第三幕 第三場
玉座の間では突然のおっぱい王国第二王女の出現に一同がざわつくなか、貧乳姫マレーンの側で兵士の下敷きとなっていた、巨乳姫に変装したリーゼルが意識を取り戻した。呻きながら兵士を押しのけると立ち上がる。
「いてて」リーゼルが赤くなった額を押さえがら言った。「いったい何が起こったのよ?」
「お、お姉様!」
マレーンがリーゼルをまじまじと見つめる。
「やっぱりそうだ。マンスロートお姉様だわ」
喜びに満ちた表情でリーゼルに抱きつく。
「会いたかったわお姉様」
「お姉……様?」リーゼルは当惑する。「あなたいったい誰?」
マレーンはマンスロートに自分の顔をよく見せる。
「お姉様。私ですよ。あなたの妹マレーンです」
「えっ? たしかマレーン姫様って昔……流行病で亡くなったはずじゃ」
「お姉様、それはあのクソ親父がついた嘘です。私はこうして生きています」
マレーンは自分の顔にかかった髪の毛を払いのけ、にっこりと笑う。
「ほら、この顔おぼえているでしょ?」
リーゼルは首を傾げると気難しそうに唸る。
「ごめんなさい。わかんないわ」
マレーンははリーゼルの肩をつかみ揺さぶる。
「どうしてよ。どうしてわからないのお姉様。私はマレーンなのよ」
そこで何かに気づき、はっとした表情になる。
「お姉様の額赤くなってますけど、どうなさったのですか?」
揺さぶられた事で微妙にカツラがずれてしまったリーゼルが、自分の額に手を当てた。
「ああ、これね。これはさっき飛んできた兵士とぶつかった時に——」
マレーンが悲鳴をあげた。
「ごめんなさいお姉様。それは私のせいです。私が兵士を吹き飛ばさなければ、こんなことにはならなかった」
再びはっとした表情になる。
「もしやお姉様。兵士と頭をぶつけたせいで記憶が混乱し、私の事がわからないのですね」
「えっと、その」リーゼルは当惑する。「あなたが兵士を吹き飛ばしたの? どうやって?」
マレーンが不意にリーゼルの胸に飛び込み、その偽乳の谷間に顔を埋めた。その拍子でリーゼルの頭から金髪のカツラが落ち、栗色の地毛が姿を現す。だがリーゼルはそのことに気づいていない。
王様をはじめとする一同があせりだした。
マレーンはリーゼルの偽乳の谷間に顔を埋めたまま言った。
「ごめんねお姉様。どうやったのかはくわしく教えられない。お姉様を巻き込むわけにはいかないの。お姉様には何も知らないで幸せでいてほしいから」
言い終えると、がばっと勢いよく顔を上げて王様に向き直る。
その瞬間、リーゼルの着ているドレスの胸元に仕込まれていた布の詰め物が、するすると落ちていく。ドレスの内側を伝って胸からお腹へ、そして股を通り過ぎ床へと落ちた。リーゼルの足下には金髪のカツラと二つの布の詰め物が落ちている。だがしかし、またしてもリーゼルはそのことに気づいていない。
王様をはじめとする一同がよりいっそうあせりだした。
王様に向き直っているマレーンにはリーゼルの異変には気づいていない様子だった。
「お父様。お姉様に私の……私たち家族の秘密を打ち明けてはならない。そうでしょ?」
王様は声を裏返して叫んだ。
「カツラ! カツラ!」
自分の頭を押さえる仕草を繰り返して、リーゼルにジェスチャーを送る。
リーゼルは自分のカツラが落ちている事に気づくと、慌ててそれを拾い、急いでつけ直す。
「お父様何をふざけているのですか!」
マレーンは王様を鋭くにらみつけた。
「カツラカツラって、もしかしてお父様はカツラなのですか? そんな些細な事は私たちの秘密ではないでしょ。わかっているのですか!」
カツラを着け直したリーゼルは決め顔を作り、王様に親指を立てて見せた。その足下には二つの布の詰め物が落ちたままだった。
王様は自分の胸を押さえる仕草を繰り返した。
「胸がない! 胸がない!」
リーゼルは胸の詰め物が落ちている事に気づき、慌ててそれを拾い詰め直すも苦戦する。
「お父様。それは胸がない私を馬鹿にしているのですか!」
マレーンはくやしそうに自分の貧乳に手を当てた。
「私の胸は巨乳姫と呼ばれているお姉様の豊満な胸に比べて貧相ですよ。だからといってこんな衆人環視のもとで、馬鹿にしなくてもいいでしょ……って話が違うでしょうが! 聞いているのお父様、私たちの家族の秘密をお姉様にバレてはいけないんでしょ」
リーゼルは胸に布を詰め直す事がうまく出来ず、胸を押さえるような形で前屈みになる。
王様はそのことをマレーンに気取られぬよう、リズムを取りながら早口でしゃべっておどけてみせる。
「バレてはいけない、急ぐんだ、よ! お前はおっぱい王国、第二王女の、マレーンだ、よ! 姉はマンスロートだ、よ! 決してバレてはいけない胸の宿命なんだ、よ!」
マレーンはいぶかしげな表情になった。
「……わかりました。決してお姉様にはバラしませんわ」
そう言うとリーゼルに向き直る。
「……お姉様何をしているのですか?」
リーゼルは胸を押さえたまま前屈みのままだった。
「きょ、巨乳姫のマンスロートです」
あせるあまりとんでもない失言をする。
「わ、私が巨乳姫なら、あなたは貧乳姫だね」
「ひどいお姉様!」マレーンは泣き出した。「そんなこと言わなくてもいいのに!」
「ち、違うのよマレーン。貧乳姫は褒め言葉よ。私を見てご覧なさい。大きすぎる胸があまりにも重くて、こうしてないと立っているのがつらいんだよ。だから貧乳は素敵なのよ」
「そうだったんですかお姉様」
マレーンの顔がぱあっと輝いた。
「貧乳は素敵なことなんですね。わかりました。私は今日から貧乳姫を名乗りますわ」
「おい誰か」王様がすかさず助け舟を送る。「マレーンのために風呂と着替えの準備をしろ」
小間使いの女達が困惑しながらも、準備のために玉座の間から出て行く。
「おいそこの小僧」
マレーンがそれまで傍観していた巨乳姫の従者キュルトヘンを指差した。
「お前は私の湯浴みの手伝いをしろ。いいな」
「何を言っているのだマレーン」王様が言った。「王女が男の前で裸をさらすとは何事だ」
「いいじゃないですかお父様。まだこの子は色も知らぬ幼い子供。なにを恥ずかしがる必要があのですか」
そう言うとマレーンはきびすを返し歩き出す。
「行くわよ小僧」
キュルトヘンはためらいながらも、後に続く。
王様はマレーンの後ろ姿を見ながらへたり込む。
「どうしてこうも悪い事が、次から次へとおこるんだ。もうこれ以上何も問題が起きなければいいのだが」




