の小人は壊れたベッドの側で横たわる魔法使いリンクランクの死体に一瞥をくれる。
「あのクソジジイを始末してくれたのはあなたですか?」悪魔の小人が訊いた。
ベンヤミンは重圧に押しつぶされぬよう声を強める。
「俺が来た時にはすでに死んでいた」
「そうでしたか。だとしたらあなたはあのクソジジイの呪縛から、私を解放した恩人ではないということですね。だったらあなたを生かす理由はないですね」
ベンヤミンに戦慄が走る。
「やれるものならやってみろ。俺はおっぱい王国最強の騎士ベンヤミンだ。そうやすやすとやられはせんぞ」
「なるほど。おっぱい王国最強の騎士ですか」
悪魔の小人は両手を広げた。
「でしたら私も全力を持ってあたるのが礼儀というもの。忌々しい呪縛から解放された私の真の姿をおみせしましょう」
悪魔の小人の体が風船を膨らませるかのごとく大きくなっていく。やがてピエロの服を引き裂き、黒々とした禍々しい肉体が姿を現した。悪魔の小人の大きさは、ベンヤミンを軽々と見下ろすほど大きくなり、それはもはや悪魔の小人ではなく悪魔そのものだ。
「おまたせしました」
悪魔は背中に生えた黒い羽を広げた。
「いつでもどうぞ」
ベンヤミンの顔には恐怖の色が浮かんでいる。
「こ、こいつはやべえな」
やにわにベンヤミンが剣を突き出す。悪魔は後ろに飛び退きそれを避けると、着地と同時に地面を蹴りベンヤミンへと飛び込む。ベンヤミンが咄嗟に身を伏せると、その頭上を悪魔の拳が通過する。悪魔の拳は轟音とともに壁をえぐり、洞窟を震えさせた。
ベンヤミンはすぐさま距離を取る。
「なんて威力だ。ありえねえ」
悪魔が壁にめり込んだ腕を取り出すと、その手には壁の残骸であろう大きな石を握っていた。
悪魔がベンヤミンに向かって石を投げる。ベンヤミンは剣の腹でそれをたたき落とすと、目の前にはいつのまにか悪魔がにやけた笑みを浮かべて立っていた。
ベンヤミンがすぐさま剣を突き出そうとしたその瞬間、悪魔の前蹴りが腹にめり込む。ベンヤミンは吹っ飛ばされ、壁に激突し地面へと倒れふすと、動かなくなってしまった。
「たわいもない」
悪魔はそう言うと大きな羽を羽ばたかせて、天井にある抜け穴を通って外へと飛んでいってしまった。




