第三幕 第十場
おっぱい山の年中雪に覆われているジメリ山。それを駆け上る靴屋のプフリームは、青い瞳を持つ騎士ゲオルクに追われていた。
プフリームはつもった雪に足跡をつけながら走り続ける。
「いい加減あきらめろよ!」
「あきらめてたまるか!」
ゲオルクは雪を蹴立てて追いすがる。
そうこうしているうちに、二人はジメリ山の頂上へとたどり着いた。そこはなだらかな雪原地帯で、煙突のついた古めかしい一軒の家が建っていた。
体力の限界に近いプフリームの足は、走るのを拒否する。
「ちくしょうもうダメだ」
古めかしい家の前で倒れると仰向けになり、息を喘がせ白い息を吐く。
ゲオルクは汗を拭いながらプフリームに歩み寄る。
「ようやく追いつめたぞ賊め」
そう言ってプフリームの肩を掴み起こそうと屈んだ瞬間、雪で足を滑らせた。
ゲオルクはあおむけで横たわるプフリームに、のしかかるようにして倒れてしまう。そして不運な事に、ゲオルクの唇はプフリームの唇と重なり合っていた。
数秒の間、時間が凍り付いた。
ゲオルクはきまり悪そうに顔を上げて唇を離した。
「……すまん。わざとじゃないんだ」
プフリームは顔を赤らめて視線をそらす。
「……べ、別に気にしてねえよ。それよりも重いんだけど、どいてくれない」
「わ、悪い」
ゲオルクは立ち上がるとプフリームに手を差し出す。
「立てるか?」
「……ありがとう」
プフリームはゲオルクの手を取り立ち上がった。
二人はしばしの間、無言で立ち尽くしていた。
無言の間に耐えきれなくなった二人が、同時に口を開いた。
「あ、あの……」
二人とも同時に口を閉じ、照れくさそうにもじもじする。
「……あ、あのさ」
プフリームが恥ずかしそうに頭をかきながら言った。
「もしかして、俺にあんな事がしたくて、熱心に追いかけてたの?」
「は、はあ!」ゲオルクは声を大にした。「な、なに気持ち悪い勘違いしてんだよ。俺はあくまでも王国の騎士として、城に侵入した賊を捕まえるためにお前を追いかけただけだ。別にお前のことなんて、なんとも思っちゃいねえよ!」
「だったらどうして俺たちが二手に分かれた時、俺を追ってきたんだよ!」
「そ、それはたまたまだよ! たまたまお前がよかったから、追いかけただけだよ!」
「俺がよかったって、それどういう意味さ! ちゃんと説明してよ!」
「うるさい!」
古めかしい家の扉を開いてそう叫んだのは、黒髪の中年の女性だった。その女性は黒いとんがり帽子に黒いローブを着ており、その姿はまるで魔女のような格好だった。




