第三幕 第四場
おっぱい王国の裏手にあるおっぱい山。その麓に広がる森の中で、木の陰に隠れ息を荒らげる二人の男の姿があった。それは仕立て屋のハンスルに靴屋のプフリームだった。
「あいつらしつこすぎるぞ」
ハンスルが息を喘がせながら言った。
「一晩中追いかけてくるとは狂気の沙汰だ。おかげで一睡も眠れやしない」
「ちくしょう、もうお天道様は高く昇っちまってやがる」
プフリームが疲れきった顔で空を見上げた。
「あいつらきっとおっぱい王国最強騎士のベンヤミンとゲオルクだ。あの二人を敵に回したとなっちゃ、非常にまずいぞ。きっと地獄の果てまで追いかけてくるに違いねえ。やばすぎるぜ」
「たしかにやばいな。けどよそれよりも、お城の地下に閉じ込められていた囚人の女の方がやばかったな。今思い出しただけでも身震いしちまう。よく逃げ切れたもんだぜ」
「お前のせいだぞハンスル。女を見ればすぐに胸を揉もうとするから、こんなことになるんだよ。今度あの女に見つかったら八つ裂きにされるぞお前」
「俺だけのせいじゃねえだろプフリーム。お前も一緒になって笑ってたじゃねーか」
「でも胸には触ってませんよーだ」
「そんな言い訳が通じる相手か。あの女、間違いなく——」
「見つけたぞ賊め!」
そう叫んで二人のもとに走ってくるのは、青い瞳の騎士ゲオルクだった。
二人はすかさず立ち上がり走り出す。
「まじかよあいつ」ハンスルが言った。「まだ追いかけてくんのかよ。最悪だ」
「そうでもないぜハンスル。幸いな事に追っ手は一人、俺たちは二人」
「なるほどね」ハンスルがプフリームの言葉の意味を察した。「ハズレても恨むなよ」
「それはこっちのセリフだ」
プフリームはそう言うと、おっぱい山の年中雪が積もっているジメリ山に向かって進路変更をする。
「じゃあな。生きていたらまた会おうぜハンスル」
「あばよプフリーム」
ハンスルはおっぱい山の年中緑に覆われているゼムジ山に進路を変えた。
ハンスルはしばし走った後、後ろを振り返った。すると自分を追ってくる騎士の姿はなく、代わりに泣き叫びながらジメリ山を登るプフリームの姿と、それを懸命に追いかける騎士ゲオルクの姿を見て取った。
「助かった」
ハンスルは地面へと腰を下ろした。
「がんばれよプフリーム。俺はここで生還した喜びを噛み締めておくよ。俺を恨むなよ。恨むなら——」
「見つけたぞ賊め!」
そう叫んでハンスルのもとに走ってくるのは、赤い瞳の騎士ベンヤミンだった。
「ちくしょうふざけんな!」
ハンスルは泣き叫びながらゼムジ山を登っていく。




