第一幕 第二場
おっぱい王国のお城のとある一室では、巨乳姫マンスロートがベッドに泣き崩れていた。
「マンスロート姫様」
そう言ったのは男の子だった。その子はマンスロートの世話をまかされていた従者で、名前はキュルトヘンといった。
「お気持ちはわかりますが、泣くのはお止めになってください。体に毒ですよ」
マンスロートは顔を上げ涙を拭うとベッドに腰掛ける。
「キュルトヘンはいいの? 私が知らない男と結婚しても。きっと私が巨乳姫と呼ばれているのを知って、結婚を申し込んできたのよ。とんでもないドスケベに違いないわ。どうして男ってあんなに女の胸が好きなの?」
キュルトヘンは首を傾げた。「さあ、僕にはまだよくわかりません」
「キュルトヘン、あなたいくつだったっけ?」
「七歳になります」
「それじゃあまだわかんないか……」
マンスロートはそう言うとキュルトヘンを抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
キュルトヘンは突然の出来事にあたふたする。
「あ、あの姫様。いったい何を」
「ごめんねキュルトヘン。今だけはこうさせて」
そう言うとマンスロートはキュルトヘンを抱きしめる。
「こうしていると、とても落ち着くの」
「そ、そうですか」キュルトヘンは顔を赤らめる。
「私はかごの中の小鳥」マンスロートが歌いだした。「いつか自由になる事を夢見て歌うの
青空が夕焼けへと移り変わり 闇へと変貌していく
私は眠りに落ち 空を羽ばたく夢を見るの
でも夢から覚めれば 私はいまだかごの中
ピイチク ピイチク 私はなんてかわいそうな小鳥なんでしょう」
そこまで歌うとマンスロートは鼻歌になり、しばしの間それでリズムをとる。
「私はかごの中の小鳥」再び歌いだした。「そんな私のかごの扉を開けるのはいったい誰?
優しい顔で私に微笑み 羽ばたけとささやく
私は翼を広げ かごを飛び出し羽ばたくの
夢にまで見た瞬間 私はいまやかごの外
ピイチク ピイチク 私はなんて幸せな小鳥なんでしょう」
マンスロートは小さなため息をつくと、窓の外に目を向けた。そこにあるのは二つの大きな山だった。今は春だというのに片方の山だけになぜか雪が積もっている。
キュルトヘンが拍手をした。
「素敵な歌声でした姫様。まるで子守唄のようで、聞いていてとても心地よかったです」
「ありがとう」マンスロートは微笑んだ。「今は亡きお母様から教わった歌なの。小さい頃は妹と一緒にこの歌をよく歌ったものよ」
「……え?」キュルトヘンが惚けた声をあげた。「姫様に妹様がいたのですか?」
マンスロートはさみしげな表情になった。
「昔の話よ。妹は流行病にかかって亡くなってしまったわ。ちょうどあなたぐらいの年頃にね」
「そうでしたか」キュルトヘンの顔が曇った。「それはおつらい事をお訊きしてしまい、誠にもうしわけありませんでした、姫様」
マンスロートは笑ってキュルトヘンの頭をなでる。
「いいのよキュルトヘン。もう七年前の事だし、気にしなくても」そう言うとキュルトヘンをぎゅっと抱きしめる。「だからねこうしていると、妹を抱きしめていた小さい頃を思い出して懐かしいのよ」
キュルトヘンを抱くマンスロートが震えだし、嗚咽する声が漏れだした。
「姫様……」キュルトヘンは言葉を紡げずに口ごもる。
「ごめんねキュルトヘン」マンスロートが弱々しい声で言った。「私すこし眠りたいから一人にしてくれる」
キュルトヘンは立ち上がると、涙で目を赤く腫らしたマンスロートを見つめる。
「わかりました姫様」そう言うと、戸口に向かって歩いていく。ドアを開けて部屋を出て行く直前に後ろを振り向くと、マンスロートが枕を抱きしめベッドで横になっていた。
「おやすみなさい姫様」
キュルトヘンがそう言って部屋を出ると、廊下にはきびしい顔つきの二人の男が立っていた。二人とも腰に剣を帯びている。その二人の男はおっぱい王国で一、二位を争う屈強の騎士だった。
赤い瞳を持つ騎士のベンヤミンが訊いた。
「巨乳姫の様子はどうだったキュルトヘン?」
「ベンヤミンさん、今姫様は落ち着かれて眠っておられます」
青い瞳を持つ騎士のゲオルクが言った。
「それはよかった。巨乳姫様が泣いていると聞いて気が気でなかったのでほっとしたぞ」
「ゲオルクさんにベンヤミンさん。マンスロート姫様の事を巨乳姫と呼ぶのは止めてください。姫様は嫌がっておられますよ」
二人の騎士は互いに顔を見交わした。
「いったいどうしてだ?」ベンヤミンがキュルトヘンに言った。「巨乳姫と呼ばれるのは誉れ高いことではないか」そこでゲオルクに顔を向ける。「なあそうだろゲオルク」
「ああ、そうだとも」ゲオルクは同意のうなずきをする。「これ以上ないというくらいのな。女性の胸をほめたたえるのは男として、騎士としての立派な役目なんだ」
二人の騎士は笑い合うと、その場から立ち去っていく。
キュルトヘンはため息をついて二人の背中を見送る。
「これだからあの二人は腕は立つのに、あたまが回らないと言われるんだよ……馬鹿」




